馬車が揺れている。私は窓の敷居の隙間から首都の街並みをぼんやりと眺めていた。
 行き交う人々。どこか背中が丸いのは、疲れているのか、日差しのせいか。

「行儀が悪い」

 そうお母様に言われて、敷居の隙間に指を突っ込むのを窘められるけれど、私は無視をした。

「だって私、この光景を二度と見られなくなるのよ? もう二度と見られなくなる光景をこの目に焼き付けておいて、なにがいけないの?」

 そううそぶくと、お母様はこれ以上なにも言わなかった。
 本日吉日。方士曰くそうらしいが、私は方士の占術はいまいちよくわからない。
 今日、私は家を出て、後宮へと嫁がないといけない。

 ──どうしてこうなった。

 そう胸中で不満を溜め込んでいたものの、仕方がなかった。
 なぜなら、後宮に入るはずだった姉が、逃げ出してしまったのだから。

****

丁香(ちょうか)、丁香」

 その日、私は庭先で剣の稽古をしていた。
 うちは槐国(えんじゅこく)内で手広く商売をやっている家系だけれど、基本的に女しか生まれなかった。しかし遣り手の父は言う。

「いい男がいたら婿にできるし、いなかったら娘に継がせるし、なにも困った問題じゃないよ」

 実際に、うちの美貌の姉は、うちの店を継ぐために日々商売の勉強をしていたし、思い人の使用人を婿に取って頑張るのだろうと思っていたが。
 姉に国から急に話が舞い込んできたのだ。

「長女を後宮に妃として献上するように」

 端的に言ってしまえばそういう話だった。
 姉は半狂乱になった。

「嫌よ……だってあそこ、死んでも出られないじゃない……!!」

 お父様は商売は遣り手であったものの、現皇帝陛下の色ぼけ具合は、さすがに予想していなかったみたいだ。
 槐国の後宮は、女にとっての牢獄とは、この国を生きる女であったら誰だって知っていることだった。
 いわく、一度入ったら出ることはできない。一応親戚が訪問に行くことはできるものの、妃が出られることはまずないのだ。
 いわく、皇帝陛下が死んだ場合、出家させられる。大昔は皇帝陛下の妃は、全員皇帝の道連れで全員生きたまま埋められたらしいが、今はさすがにそこまでと判断されたのか、全員出家させられた挙げ句、後宮内の寺に勤めることになる。
 なによりも問題なのは、現在の皇帝陛下。
 はっきり言って評判がすこぶるよろしくない。
 増税や軍事に傾倒しはじめたのはもちろんのこと、すこぶる色ぼけだという評判で、美女という美女が後宮内に連行されてしまうという。そのせいで、首都では女性は男装してないと生活できないというおかしなことになってしまった。
 かくいう姉も、店を継ぐためにずっと男装していたというのに、どこでばれたのかはわからないけれど、こうして後宮に入らないといけなくなってしまったと。
 気の毒になあ。私はそう思いながら剣の稽古を続けていた。
 男のふりをするために、首都では武道の稽古は推奨されている節すらあった。他にもいろいろあったものの、私には剣の稽古が一番性に合っていたらしく、剣を振るっていた中、父が声を上げた。

「……後宮に召喚が来ていた姉が逃げた」
「えっ」
「本当だったとも。使用人と駆け落ちしたんだよ……他の姉さんたちだって、縁談を切ることはできないし」

 私以外の我が家は、既に縁談がまとまっていた。
 首都が辛気臭いからと、姉たちはこぞって首都以外の治安のいい場所に行ける方法として、縁談で良縁の嫁ぎ先に行きたがったし、実際にお父様の見つけてきた縁談は皆良縁だったのだから、それをわざわざ断る理由がないのだ。おまけに商売に都合がいい縁談先なのだから、それを切ってしまえば、商売の信用問題にも関わる。
 その点、私にはその手の話が全くなかった。いや、あったことにはあったのだけれど。
 首都の現状のせいとはいえど、手にまめができるほど剣の稽古に明け暮れる私を、縁談相手はだいたい嫌がったのだ。

「なんで女がそこまで強くないといけないの」
「女は子供が産めれば充分」

 そんなことばかり言われて、私は縁談相手について「やっていける自信がない」とお父様に伝えて断り続けていた。
 こうしてずるずると残っていたのだから、私にお鉢が回ってきたのだ。

「……えー」
「丁香、そう言うな。うちも跡継ぎ問題が知れ渡ったら揉めるの間違いなしなんだから、せめて後宮の召喚問題くらいさっさと解決したい」
「まあ、ねえ……」

 長姉行方不明により、大商家の跡継ぎが浮いてしまったと知ったら、そりゃ姉婿や姉の旦那が沸き立つだろう。なんたって槐国全域で商売をしている大商家の後継ぎなんだから、商売人としては天下を獲ったも同然だ。
 たしかに家の問題で大変な中、後宮の召喚についてまで長引かせたくはないだろう。
 お父様の気持ちはわかった。しかし、私の気持ちは全く考慮されていない。

「……でも、後宮に入ったら、私一生出られないじゃないですか」
「大丈夫だ、丁香。お前ははっきり言って、醜女じゃないだけで、普通だから!」
「……はあ?」

 実の娘に言う話か。
 たしかに私は姉たちと比べたら腕力はあっても華は全くないが。お父様は続ける。

「現皇帝は無類の面食いと聞くから、お前が普通だと知ったら、さっさと開放するかもしれない」
「それ、あくまで噂ですよね!? だって後宮から出てきた人の話なんて聞いたことがないし!」
「物語の主役は美男美女と相場は決まってるんだから、普通の人間の話なんて話題に上るもんか」
「それ、実の娘に言う話じゃないですよね!? むっちゃ失礼だってわかってますか!?」
「とにかく! うちも後宮に物を売っている! ここで大手取引先を無くす訳にはいかないんだよ! 言ってくれるな? 丁香?」

 はっきり言って行きたくなかった。
 皇帝陛下は、前に神輿に乗って首都を練り歩いているのを見たことがあるけれど、太くておっかなくって、しかも助平そうだった。
 後宮には女と宦官以外だったら皇帝陛下しか男の人がいないのに、会える男の人があれだと思うと、ものすごく嫌だった。でも。

「後宮内って、剣を持っていっては駄目ですか?」
「……剣舞用って説明できるんだったらね」
「なら行きます」

 ……姉がいなくなったせいで、実家が没落するのも後味が悪かった。
 そんな訳で、私は化粧を塗りたくられて、重たい服を着せられて、こうして馬車で送られているのだ。

****

 お母様は馬車を降りていく私を、名残惜しそうに見ていた。

「丁香……元気でね」
「お母様も風邪を引かないようにね」
「どうか……どうか……無事でね……」

 お父様と姉たちときたら、絶賛跡継ぎ問題にかかりっきりでそれどころじゃなく、お母様以外誰も見送りがなかった。
 まあいっか。いきなり召喚されて後宮に入れられるものの、お渡り……つまりは後宮に皇帝陛下が訪問……してくるまでは、好きにしていいんだろうし。
 私は宮女に案内され、後宮の中に足を踏み入れた。

「ようこそご足労願いました」
「いえ」

 宮女が案内してくれたのは、意外なことに簡素な屋敷だった。
 後宮内に屋敷があるんだ……と私はぼんやりと見上げる。うちの家もそこそこ裕福だとは思っているけれど、後宮内に存在する屋敷は、ひとりの妃が住むにはやや広い。その上、実家からは特に人を連れてきていない。

「あのう、私は一番下の妃だと思っていたのですが、ここに住むのですか?」
「いえ、違います。今夜はお渡りがございますから、ここはそのための屋敷です」
「……えっ」

 ええっと、後宮に入った場合、一番下の妃はほぼ宮女と同じ立場で、中で働くんじゃなかったっけ。しかも、いきなりお渡り……?
 お渡りとは子作りのことを差す。国からしてみれば、世継ぎづくりは執務の内でも、いきなり召喚された妃に早速手を出すのは、聞いたことがない。しかもうちの場合は足下を見られまくった末に、姉が逃げて私が放り込まれたのだ。
 お父様の嘘つき! 面食いどころか、皇帝陛下は色ぼけじゃない! やっぱり噂の通りだった!
 宮女はこちらを見て、頭を下げた。

「服と化粧の世話は、下働きが派遣されますので。お渡りが終わりましたら、妃様の部屋にご案内致しますので、どうぞご辛抱のほど、よろしくお願いします」

 そう言い残して、薄情にも立ち去ってしまった。
 まだ日は高い。夜の話しかしてないというのに。
 私は腹が立ってきて、ベシッと持ってきた荷物を床に叩き付けた。カランカランと音がするのは、青竜剣を持ってきたせいだ。
 冗談じゃない。こんなところにいられるか。私は逃げるぞ。
 既に実家のことも、姉たちのことも、お父様のことも頭から抜け落ちていた。今は怒りしかない……お母様だけはどうにかしてあげたいけれど、私だけの力じゃ無理だ。
 着ていた着物はごてごてとして動きにくいため、首都で着ていた男装用の着物に着替える。袖も筒状で動きやすく、なによりも袴が動きやすい。荷物をできるだけ軽くしてから、最後に腰に青竜刀を差すと、私は走りはじめた。
 元来た道は覚えている。手慰みで覚えた剣でどれだけ戦えるかはわからないけれど、目くらましで逃げるくらいまでだったら、なんとかなるかもしれない。
 お渡りのある屋敷は、後宮の中でも特殊な立ち位置のせいか、幸い人通りがない。このまま誰にも見つからず、逃げ切れれば……!
 そう思っていたところで。
 ふわり、と匂いがすることに気付いた。

「……え?」

 かぐわしい匂いは、薔薇の匂い。首都でも商家の庭先では育てられることがあるが、今はその季節じゃない。薔薇の調香は高く、その匂いを漂わせている者は、ただ者ではないことだけはわかった。
 私は剣の柄に手をかけるか迷った。

「おやおや、珍しいな」

 低い声が聞こえた。
 振り返って息を飲んだ。

「……花神(かじん)

 黒い御髪を長く伸ばし、桃色の着物を纏って薄衣を巻き付ける姿が、春を告げる存在で知られている花神の化身と言われても信じそうだった。
 それに快活に笑いかけてくる。

「あれの渡りがあると言うと、大概の女はそんなの嫌だと逃げ出すがねえ……まさか、得物を腰に差して、男装して逃げようとするほど気合いの入った逃げ方をするのは、初めて見たさ」

 そのしゃべり方は不思議だった。
 低い声で音こそ小さいが、不思議と聞き取りやすい。なによりもその綺麗な人の存在感は、一瞬だけでも逃げ出そうとしている事実を忘れさせるほどだった。
 私が怯んでいる中、麗人はつかつかと私のほうへと歩いてきた。
 むせかえるほどの芳香が鼻孔をくすぐる。この人が本当に花神だったとしても信じてしまえそうなほどに。私が目眩を覚えている中、その人は私を上から下まで顎に手を当て眺めている。

「……ふーむ。もしそのまま逃げようとするならやめておけ。首都の警備を任された者たちだ。小娘ひとりの剣技じゃどうにもならん」
「なっ」
「たしかに鍛えているようだがな、ここの守備兵のほうが鍛え方は上だ。腕の一本や二本で済めばましなほうだな」

 そうだった。忘れてた。
 私は皇帝から逃げたいんだった。記憶の中の皇帝を思い浮かべ、いきなり渡り宣言をする節操なしっぷりが気味が悪く……私はぽつぽつと鳥肌を立てた。

「……嫌ですよ。私、駆け落ちした姉の身代わりでここに入れられたんです。姉だって嫌だったもんは、私だって嫌なんです」
「ほう。家族が多いのか」
「……まあ。吉兆商店(きっちょうしょうてん)っていう、そこそこ有名な商家には、女しか生まれなかったっていうのは、そこそこ有名な話じゃないかと」
「……ほーう」

 麗人はすっとまなじりを細める。やがてきゅっと口角を吊り上げた。

「助けてやってもいいぞ?」
「え、ええ……?」

 途端にこの人が、本当に花神かなんかじゃないかと錯覚した。私は目を潤ませて麗人を見つめる。

「ほ、本当ですか?」
「ただし、いくらこの辺りは人が捌けているとはいえど、真っ昼間だ。こんなところですぐ脱出なんて無理だ。夜まで待て」
「よ、夜になったら皇帝陛下来ちゃいますよ……」

 無理無理無理無理無理。
 私がプルプル震えていると、麗人はくつりと笑った。本当に笑っても考え込んでも様になる人だ。

「なに、問題ない。夜に仕込みはしておくさ……ただし条件がある」
「条件。ですか……?」

 人が条件を突きつけてきたとき、その条件をよく精査してから飲みなさい。
 お父様に小さい頃から口酸っぱく言われ続けていることを思い返して、私は麗人を見た。

「……なん、ですか?」
「俺の妻になれ」
「……はい?」

 妻になれもなにも、あなた女性じゃないですか。私は言葉が出てこなかった……いや、皇帝に顔も名前も覚えられているような妃はごく少数だ。下っ端の妃同士が関係を持つのはなにも珍しいことじゃないとは、後宮で商品を売っている人から小耳に挟んだ話ではあるが。そんな皇帝から堂々と逃げようとしている人間を娶ろうって、いったいなに。
 私は思わず自分を庇うように自分自身を抱き締めていたが、麗人はさっさと言ってしまった。

「だから屋敷に帰れ。あとは俺が手はずを整える」
「しっ、信じていいんですか?」
「ああ、約束する。商売人ならば、口約束すらも契約に値することは知っているだろう?」

 言いたいことを言うだけ言って、その人は目眩を覚えそうなほどのいい匂いだけを残して立ち去ってしまった。
 屋敷に戻るの……私はだだっ広い、渡りのためだけのあの屋敷を思いぞっとした。
 ……さっきの人、信じてもいいの? 思わずふたつ返事で了承してしまったけれど。私はさんざん考えたあと、元来た道をのろのろと戻り、着てきた着物をできる限り着崩れを抑えて着替え直した。
 もし本当に助けてくれなかった場合、私は皇帝陛下を殴ってでも逃げ出すしかなくなるけど……これって国家反逆罪になるのかなあと、そっと溜息をついた。

****

 後宮に来て初めての食事は、うちだったらまずはれの日じゃなかったら出さないようなごちそうだった。
 すっぽんのスープに、ふかひれの姿煮。肉饅頭。おいしいけれど、どれもこれも精を付けるための料理なため、これは私に嫌でも渡りをさせるためのものなんだと絶句する。

「……あのう、妃はここで渡りを済ませたあと、どうなって……」
「渡りを済ませた妃様は、次の渡りで呼び出しを受けるまでの間は、後宮内の労働に向かいます。もちろん労働せずに皇帝陛下を待つ妃様たちもおられますが、それは身分の高い方々ですので、妃様の全てではございません」
「ですかあ……」

 妃で身分が高いっていうと、諸侯の姫君とか、将軍の娘とかになるのかな。あの人たちの場合は、政治的にも有効だから手荒なことはしないと。
 逆に言ってしまえば、いくら大商家の娘とはいえど、美女だ美女だということで、適当に手込めにしたあとは、興味があったらまた呼び出すし、興味なかったらこのまま強制労働と……。
 そりゃ後宮に入りたくないからって、首都の未婚の女全員男装するよう言うわ。いったいどこからどう漏れて知れ渡ったのかは知らないけど。
 私は食事を済ませたあと、宮女さんたちに服を着せ替えられる。上質な絹の着物は美しいものの、これが渡りの正装だと思うと寒気がする。
 私はちらちらと外を気にした。
 ……もし、助けに来なかったらどうしよう。
 私の荷物は宮女さんたちが持って行っているから、青竜刀は荷物と一緒だ。
 皇帝殴って国家反逆罪か、麗人さん信じてここでひたすら耐えるか。
 宮女さんたちがてきぱきと寝台を整えていくのが生々しく、皇帝早く来るなら来い。いや、来ないでとひとりで葛藤している中。
 変な匂いがすることに気付いた。

「あ、あのう……暖炉とか付けてますか?」

 私が宮女さんに確認すると、宮女さんは怪訝な顔をする。

「今は寒くはありませんし、火は入れておりませんが」
「いえ……このにおい……なんか燃えてませんか?」

 だんだん、赤々と燃える炎、ばちばちと爆ぜる音が聞こえてきた。
 って、屋敷が燃えてる!?
 私は思わず叫んだ。

「火事だぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 宮女さんたちを慌てて屋敷の外に放り出すと、私自身も自分の荷物を取りに戻る。
 青竜刀がまだあることにほっとしつつ、荷物をまとめて必死に外に飛び出した。飛び出した途端に、ガラガラガラガラ……と音がした。
 振り返ると、見事に燃えた屋敷が、崩れているのが見える。

「なにこれ……」

 私が茫然としている中、宮女さんたちが声を張り上げる。

「見張りはなにをなさっていたのですか! これはどう考えても付け火ではありませんか!」
「兵士をここへ! ああ、火が他の建物にまで燃え広がってしまったら……!」

 なんとか火事を消し止めようとする人、こちらに向かっているはずの皇帝に速攻引き返すよう進言する人、付け火の犯人を捜そうとする人で、もう辺りはしっちゃかめっちゃかの混沌のるつぼと化していた。
 なによりも困るのが、私の処遇である。

「あのう、私これからどうしたら……」
「火は消えませんか!?」
「今宦官を呼びに行っています! こんなの、もう燃え尽きるまで待つしか……」
「しかしこれが後宮全域に広がっては困ります!!」

 駄目だ。どう考えても新入り妃よりも、屋敷の火事の消火のほうに意識が集中している。
 私が困り果てて立ち尽くしている中。焦げ臭いにおいの中でも燦然と放たれる芳香が鼻腔をくすぐった。私は驚いて振り返ると、昼間に出会った麗人がそこに立っていた。

「妃様、このまま放置しておいても仕方がございませんから、一旦は来賓館にお連れしてもよろしいですか?」
「そうですね……好きになさってください」

 皆が皆、それどころじゃないために、ちっともこの麗人のほうを向いていない。私はぽかんとしながらその人を見ていたら、その人はさっさと私の手を取ると、「どうぞこちらへ」と言いながら、私を連れ去ってしまった。
 私はポカンとしたまま、その人についていく。

「あ、あのう……屋敷に火を付けたのは……」
「うむ。俺の手引きで宦官が火を付けた。何分このところ渡りが多過ぎて困っていたところだったんだ。燃やしてしまえば、しばらくは付け火の犯人捜しと屋敷再築で時間がかかるから、渡りをずいぶんと遅らせることができる。おまけにお前も助け出すことができた」
「あ、あのう……」

 私は手を引かれながら、その人を見上げた。
 匂いのせいで気付かなかったけれど、手を繋がれてわかってしまった。この人、いくら背丈が私よりも大きいからって、これだけ掌が大きいってことは。

「どうして、後宮内に男の人がいるんですか? それとも……あなたも宦官?」
「ぷっ」

 麗人はそのまま背中を丸めて笑いはじめてしまった。きっと私と手を繋いでいなかったら、笑い転げていたことだろう。

「わ、笑うところですかね、それ……! それに、男の人が後宮内にいるってわかったら……まずいんじゃ……」

 そもそも、後宮は皇帝の跡継ぎをつくるための箱庭だ。そこで問題を起こされたら困るからと、女以外だったら去勢された宦官しか入れないし、親戚一同が正月に挨拶に来るのだって、来賓館以外で会うことは禁じられている。
 それには、またしても目を細めてころころと笑った。

「実家に帰ってきてなにが悪い」
「じ、実家って……?」

 後宮を実家。そんなこと言える人なんて、そう多くはない。

「俺は紫珠(しじゅ)。槐国の皇太子だ」
「こ、皇太子……!?」
「まあ、ここで話す話でもないし、俺がここにいるって知った以上、ただで帰れるとは思うなよ」

 なんだかとんでもないことになってないか?
 私は手を引かれるがままに、ぷるぷると震えていた。
 この人の父親を色ぼけ扱いしたり、生理的に無理と感じたり、不敬罪でしょっ引かれてもおかしくはない。
 でも……その実家に付け火をしたのはどうして?
 そもそもの問題として。この人どうして私に求婚してきたんだ?

『俺の妻になれ』

 ……その前後で口約束も契約と言っている人が、わざわざからかうためにそんなことを口にするとは考えにくい。ましてや後宮で、誰になにをどう聞かれているかもわからない場所で、失言なんてするだろうか。
 私はちらりと紫珠様を眺めた。
 ただただ美しいだけだったはずの人が、男だとわかった途端にその美しさに艶めかしさも足されたような気がした。男とか女とかそんなこと関係なく、ただただこの人は美しかった。
 紫珠様に連れてこられた場所は、宮女の姿は見当たらなかった。
 代わりに、性がさっぱりわからない人が、つかつかと歩いているのが見て取れる。宦官たちだ。
 長い廊下から室内が見える。
 どこもかしこも墨の匂いが漂い、紙束をたくさん書いているのが見えた。仕事がかなり忙しいんだろう。

「あのう……」
「後宮の管理者たちの根城だな、ここは」

 私は少しだけ目を細めて紙束を見た。どうも帳簿らしい。あれか、妃様たちの世話は宮女たちがやっているけれど、霞だけでは後宮の管理は務まらない。
 物資調達やら買い出しやら、どこの修繕、どこの増築などなどの計算をここでやっているということか。そりゃたしかに後宮の管理者の根城って表現にもなる。
 そして廊下が途切れた場所。
 空き部屋だった。しかし簡素な寝床や棚、調度品はある。

「すまないな。ここがお前の寝床になる」
「はあ……私、一応妃ってことになってるんですけど、ここに連れて帰ってきていいんですか?」
「どのみちくそ親父は下半身でしか物を考えない。渡りで若い妃と戯れられないんだったら、屋敷持ちの妃のところに行くから、わざわざ呼び出したりなんかは当面できないさ。どのみち、宦官たちには既に根回ししている。お前の所在もしばしは誤魔化しておくさ」
「はあ……それにしても、皇帝陛下、お父上ですよね? すごい言いようですけど……」
「その親父から逃げ出そうとしたのはどこの誰だ?」
「うっ……」

 反論できない。一番下の妃が、初っ端から渡りを受けるなんておっそろしいこと、普通に嫌だったから逃げ出したんだもの。
 私が視線を逸らす中、紫珠様は「適当に座れ」と椅子を引っ張り出してきて進めてきて、自分も座り出した。私もおずおずと腰掛ける。

「それで、吉兆商店の娘だということは、首都住まいだと思うが。都を見てどう思う?」

 そう凜とした眼差しで尋ねられた。
 美しく華があるだけの人ではないのだろう。女装しているだけでは、この人の聡明さは隠せそうもない。
 私はしばらく考えてから、口を開いた。

「……女がひとりで外を出歩けません。既婚者以外は皆後宮に入れられると、未婚者は男装をほぼ家族から義務づけられます」
「ふむ」
「姉もそれが原因で逃げました。既に我が家を継ぐ予定だったのに。皇帝陛下、どうにかならないんですか?」
「くそ親父。やっぱりか」

 そう言いながら機嫌悪そうに紫珠様は膝をついた。

「親父は政治に興味がない。官吏に全て任せている」
「それは……なら、税は? この数年、増税で皆苦しんでいます」
「親父が政治に興味ないばかりに、官吏に相当貪られているよ。おまけに親父には女を宛がっておけばいいと判断されて、各地から美女を集めてきては後宮に放り込んでいる。まさしく酒池肉林だな」
「そんな……」
「そんなんだから、後宮内で一度流行り病があった際、俺以外の世継ぎは皆死んだ。だというのに、まともに世継ぎもつくらず、女と遊んでばかりだ。ふざけているのか?」

 思わず絶句する。
 肉親から「ふざけている」と言われる皇帝陛下はどうなのか。でも、私が首都で見てきた話を考えても、とてもじゃないが政治がまともじゃないことだけは嫌でもわかった。
 紫珠様は続けた。

「だから親父を殺す。その手伝いをして欲しい」
「……私を妃にするっていうのは、どういう意味で?」
「お前、名は?」
「……丁香です」
「そうか。丁香。お前はたしか吉兆商店の娘だな? 帳簿は読めるか?」

 いきなり尋ねられて、思わず面食らった。
 元々店を継ぐのは姉だったが、今のご時世なにがあるかわからない。流行り病のせいで誰がいつぽっくりいくかもわからないからと、私も帳簿の読み書きは普通に習っていた。

「……習っています」
「国の立て直しには、一度この国を完膚なきまでにぶっ壊さないといけない。そのとき、完全にぼろぼろになってから人材集めだと時間がかかるからな。官吏たちを追い出したあとのこの国の財政を任せられる人間が欲しい」
「それで……私を? 他の妃様たちはどうなんですか。私よりもよっぽど妃教育を受けてきているはずですけど」

 実際問題、後宮で下っ端妃は宮女とほぼ同格だとしても、各地のお偉いさんの娘だった場合は、最初から後宮に入れて、家の便宜を謀るために都合すべく、妃教育を受けてから送り出すのが普通のはずだ。当然ながら教養は、家で帳簿を習いつつも剣術に励んでいた私よりもよっぽど上だと思うけれど。
 それを紫珠様が腕を組んで笑う。

「ひとつ。現状詩歌は国の立て直し急務の場合はそぐわない。実務ができる丁香のほうがましだ。ひとつ。護衛術ができたほうがいい。さすがに一騎当千は無理だとしても、一対一ならまだ自己防衛できるだろう」
「そんな理由でですか……」
「どうする? まあ、どのみち書類に細工を施した以上、そう簡単に返す訳にはいかんがなあ」

 それ、どう考えても私に選択肢はなくないか。でも、まあ。
 いきなり皇帝暗殺に巻き込まれかけている私は、少しだけ考える。皇太子がこの国の立て直しのために、急いで皇帝を殺して代替わりをした場合、増税に継ぐ増税で喘いでいる首都。首都はまだましなほうで、郊外はもっと悲惨なことになってると聞く。お父様も商売で首都の外に出た際、貧困や餓死の危機を感じるということは言っていたはずだ。

「……あなたを皇帝にした場合、増税はもう少しなんとかなりますか?」
「どの道、金食い虫を全部潰して回らないと、民の信心は戻らないだろうさ」
「一番の金食い虫、ここじゃありませんか?」

 私は後宮全域を指差して言った。
 ……女が男装しないと道を出られないほど、見目麗しかったら即後宮に放り込むって、どうなっているんだよ。そもそも。
 私がちょっとだけしゃべった宮女たちも、皆顔立ちの綺麗な人たちで、ほぼほぼここに無理矢理連れてこられた人たち……最悪の場合下の妃の可能性が高い。そんな死んでも後宮から出られない状態、どれだけの維持費がかかってるんだ。

「あなたが皇帝になった暁には、後宮を取り潰してくださいますか? 世継ぎが必要だというのは、そんなことはわかっています。ただ、これだけ後宮に女を入れ、その管理のために宦官まで放り込むなんて。宦官たちだって、ここで高級管理のために計算をするよりも、朝廷で仕事を腐った官吏たちに替わって仕事を手伝ってくれたほうが、まだマシまではあります」

 正直、皇帝が存命の間、後宮内に留めるというのなら、かろうじてわかるものの。皇帝が死んでからも出家させた挙げ句に後宮内の寺に全員放り込んで一生軟禁っていうのの意味がわからない。
 おまけにここは女が多いために維持費が馬鹿にならない。いやいや連れてこられた人たちなんて、地元に帰らせたほうが節約にだってなる。
 というか、ここに来たばかりの私ですら、駄目出しできる点が多過ぎるのはおかしいだろう。
 私が一気に捲し立てたのを聞いて、とうとう紫珠様は声を上げて笑いはじめた。

「ははははは……! ずいぶんとこてんぱんだな?」
「こてんぱんにだって言いたくもなりますよ……」
「でもやはり気に入った。お前は親父の暗殺計画に加わってもらう」
「ですけど……」

 私はちらりと部屋の扉を見た。扉の向こうには、きっと宦官たちがそろそろ仕事を治めて床に就く頃だろう。

「……いったい味方って誰なんですか? ここに私を連れてきたってことは、宦官たちは……」
「全員ではないがな」

 それに私は押し黙る。

「……全員じゃないんですか」
「あの色ぼけ親父だが、あんなんでも槐国では一番価値のある傀儡だ。利用価値があると思っている妃だって、その妃に足繁く通って関係を持っている宦官だっている」
「ひっ……」

 あけすけな言葉に、私は絶句した。
 宦官は去勢した関係なのか、性差があやふやになって艶めかしくなっている者も大勢いる。見目麗しい者だった場合は、それを利用して妃に取り入ろうとする者だっているだろうが……いるだろうがー、聞きたくなかったなー。

「それ、駄目じゃないですか……」
「宦官にだって敵がいると言ったんだ。同時に、妃にだって味方がいる」

 その言葉に、少し目を見開いた。
 ……私たちのように、ほぼ無理矢理後宮に放り込まれたような人間だったらいざ知らず、妃教育を受けた上で後宮に入った人間に、皇帝を全否定できるような人なんているんだろうか。
 紫珠様は続けた。

「だから、明日にはその妃に会ってきて欲しい。顔合わせと、情報交換のためにな」
「紫珠様だって女装なさってるじゃないですか……今日来たばかりの私にひとりで行けと?」
「残念だが、親父を殺すために根回しをいろいろしなくてはならなくってなあ。寂しいだろうが、ひとりで我慢して行ってきてくれ」

 そう言いながら、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。誤魔化されているような気がするが。
 今日は後宮に来て早々、渡り宣告、逃亡、火事、暗殺計画で、はっきり言ってお腹いっぱいが過ぎる。もう頭が回らなくなったから寝たい。

「……わかりました。それでは一旦それに乗ります」
「それがいい。ここは親父の後宮だからな。いくら親父の息子だと言っても、俺だけでは切り崩すことは不可能だ。頼りにしているぞ」
「……わかりました。おやすみなさい」

 やっとのことで帰って行った紫珠様を見送りつつ、私はどうにか寝台に潜り込んだ。
 そりゃそうか……。後宮は本来、皇帝の次世代の子作りの場であって、酒池肉林を行う場所ではない。いくら血筋だからって、女装でもしてなかったら平然と動き回ることもできないんだろう。
 大変なことに巻き込まれたような気がする。それと同時に、少しだけ楽しみに思えた。
 もし、女の身なりで町を歩き回れるようになったら、度重なる増税で萎びてしまった首都だって、ちょっとは活気が取り戻せるんじゃないだろうか。後宮さえ。後宮さえ潰してしまったら。
 やろうとしていることはとんでもないことなのに、まるで劇団の演目を見るかのようなわくわく感が胸を占めた。それを感じながら眠りにつけるんだから、私も存外に図太い。
 翌朝、私は起き上がると、「失礼します」と声をかけられた。

「どうぞ」
「失礼します。丁香様、お召し物を献上に伺いました」

 綺麗な人だけれど、この人が宮女なのか宦官なのか、私にはよくわからなかった。綺麗な長い髪に簡素な着物。そして出された服を見て、私は首を捻ってしまった。
 服の布地は高くはないが安くはない厚み。そして装飾の簡素なそれは、宮女の着物に見えた。

「初めまして……あなたはいったい?」
「お初にお目にかけます。こたびは丁香様にお仕えするよう仰せつかっております、黄精(こうせい)と申します」
「黄精さんですね。それで、この服は?」
「殿下から言付けを預かってきております。『昨日はお疲れ様。今日から我々のために働いてもらう。まずは宮女のふりをして、春妃(しゅんひ)に会ってきて欲しい』とのことです」
「春妃?」

 そういえば、昨日も寝る前に紫珠様は妃に会いに行けと言っていたような。そして妃の格好ではないのは、後宮内を自由に歩き回るためだろう。いくら後宮とはいえども、妃がその辺を歩き回っていたら危険だ。
 私はそう納得した。

「わかりました」
「それでは自分は外で待機しますので、着替え終わってからお声をおかけくださいませ。朝餉の準備を致しますから」
「ありがとうございます」

 私は一旦黄精さんに外に出てもらってから、服を着替えはじめた。昨日一瞬着せられた妃の着物よりも動きやすいし、袖がひらひらしていないから動きにも支障を来さない。
 私はそう判断してから、「黄精さん、もう大丈夫ですよ」と声をかけた。
 昨日は精のつく料理ばかり出されたことを、紫珠様も知っていたんだろうか。出された朝餉はあっさりとした茶粥だった。お茶の味が優しく、胃もたれするほど食べさせられた昨日と比べると体にも優しそうだ。

「ありがとうございます……ところで、春妃様とはどうやったら会えるんですか? 下の妃であったら、ここで宮女に混ざって働いているとは思うんですが……」
「春妃様は屋敷持ちですので、屋敷に行けばお会いできますよ」
「……屋敷持ち、なんですか?」

 屋敷持ちだとしたら、普通にどこかのお偉いさんの娘が鳴り物入りで後宮に入ったんだろうに。どうしてそんな人が皇帝陛下の首を狙っている紫珠様の味方をしてくれてるんだろう。
 私が訝しがっているのに気付いたのか、黄精さんが解説してくれた。

「春妃様は、後宮内でも有名な占術師なんですよ」
「占術師……ですか」
「はい。彼女は花神の末裔と呼ばれるほどに、占ったことで外れたことがないんです」
「それはすごいですね……」

 商売やっていると、案外占術師と関連深くなってくる。お父様もたびたび占術師に占ってもらっていたけれど、そのほとんどは人生経験豊富な相談役といった感じで、本物とは呼びにくい人たちだった。
 でも稀にいるのだ。花神の末裔と呼ばれるほどに、神がかった占いを行う本物が。おそらくは春妃様もそのような人なのだろう。
 でもそんな百発百中の占術師が紫珠様の味方をなさってるってことは……やっぱり皇帝陛下にいろいろ思うところがあるってことなのかもしれない。
 茶粥をありがたくいただいてから、私は黄精さんにいただいた地図を持って出かけていった。既に宦官たちは働きはじめているらしく、もう墨の匂いが漂いはじめていた。

「昨晩の火事で燃えた屋敷の再築費用だが……!」
「予備費は!?」
「皇帝陛下のおかげで既に底を尽きている! どこかに余剰費用が……!」

 ……すみません、すみません、すみません。
 昨日の火事の当事者の私は、思わず聞こえた声の方向にぺこぺこと頭を下げながら、通り過ぎていった。

****

 もらった地図によると、後宮内には屋敷は八つある。
 昨日火事で燃えてしまった渡り用のもの以外には七つ……つまりは、身分の高い妃の数だ
。槐国では、妃の位は上から順番に、正一品、正二品……と並び、私は一番下の正八品となる。ちなみに別格が皇后であり、皇帝陛下の正妻であり、位は存在しない。でも現皇帝陛下の正妻は、既に流行り病で亡くなられているはずだ。
 屋敷をいただけるのは正二品からであり、春妃様もおそらく位はそれになるだろう。私はそう思いながら歩いて行った。
 やがて他の宮女や下働きともすれ違うようになっていった。下働きの女性は、屈辱で歪んだ顔をして歩いているのが見え、おそらくは彼女も無理矢理後宮に入れられてしまった妃のひとりなんだろうなと想像できた。
 私は体を動かすのが好きだけれど、首都に住んでいた深窓の令嬢たちが皆そうとは限らない。顔だけで後宮に入れられ、飽きられて後宮を動かすために酷使され続けている。それは屈辱と思っても仕方がない。
 彼女たちを家に帰すためにも、やっぱり後宮を解体しないと駄目だ。そう気を引き締めて歩みを進めていく中、不思議な光景が広がっていることに気付いた。

「あ、あれ……?」

 桜が咲いている。
 たしかに春先には桜は咲くけれど、今は季節がずれているはずだ。艶やかな薄紅色の花びらが、ゆったりと吹いているそよ風に流されていく様をポカンと眺めていたら。

「秋の桜なのですよ。これだけ春の桜と変わらぬ色合いの花は珍しいからと、私に占術を頼んだ方が実家から取り寄せてくれたのです。花神の化身の庭にはふさわしいだろうと」

 花神の化身。
 思わず顔を上げて、私はまたも驚いた。
 薄紅色の着物を纏い、幽幻に佇んでいる姿は儚い。なによりも彼女の髪の色は銀色で、瞳の色も青く、この世の者とは思えなかった。

「あなたが……春妃様ですか?」
「ここではそう呼ばれておりますね。あなたのことは占術で見ておりました。こんなところで立ち話していましたら、盗み聞きされるやもしれません。どうぞお入りくださいませ」
「はい……」

 彼女は勝手知ったる屋敷に案内してくれた。
 屋敷内もまた、不思議な建物だった。硝子には美しい絵が描かれているし、階段や床も、どことなく異国情緒で溢れている。

「これは……」
「西方の文化ですね。私の出身もそちらですから」
「あなたは……」
「元は西方の商家の娘だったのですが、皇帝陛下に見初められてここに閉じ込められました。持ち前の占術で彼が後に娶る妃の顔、彼の今までの病気遍歴を片っ端から言い当てたところ、信を得て、今はこのような生活を送っています……帰りたくとも、私たちの家族は既に西方へと戻ってしまいましたが」
「それは……」

 よりによって皇帝は、異国の商家の娘にまで手を出していたらしい。彼女も花神の化身とまで言われるほどの占術がなかったら、他の妃たちと同じく雑に扱われてそのままぽい捨てされていただろう。
 春妃は頷いた。

「私を気の毒に思ってくださったのは殿下でした。私の住まう屋敷を訪れて、できる限り祖国のものに近付けてくださいました」

 それに私は少しだけ胸がキュンとした。
 あの人は綺麗過ぎて、なにを考えているのかさっぱりとわからなかったけれど。虐げられている人を見るのが嫌なんだろうということだけは、間違いない。

「それで。私は今日あなたに会いに行けと伺いました」
「おそらくは、殿下は天命が変わったかどうかを気になさったのでしょうね」
「天命? 紫珠様の天命とは?」
「あの方の天命は不明瞭な点が多く、私はずっと皇帝陛下への反乱を止めていました」

 それに言葉を失った。彼女もまた、被害者なはずなのに。それでも止めないといけないほど、紫珠様の天命がまずかったんだろうか。
 私が息を飲んだのを見ながら、春妃様は教えてくれた。

「あの方は皇帝陛下の横暴に痺れを切らし、何度も反乱を起こそうとしましたが、そのたびに私が止めていました……天命のない方が国を動かそうとした場合、天が必ず罰を与えるからです」
「そこまで、まずいものだったんですか?」
「殿下の天命は、なぜか雲がかって見えませんでした。これを晴らす星が現れない限り、決して事を起こしてはならないと。私は殿下が尋ねてくるたびに何度も占術で確認しましたが、一向に晴れませんでした。ただ、先日ようやく殿下の天命に動きが見えました」

 そう言いながら、春妃様は私に指を差した。

「星主から逃げる者あり。それを火をもって助けることで、玉座を得るだろう」

 それに私は目を見開いた。
 星主とは、皇帝陛下の別称だ。古過ぎてそんな呼び方をする人なんて、もうおとぎ話くらいでしか見ないけれど。そして皇帝陛下から逃げ出した者なんて……私じゃない。
 ああ、だから紫珠さまは、屋敷に火を放って私を連れ出してくれたんだ。私を妻にすると言ったのも。

「……まさか、そんな仰々しい天命が読まれているなんて、思いもしませんでした」
「いいえ。星の巡り合わせは、人事を尽くさなければ噛み合うことはまずありません。なによりもあなたの天命も読まなければ、殿下の天命も補則できませんしね」

 そう言いながら、春妃様は占術のための道具を取り出した。
 星の見取り図のようにも見えた。

「これは……」
「私の国の見取り図ですので、槐国のものとは多少異なるかもしれませんね。これであなたの天命を占います」

 彼女は私の名前と誕生日を尋ねると、黙って見取り図を確認しはじめた。そして、神がかった声で朗々と読み上げる。

「星主をおそるるなかれ。乗り越えた先に、新たな星主ありけり」
「……皇帝陛下をおそれるな、紫珠様と一緒に立ち向かえってことでしょうか?」
「そうなるかもしれませんね。ただ、殿下も既におっしゃっているかと思いますが。敵は別に皇帝陛下だけではございませんから」
「官吏……ですね」
「あと、宦官たちの中にも、現状の維持のために動いている者たちもいらっしゃいますから。くれぐれもお気を付けて」

 こうして、私は春妃様にお礼を言って、出て行った。
 とんでもないことを聞いてしまったけれど、人事を尽くして天命を待つ。まずは頑張らないと、天命も手助けしてくれない。
 なにをどう頑張ればいいのかはまだ不明瞭だけれど、少なくとも春妃様を国に返してあげたいという気持ちは生まれた。
 もしかすると、これも紫珠様の狙いだったのかもしれない。
 私が宦官棟に戻り、間借りしている部屋に向かおうとしたら、「丁香」と声をかけられ、少なからず驚いた。
 顔がやけにいい宦官に声をかけられたのだけれど、声だけはどこかで聞いたことがある。低いような高いような、必死に聞き取ろうとしても、いまいち掴み取れないのに印象だけはずっと残り続ける声。
 それに宦官は「ああ」と言った。

「俺だ、紫珠だ」
「……っ!?」

 思わず息を飲んでしまった。
 女装しているときは、花神の化身と言われても信じてしまいそうなほどに、花の雰囲気を撒き散らしながら、風に流されて消えてしまいそうな儚さがあったはずなのに。それが宦官の服を着た途端に儚さが完全に霧散し、柳の枝のようにしなやかにいつまで立っても折れないし流されない雰囲気に変わっていた。性だけあやふやなままだけれども。
 私が口をパクパクさせているのを、紫珠様は目を瞬かせて眺めていた。

「なんだ? 俺の変装に見とれたか? すまんな、本当の姿は後宮内じゃお目見えできなくて」
「い……いえ……私は別に」
「それで、春妃と話をして、どうだった?」

 私は紫珠様を見た。よくよく考えれば、春妃様の占術結果を確認に行って欲しかったのだから、きちんと伝えるべきだろう。
 一旦私の部屋に招き入れてから、占術結果を報告した。それに紫珠様は「ふーむ」と腕を組んだ。

「抽象的過ぎるでしょうか?」
「いや? 逆だ。俺は何度も何度も親父の首を取るために行動を起こされたが、その都度春妃に止められていた。天命がない中でやれば、星主に消されると」
「……でも、今回は星主を怖れるなと出たということは」
「やっと好機が来たという訳だ。だが、問題は親父が後宮に来ないことには、首を取れる機会もそうないんだがなあ」
「皇帝陛下の首を取れる機会が、後宮内でなかったら駄目という根拠は?」
「ひとつ、皇帝陛下の警備は厳重だ。常にふたりひと組は護衛に付き、護衛交替の機会でも、一個小隊が見張っている中で行われる。護衛が外れる機会は、後宮内に入ったときにしか訪れない」

 男は後宮内に入れないため、護衛も女兵士たちに任せないといけない。その機会は他所で暗殺を行うよりも機会が存在する。

「ひとつ、後宮内では、必ず護衛が外れる時が存在する。まあ、渡りの屋敷は丁香救出で燃やしてしまったが、まだ機会はあるからなあ」
「すみません……その、他の機会というのは?」
「愛妃に会いに行くのに、わざわざ護衛は付けないからな。妃の屋敷は、基本的に後宮内でも別の権力が存在しているから、皇帝だからと言って、それを踏みにじって護衛を付けて入ることがかなわない」

 屋敷持ちの妃たちは、基本的にどこかの権力者たちの子女か、春妃様のように一芸特化の特技を持っているかのどちらかになる。一芸特化の妃ならばそもそも自力で護衛を賄える訳がなく、どこかの権力者により妃として送り込まれたのならば、実家からの護衛を付けているのだから皇帝陛下の護衛を通すとは思えない。
 たしかに護衛が引いた段階でだったら、まだ首を取る方法はあるのか。

「ところで、丁香は剣舞は舞えるか?」

 唐突に紫珠様に言われ、私は首を捻った。
 私が剣術の稽古を受けていたのは自衛のためだったが、剣舞は元々は劇団員が覚えるものであり、武道とは少々勝手が違う。
 ただ……私も首都に劇団が来た際にそれを見物に出かけたことはある。くるくると回りながら重いはずの剣を振りかざして踊る様が美しく、私自身も見よう見まねで踊ったことならばある。

「……見よう見まね程度でしたら」
「それ、踊ってみろ」

 意味がわからないな。私は訝しがったまま、ひとまず青竜刀を手に取った。
 そして手首を意識しながら踊りはじめた。剣舞はなにも剣を振ればいいだけでなく、足の動き、円の描き方、体重移動、その全てに神経を注がなければ、途端に重ったるいあくびの出るような踊りになってしまうため、全神経を研ぎ澄ませた。
 ただ、愛妃の話からどうして剣舞の話になるのか、訳がわからない。私がくるくると剣を回しながら自身を一回転させて踊りを止めると、息が切れる中、拍手が鳴り響いた。

「……こ、れで……よろしいですか?」
「上出来だ。まさか見よう見まねでここまで踊れるとはな」
「ですけど……これ、なんですか……?」
「今度、正一品の元に、劇団が招かれる。親父の愛妃だ、そこには当然ながら親父も来る。演目に夢中になっている隙に親父を殺そうと考えていたが、お前もそこに混ざれ」

 絶句してしまった。
 昨日の今日で、いきなり皇帝陛下を殺せと言ってくる。天にようやく許されたのだから、この人もこの機会を逃したくはないのだろう。
 だが、そもそも私の剣の腕なんて大したことないのに、そんなんですぐ見つかったら、私が死ぬだけだ。私は思わず紫珠様を睨んだ。

「……さすがに私ひとりだけだと、死ぬかもしれないじゃないですか」
「その劇団、俺のものだが?」
「はい?」
「正確にはなあ、劇団の奴らは、皆皇帝陛下に恨みのある連中で構成され、俺もその中に加わっている。皆で殺せる機会を窺っていたんだ。混ざらないか?」

 仲間に入れてやると言わんばかりの言い方だった。
 そんな乱暴な、とは思うものの。この人が焦る気持ちもわからんでもなかった。
 春妃様は芸によって身を助け、手込めにされるのを逃れたが。中には彼女のようにはいかず、故郷の人たちと無理矢理引き離された人もいるだろう。
 それを考えたら、浅はかだと批難する気にはなれなかった。

「……わかりました。お付き合いしましょう」
「そうか。なら、次はその劇団に案内するか」
「って、後宮内にあるんですか!?」
「正確には、あの連中は半年に一度、七日間だけ後宮の滞在を許されている。後宮に七日間だけでも滞在できるのは稀少なんだよ」

 そう言いながら、紫珠様は部屋を出て歩きはじめた。
 私も慌ててついていったのである。
 長い廊下をいくつも通ったあと、広い場所に出る。
 その広い場所には天幕が張られ、その中を出入りしている人々が目に留まった。紫珠様がひとりに手を振ると、頭を下げられて通された。

「おっしゃってくだされば、こちらから出向きましたのに」
「わざわざ宦官棟に来させる訳にはいかない。あそこにも敵は紛れ込んでいるのだから」
「それで、彼女が……」
「俺の妻になる予定の娘だ」

 私はそれに「ひぐっ」と喉を詰まらせた。
 これは今言う必要があるのかとか、うちの実家の力が国復興に必要だからでしょうがとか、いろいろ思ったけれど、どうにか飲み下した。
 劇団員はこちらをまじまじと見下ろした。
 もっと劇団員は女の人の華麗な舞ばかり見るのかと思っていたのに、意外なことに腕っ節の強い宦官も混ざっているようだった。
 女性の軽やかな踊りの練習に混ざって、宦官の躍動感ある踊りの練習も目に入る。

「それで、剣舞の腕は……」
「今ここでやればいいんでしょうか?」
「素人芸だと、一発でばれるからな」

 たしかに。劇団員に混ざって皇帝陛下を仕留めるとなったら、まずは皇帝陛下を油断させるほどの演目でなければならないだろう。
 私は青竜刀を手に、紫珠様に見せたものを披露しはじめた。
 剣を振り、体を動かす。先程紫珠様に見せたときは、感心したように見ていたが、こちらは一転、見聞する目だ。こういう目で取引をしているお父様や姉は何度か見たことがある。
 最後に私が一回転したあと、劇団の人は腕を組んだ。

「殿下。時間はどれだけいただけますか?」

 その言葉に、私は「あれ」と思った。
 紫珠様の連れてきた人間の剣舞だから、無理矢理褒めるか、逆に使い物にならないと苦言を呈するかと思っていたのに。
 紫珠様は伝えた。

「次に親父が後宮を訪れるのは、梨妃(りひ)の観劇だ。そのときまでに仕込んで欲しい」
「……たった三日ですか。名はなんと言う?」

 そう劇団の人に尋ねられた。私は背を伸ばす。

「丁香です」
「そうか、丁香。俺は半夏(はんげ)だ。それでは殿下、三日でなんとか使い物になるように仕込みますんで」
「頼んだ」
「ちょ、ちょっと紫珠様!?」
「丁香、せいぜい頑張れよ。半夏の仕込みは、吐くほどに厳しいからな」
「は、吐くんですかぁ……!?」

 私の悲鳴を無視して、さっさと紫珠様は天幕から立ち去ってしまった。
 鬼か、あの人は。私はそう思いながらも、半夏さんから剣舞を徹底的に仕込まれ直すこととなった。
 吐くとは言われていたものの、実際に姿勢ひとつで怒鳴られ、正しい姿勢のために何度も何度も竹の棒を当てられ、「こう! 正しい姿勢はこう!」と仕込まれ続けた。
 一刻二刻と飲まず食わずで踊り続け、三刻目になったときにはへろへろだったけれども。それでも気のせいか体が軽く感じた。腹が減り過ぎたのか、それとも体がきちんと吸収したのか、頭が驚くほど鮮明になり、踊りたかった踊りが指の先から足の爪先まで通っていき、今までで一番いい演技ができた。
 一度も拍手をしなかった半夏さんは、腕を組んだままだった。
 私はぜいぜいと息を切らす。

「……食事をそろそろ摂れ。殿下のお気に入りが飲まず食わずで死んだんじゃシャレにならないからな」
「え?」
「腹を満たしても、今の感覚を忘れるな。これくらい踊れなかったら、十中八九皇帝の首は落とせない。審美眼を騙し通さなきゃならねえのは、なにも皇帝だけじゃねえ。愛妃も騙くらかさなきゃいけねえんだからなあ」
「は、はい……っ!」

 出されたちまきを、私は泣きながら食べていた。優しい味のそれは、五臓六腑に染み渡るように感じ、私の分はあっという間になくなった。

「……あのう、半夏さんは」
「なんだ?」

 この人も踊り手なんだろう。体の筋肉に無駄がなく、薄手の着物で軽々と剣を振って踊っていた。その剣が簡単に人の首を落とせるものだけれど、その動きには重さを感じない。
 そんな人が紫珠様の起こそうとしている皇帝暗殺のことを知っているということは。

「……皇帝がお嫌いですか?」
「嫌いだね」

 今までさっぱりとしていた人から、初めて湿度を感じた。彼の吐き出したそのひと言には、粘りがあった。いったいどれだけ皇帝陛下を憎んでいるのか、そのひと言だけでもわかった。

「……そうなんですか」
「そもそも好きな人間が後宮内にいるもんかね。朝廷は腐敗しきっているが、我関せずで後宮に篭もって女遊びばかり。何度も殿下は諫めたものの聞く耳持たずでな。いろいろ手は打ったものの、守りが堅い上に官吏たちまで見張っている。官吏の目が届かない後宮以外でやれる方法はないと判断したんだよ」
「ここでいきなり誘われたときは驚きましたけど、既にいろいろ手を打ったあとだったんですねえ……」

 そう考えたら、紫珠様が次から次へと変装するのも頷ける。もう手段を選んでられなくなったんだろう。
 姉が逃げたから身代わりに後宮に放り込まれた私からしてみれば、皆の言葉はいちいち重い。
 半夏さんは水を舐めるように飲みながら、ふっと息を吐いた。

「なんだ、殿下に脅かされたか? 皇帝の首を取れと」
「脅かされてはいませんけど……私だって後宮を解体しないことには、二度と外には出られない身ですし、一生訳もわからないままここに縛られるくらいなら、紫珠様の手伝いをしたほうがまだましだと思っただけです」
「違いない。くたびれたら考えるのをなにもかも放棄してしまうからな……そういうところを、殿下は見込まれたんだろうさ」

 そう半夏さんに言われると、私はなにも言えなくなった。思えば私は、助けてくれた人だというのに、紫珠様のことをなにも知らないのだ。

****

 柔軟体操をして、体の負担を軽減させてから「明日も早朝から来るように」と言われて、やっと私は天幕から解放された。
 こそこそと宦官棟に戻ると、黄精さんが「お疲れ様です」と食事の世話をしてくれた。私が剣舞の仕込みを受けていると知っているせいか、出してくれた料理は肉餡をたっぷりと詰めた水餃子、野菜炒めにはきくらげをたくさんにあんかけ麺と、体力増強を考えた料理だった。普段であったら入らない量だけれど、あれだけくたびれるほど仕込みを受けたら、いくらでも食べられる。
 私がむしゃむしゃと食べている中、相変わらず宮女か宦官かすらわからない黄精さんは、こてんと首を傾げながらこちらを眺めていた。

「あ、あのう?」
「いえ。殿下もこのところ元気で。今までは、なかなか手ごたえがございませんでしたから。これだけ不満を溜め込んでいても、人の怒りすら飲み干して、陛下は増長しておりましたから。殿下の怒りは留まることを知りませんでした」
「そこまで、だったんですか……」

 私の中で紫珠は掴みどころのない、花神のように一瞬だけ現れて去っていくような人という、そんな感じだった。
 黄精さんはくつりと笑って頷く。

「流行り病で、後宮が一度解体の危機に陥ったことをご存じで?」
「はい?」

 来たばかりの妃の私すら渡りの対象にする皇帝陛下のことを思い、私は首を捻った。

「それは、いいことではないのですか?」
「手順を踏んで後宮解体でしたら、官吏ですら文句も言いませんでしょうが、あれは解体というものではありません。放置というもので、とてもじゃないですが認められないものでした……後宮が流行り病のせいで崩壊寸前。あの頃に生まれた皇子たちも、殿下を除いて皆死に絶えました……首都にも広がったあの流行り病は、ただの不幸ではございません……人災でした」

 黄精さんのきっぱりとした口調で、私は茫然とする。
 そういえば。紫珠様は流行り病でお母様を亡くしたとおっしゃっていたけれど。もしかして、これがきっかけで皇帝陛下の首を狙っているというの?

「……いったいなにがあったんですか。紫珠様や、ここにいる人たちが皆、皇帝陛下を憎んでいるような出来事……」
「……少々しゃべり過ぎましたね。この辺りは、どうぞ殿下とゆっくりお話しくださいませ」

 黄精さんはそれだけ言い残すと、食器を片付けて立ち去って行った。パタンという扉の閉まる音を聞きながら、私は考え込んだ。
 ただ流されるだけでは、後宮で嘆いているだけの人たちとなにも変わらない。私はただ彼の手足となって、皇帝陛下の首を狙うだけでは、駄目なんじゃないだろうか。
 私は、自分の意思で紫珠様の手助けをして、現状に戦いを挑まないといけないんじゃないだろうか。
 そう、ひとり考えていたところで、扉が叩かれた。
「はい」

 私の言葉に、「俺だが入っても大丈夫か?」と尋ねられた。紫珠様の声だ。私は少しだけ考えてから、ひと言添えた。

「誰だかわからない人は入れられません」
「そういうところが気に入っている」

 そう言いながら、扉を開いた。やはり紫珠様だった。今は宮女の格好をし、綺麗に化粧を施している。

「どちらにいらっしゃったんですか?」
「梨妃の観劇のために、人手集めの手伝いだな。半夏にずいぶんと仕込まれたみたいじゃないか。上手くやれそうか?」
「できるとは思いますけど……でも、私が皇帝陛下を殺せるかどうかはわかりません」
「まさか親父の首をお前が落とせるとでも?」
「やれって言ったの、紫珠様じゃないですか……」
「ハハハハハハハ」

 いきなり笑い出してから、私の頭を撫で回した。

「な、なにするんですかっ」
「すまんすまん。親父を殺す手伝いをしてくれとは言ったが、お前に直接やれとは言ってなかったんだが……失敗したな」
「……でも、私が必要だったんでしょう?」
「そりゃあな。劇団で梨妃の元にいる者たち皆を騙くらかして、やらなかったいけなかったからなあ……」
「……劇団の皆さんも、皇帝陛下を?」
「あれは全員、後宮で身内を殺された者たちだ」

 あまりにも簡単に言い切ったのに、喉の奥が「ヒュン」と鳴った。

「あの人たち……全員ですか?」
「ああ……半夏は元から劇団員だったが、劇団にいた妹が親父に見初められ、後宮に入れられた……お前に起こりかけたことは全て彼女の身に起きた。耐えきれなくなった彼女は自害した。他にも似たような例が多い」
「そんな……」

 考えてみればわかることだった。
 首都では女は女の格好をして出歩けない。皇帝陛下の醜聞がさんざん流れているからだ。価値があったらそこまで無体な真似はされないだろうが、価値がなかったらそのまま後宮に放り込まれて一生出られない。意味がわからない。

「無茶苦茶じゃないですか……」
「そうなんだ、無茶苦茶だから殺すんだよ」
「だから、紫珠様も? 皆が皆、死んだから?」

 そこで初めて紫珠様の顔が崩れた。
 普段の謎めいた余裕のある表情から、苦虫を噛み潰したかのように、口元が歪む。

「……俺の母は、後宮の薬師だった」
「薬師?」
「ああ。流行り病は親父の起こした人災だった……西方の女を妃として迎え入れた際、彼女は既に患っていた……母曰く、彼女は既に流行り病の耐性を持っていたから無事だったが、後宮内はそうではなかった。気付いたときには手遅れなほどに、後宮内に蔓延していた。毎日倒れていく宮女、宦官。屋敷持ちの妃たちは屋敷内に立て篭もって、薬湯を飲んでやり過ごせたが、下の妃たちや宮女たちはたまったもんじゃない……次々と感染していった。俺が助かったのは、単純に母が口酸っぱく言っただけだ。『絶対に外に出るな』と。母は毎日毎日、危険を承知で屋敷の外に出て、看病して回ったし、上にも進言したが……親父は後宮にぱったりと来なくなった。自分で広めるだけ広めておいて、知らんぷりした。西方の妃はどこかに連れ去られた……あの地獄の中、流行り病が治まった頃には、屍の山が出来上がっていた。放置された後宮の遺体も、流行り病が治まるまで放置されていた。全てが終わってから盛大に合同葬式が行われたが、参列者の目は全員死んでいたよ……弔われた中には、母もいた」

 あまりのひどさに、私は口を開けていた。
 少しばかりは半夏さんからも聞いていたけれど、ここまでひどいとは思ってもいなかった。あれだけのやらかしをしておきながら、官吏は臭い物に蓋をした。皇帝陛下を見て見ぬふりして、自分たちの利益だけを吸うために。
 皇帝陛下は自分の欲望に忠実な行動のせいで、後宮を壊滅寸前にまで追い込んだ事実をわかっていない。だからこそ、紫珠様は……。
 私が震えている中、紫珠様はふっと笑った。

「すまんな。国が滅茶苦茶だから、親父を殺して立て直したいと……お前にはそう言ったが、結局のところは敵討ちだ。母が死に、見知った顔が死んで、どうにもならなかった、やりきれなかった感傷だ」
「……いえ。これは当然の感情だと思います」

 思わず彼の手を取っていた。私よりも大きい手だった。そして驚いたことに、その手は荒れている……指の股が一本一本ささくれ立っているのは、書状をずっと書き続けた結果だろう。
 この人は皇帝陛下を殺すために、どれだけ時間をかけて、人を集めていたのだろう。こんなの……どうにかしたいって思ったってしょうがないじゃないか。

「私はここから逃げ出そうとしました。こんなところにいるのはごめんだと。あなたは立ち向かった。お母様を殺された。理由はそれだけで充分じゃありませんか。私、劇団の舞台に立ちます。なにをすればいいんですか? どうすればいいんですか? どうか教えてください」
「……理不尽だと、思わないのか?」
「あなたには思っていませんよ。ただ、流されて、気付いたらなにもかもを勝手に決めつけられて、がんじがらめになるのが嫌なだけです。がんじがらめになって身動き取れなくなるくらいだったら、動ける内にいっぱい動いたほうがいいじゃないですか」

 私が手を取ったままそう伝えると、紫珠様は目を細めた。

「……丁香、お前を妻に娶る」
「それ、私が復興に必要だからでしょう? うちの実家をどこまで動かせるかはわかりませんけど、なんとかなるでしょ……」
「もちろん最初はそのためだった。だが、お前は……理不尽にめげない。そういうところは気に入っている」

 思わずぱちくりとして紫珠様を見上げた。
 私は彼の本来の姿を未だに知らないし、妻にするという言葉は、宮女の身なりのときにしか言われていない。私はどう答えればいいのかわからず、ただ笑った。

「正式な求婚は、女装を解いてからしてくださいよ。それじゃあ、利用されてるのかどうだかわかんないじゃないですか」
「……違いないな」
「それで、私はどうすればいいんです? 舞台に立って、それから」

 手を取り合いながら、話をする。
 夜に密会するというのは淫靡な話なはずなのに、内容が暗殺計画なのだから色気もなにもあったもんじゃない。
 最後に紫珠様は私の唇をツン、とつついてから、扉に手をかけた。

「それじゃあ、本番を楽しみにしている」

 そう言いながら、私の唇に触れた指で、自分の唇をなぞった。それに私はどっと頬に熱を持った。
 ……からかわれている。

「わかってますよーっだ」

 私たちはこうして、一旦別れたのだった。

****

 それから二日間、私は紫珠様の段取りを聞いた後、半夏さんに稽古を付けられる。
 一日目に飢餓状態で踊ったことは、不思議と身について、自然と足取りが軽やかに踊れるようになっていた。くるくると剣を回しながら、最後に拍子を取る。
 それを見て、あれほど厳しかった半夏さんが、うっすらと笑ったのだった。

「よくやった。これならば本番も大丈夫そうだ」
「はい……ありがとうございます……」

 汗がぐっしょりと出て、着物を濡らす。どれだけ拭っても拭っても、体のどこから水分が出てくるのかわからないくらいに噴き出てくる。
 それを見ながら、半夏さんは水筒をくれたので、私は夢中で水を飲んだ。

「本番、いけるな?」
「……いけます」

 さすがに表立って、皇帝陛下の首を取るとは、私たちも言えない。
 皇帝陛下を事故死と見せかけて殺す。このために、劇団員たちは体の調子に演目の調整、得物の準備まで進めてきたのだ。
 特に剣舞。本来ならば後宮内の見回りをする兵士以外、武装というものは禁止されているため、剣舞に使う剣だって、首を落とすほどの鋭さはないのだけれど。調子を合わせて皇帝陛下の首目掛けて剣を飛ばす。
 何度も何度も練習して、その調子を合わせ続けていたのだ。体を自由自在に操れるようにならなければ、その芸当は不可能だった。
 春妃さんの占術で吉報を占い、劇団員は仕掛けるために腕を磨き続ける。そして紫珠様はそのとき梨妃の屋敷に入る人材の調整を行い続けていた。
 明日、皇帝陛下を殺す。
 そのための準備を、ここまでしてきた以上は、成さなければならなかった。
 舞台当日。
 私はいつもよりも早く起きて、宦官棟の人々が仕事をし出すよりも早くに天幕へと向かっていった。天幕は物々しい空気に包まれていた。
 半夏さんが言っていたように、劇団にいるほとんどの人たちが被害者であり、皇帝を殺したくて仕方がなく集まった人たちだ。私はその中に加えられるのかと、ほっと息を吐いた。

「緊張しているのか?」

 不意に寄ってきた半夏さんに私は「おはようございます」と挨拶をしてから、頷いた。

「……皆の気持ちを背負って舞台に立つんですから、重いですね」
「まあ……皆が皆、今回も成功しないとは思っているがな」
「え……?」

 そういえば。何度も何度も紫珠様は皇帝暗殺を謀ったとは言っていた。そのたびに春妃さんに止められていたとも。
 半夏さんは腕を組んだ。

「殿下はとにかく、天運が足りない。全くない訳じゃないんだ。だが、あれだけ暴君と化した皇帝が、今もなお、殺されることもなく欲望赴くままに生きていると思う?」
「そういえば……」

 後宮内であれだけやらかし、首都は女性は女の服を着られない。おまけに槐国は増税で貧しい者たちが次々倒れていっている。
 普通に考えて、この人じゃ駄目だと暗殺しようとする人は、紫珠様以外にも出てくるのに、ピンピンとしている。
 半夏さんは苦々しく言った。

「悔しいことに、皇帝陛下には天命がある。それが尽きないことには、俺たちに勝機はない」

 私はそれに黙り込んだ。

「──星主から逃げる者あり。それを火をもって助けることで、玉座を得るだろう」
「うん?」
「春妃さんが占術で見てくださった、紫珠様の天命です。今までは天命が不明瞭過ぎて読み取ることができず、紫珠様のことを止め続けていたと言っていますが……彼の天命は晴れました」

 私は手を握った。昨日紫珠様の手を取ったことを思い出す。
 あの人はこれは復讐だと言っていたけれど、それだけでこんな大それたことはできやしないだろう。私はあの人を信じたいし、信じようと思う。
 私があの人の星だなんておこがましいけれど、あの人の助けをしたいとは、心の底から思っている。
 やがて、天幕にまたひとりやってきて──私は思わず息を飲んだ。
 長い髪、涼やかな目元、通った鼻筋。このところずっと顔を合わせていたはずなのに、服を宮女のものや宦官のものから、官吏も着る着物に変えた途端に、静謐さと青竹のような美しさを纏った人に、目が釘付けになった。

「皆、ここまでよく励んでくれた」

 途端に皆、膝を突いてお辞儀をした。私もそれにならう。
 それを見回しながら、紫珠様は続けた。

「我らはこれまで、長きに渡る苦渋に耐えた。これで全てが終わり丸く治まるとは思えない。作戦を決行し、失敗したら即離脱。成功したら我々の勝利だ。気負うな。我々は何度も失敗を重ねている。しかし失敗は成功の母だ。また一歩成功に近付いたと思えばいいだけのこと。それでは……かかろう」
「はっ……!!」

 皆の声に私はビリビリとした。
 舞台用の衣装は、妃用の着物よりも布地はよろしくないが、同じくらいにひらりひらりと舞うもので、化粧も舞台用の厚めの化粧を施された。最後に唇に朱を差されたとき「丁香」と呼ばれた。
 こちらを温かい眼差しで見ていた紫珠様だったことに、自然と視線が俯いた。

「……こんなところにいてよろしいんですか?」
「もう今は俺のやることはないからな。根回し、武器の後宮内の持ち込み、人材調整……それくらいしかしてない」
「そこまでやってくれたら充分じゃないですか」
「……実行犯の中にお前を混ぜたが、後悔はないのか?」
「というより、そこまで思ってるんだったらどうして私を巻き込んだんですか?」

 単純に使える人材集めの一貫で私を助けたのかもしれないけれど、今は私はそれでいいんだ。

「私、まだなんにもしてませんから。役に立てるのかどうかも、まだなんにもわかりません。だから待っててくださいよ」
「……丁香」

 私の朱を差した唇に軽く触れると、自身の唇にその指で触れる。
 この人は本当に。私は思わず笑う。

「口付けは全てが終わってからでお願いします。化粧取れたら困りますから」
「……わかっている」

 私はそう言いながら、劇団の元へと向かっていった。
 ここから先が、大変なのだから。

****

 招待された梨妃の屋敷。
 そこは女性の兵士たちが並び、荷物検査をされる。もっとも、舞台に使う青竜刀などは「偽物です。壊されると困ります」と言い繕って持ち運ばなければならなかった。
 広い中庭に舞台設置の準備を手伝っていたら、「陛下」と可憐な声をかけながら歩いている女性と、醜悪な男性に目が入った。
 身綺麗な格好をしているにもかかわらず、年不相応に太くて垂れた肉は、とてもじゃないが美しいとは言えなかった。そしてそれに纏わり付いている女性。
 彼女は綺麗な着物に花のひとつを髪飾りで付けるならわかるものの、首飾り、腕輪と、あまりにも装飾華美が過ぎ、それが品格を落としているように見えた。年は皇帝陛下よりもひと回りは下で、紫珠様よりも年は食っているはずなのに落ち着きが足りないように思えた。
 しかし彼女は皇帝陛下にいい思いをさせてもらっている分、守る気はあるのだろう。護衛として、女性兵士が中庭の各地に配置されている。
 だが、特等席で見ようと思えばどうしても座席は舞台からは近くなる。
 私は手はず通りに剣舞を披露し、瞬間を謀って剣を壊す……剣舞用の青竜刀はわざと一カ所折れやすく仕掛けをつくっている……それを皇帝陛下に当てる。
 それで皇帝陛下は死ぬはずだけれど。これは少し間違えば梨妃に当たり、梨妃が死んだ場合は彼女の実家を敵に回すことになる。彼女は皇帝陛下に利を与える家系であるのだから、後宮内で娘が死んだとなれば黙ってはいない。
 殺せなくてもいいと、紫珠様がずっと連呼しているのはこういうことだ。
 私は出番まで、青竜刀を構えて、息を飲んで見守っていた。
 やがて、舞台ははじまった。舞踏はきらびやかな上に迫力があり、女性も宦官も踊りが冴え渡っている。
 ここにいる人々が、皆皇帝陛下に殺意を抱いているとは、舞台の端からではわからない。皆が皆、殺意を押し殺しているのだから。
 やがて。私の出番が来る。
 青竜刀を構え、剣舞を舞いはじめた。もっと緊張すると思っていたのに、不思議と気持ちが凪いでいるのは、舞台を見ている人々の様子が見えるせいだろう。
 心底楽しそうにしているのは、皇帝陛下と梨妃だけ。他の顔の端々が、どこか強張って見えるのだ。
 舞台からだと、それがよく見える。なのに客席にいるはずの皇帝陛下も、その妃も見向きもしない。この人たちは、彼女たちの不幸の上に後宮生活が成り立っていることに、気付きもしないのだ。
 だんだん私の剣舞に、共に踊る人たちが増えて行った。
 時には剣を結び、時に剣を交わす。
 そして私たちはじりじりと移動をする。皇帝陛下の前。その隣にへばりつく梨妃。彼女に当てずに皇帝陛下だけ狙うのは至難の業だ。これを……どうする?
 そう思っていたところで、「おお」といきなり皇帝陛下が梨妃を引き剥がして立ち上がった。
 って、なんで!? まさか暗殺がばれた? 私たちは舞台の人たちと視線を交わすが、周りも剣舞をしながら戸惑った空気が流れる。

「これ、半夏! この娘は何者か!?」

 そう言いながら、団長の半夏さんをいきなり呼び出した。そして私のほうにねっとりとした視線を向けてくる。
 ……厚化粧のせいか。私と逃亡した姉は、顔の繊細さは天と地ほど違い、姉のほうがはるかに上だったが。舞台用に厚化粧をしてしまえば、なんとなく形だけは似てしまう。
 ……紫珠様に助けてもらったというのに、またこれか。
 私が唇を噛んでいた中、ふいに誰かが舞台に上がってきた。

「失礼、父上。彼女は俺の妻になります」

 そう言いながら、肩を抱いてきたのは、紫珠様だった。途端にざわつく。特に兵士たちは顔を真っ青にしている。

「殿下がどうして後宮に!?」
「警備はいったいどうなっている!?」
「殿下、困ります。後宮に勝手に入られるのは……!」

 そのひと言に、皇帝陛下は目を細める。

「なんじゃ紫珠。なぜわしの後宮の女に手を出しておる?」
「先に出会ったのは俺ですよ。皇帝ともあろうお方が、正一品の前で皇太子妃に手を出すのはいかがなものかと思いますが?」

 私はだらだらと冷や汗を掻きながら、ちらりと梨妃のほうを見る。実際に彼女は、顔を引きつらせて怒鳴りたいのを堪えていた。立場的に、ないがしろにしてはならない方なんだろう。
 一応皇帝が皇太子妃に手を出した醜聞は、世の中結構あるんだけれど、正一品主催の催し物でそんなことをした例は私も聞いたことがない。正八品みたいな最下位妃と皇帝でいうところの正妻に当たる皇太子に対する皇太子妃だと、ここまで変わってくる。

「陛下……? どういうおつもりですか?」
「ああ、梨妃! 違うのだ、これは……!!」
「お父様にこのことは連絡させていただきますわね」
「梨妃……!!」

 一旦梨妃が癇癪を起こしたことで、舞台の中断は一旦流れた。私は一旦舞台裏に紫珠様と移動する。

「……すみませんでした。庇わせてしまって。私、一応ここで皇帝陛下をやるつもりでしたのに……」
「こちらこそすまない。親父が女に手を出すことはあっても、まさか正一品の前で余計なことをするところまで読めなかった。いったいどこまで品位を下げるつもりだ、あの糞親父は」
「でも……私みたいなのが後宮に混ざってるってばれてしまったのは、少々まずいんじゃないですか? 劇団の人たちにも迷惑がかかるかと思いますし」
「どっちみち、今回の暗殺計画は一旦中止するしかないだろうさ。だがな」

 紫珠様は私の唇を撫でる。そして自分のものに触れる。

「……後宮のほうがそれでも安全なんだ。外は親父だけでなく、官吏の目もある。親父は女のこと以外は本当になにも考えていないが、官吏は親父の使い方が上手い。迂闊に丁香を外に出して、人質に取られるくらいだったら……」
「……私がまだ、どこに匿われているかは、あちらも調べがついてはいませんよね」
「丁香?」
「後宮内での戦い方は、まだわかりませんが。味方を増やします。そして必ず、あの皇帝を倒しましょう」

 私は手を取った。

 まだ私たちはなにもできない。
 剣は使えても、剣先が届かない。知恵はあっても、天命が不明瞭。
 それでもいつかはこの、ひどい後宮を変えられると。そう信じている。

<了>

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