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 最近思うんだけど
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 そろそろ交換日記も終わっていいんじゃね?
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 つい、書いてしまった。

 勢い余って書いてしまったものの、さすがに渡すのに躊躇している。

 いや、書いたときはこれが本音だったんだけど。多少むしゃくしゃしていたのもあるけれど。妹の美久が『希美ちゃんと喧嘩でもしたの?』とおれに冷たい視線を向けて言ってきたのもある。喧嘩したわけではないので否定したが、『ムキになるところが怪しい』『どうせお兄ちゃんが悪いんだからちゃんと謝りなよ』と言われたのもムカつく。

 言いたいことだけ言って『あーあ、楽しみにしてたのになあ』と美久はおれに背を向けた。なにを楽しみにしてるんだ。黒田が家に来るのは美久に会うためではなくおれのためだというのに。毎回邪魔しに来て黒田と話をしようとするのだから邪魔で仕方がない。そしてまるでもう二度と家に来ないみたいに言うのはやめろ。

 思い出したらまたムカついてきた……。

 喧嘩なんかしてねえし。
 っていうか黒田と喧嘩なんか一度もしたことがない。

 黒田はいつでもおれの意見を受けいれる。どっちでもいいよ、と言って、本当におれがどっちを選んでも楽しそうにする。

 言いたいことがあるのに、我慢をしているわけではない、はずだ。
 やりたくないことにいやいや付き合う、という感じもない。

 そう思っていた。今も、思っている。

 でも頭の片隅に、本当にそうなのか、と首を傾げる自分がいる。

 それは、ここ最近の黒田が、どことなく言葉を呑みこんで誤魔化しているように感じるからだろう。なにかしらきっかけがあったのか、もしくは、おれが気づかなかっただけでこれまでもそうだったのか。

 気になり出すと、そのことばっかり考えてしまう。

 なんだか、誕生日に会えないことになってから、自分が自分じゃないみたいにうだうだしている気がする。なんだか、気持ちが悪いな。自分が鬱陶しくて仕方がない。

「なあなあ、セトー」
「なんだよ」

 ヨネがおれの機嫌を窺うように声をかけてきて、怪訝な顔をしながら振り返った。ヨネはヘラヘラと笑っておれの前の席に腰を下ろす。

「なあ、セト、誕生日結局どーすんの?」
「なにが?」
「クラスのみんなと遊ぶのか?」

 なんでヨネがそんなことを気にするのだろう。今までそんなふうにおれの予定を訊いてきたことなんかないのにどうした。

 と思ったところで、黒田かな、と思い至る。

 ヨネの彼女と黒田は仲がいいので、なにか相談を受けたのかもしれない。そこで、ヨネが一役買おうとでもしているのだろう。

「行かない」

 おれが答えると、ヨネはわかりやすくほっとしたように笑った。
 ヨネが心配するほど黒田はおれが女子と出かけることを気にしているんだろうか。

 正直、悪い気はしない。

 でも、ヨネを通さずに、自分で言えばいいのに、とも思う。

 なんで自分の口で直接おれに言わないのだろう。せめて交換日記に書けばいいのにそれもしないのはなんでなんだ。

「じゃあ、オレと遊ばねえ?」
「は? なんで?」

 にこにこしながら遊びに誘われて、眉間に皺を寄せる。

「なんでって、たまにはいいじゃねえか」
「いいけど……ふたりでか? おれの誕生日に? なんで?」
「オレもセトの誕生日を祝ってやろうと思ったんだよ。ひとりでさびしいだろ。ほら、せっかくだしセトの家に行ってケーキでも食おうぜ」
「ヨネの家、おれの家とは反対方向じゃねえか。いいよそんなの」

 なにを言っているんだこいつは。

 今までヨネがおれの家に来たことは一度だけだ。それも遊びに来たわけではなく、テスト前におれのノートを借りに来ただけだ。

「おれの家に来るのはいいけど、平日じゃなくて休日にしろよ」
「そう言うなよ」
「学校帰りとか時間がなくて忙しなくなるだろ。おれが黒田と過ごせないからってヨネに気を遣われるのも気持ちわるいっつの。たかが誕生日なんだから」

 そう、たかが誕生日なのだ。
 ポケットに手を突っこんで、背もたれにもたれかかる。

「受験間近のこの時期に、そんなことで一日潰す必要ねえよ。おれも勉強したいし」
「えー、でも、誕生日だぞ?」
「予備校でも行って自習するつもりだから、誕生日は学校で祝ってくれ」

 口にしながら、これはウソだな、と自分に突っこんだ。

 勉強しないとまずいのは、本当だ。前回の模試でC判定だったし。ただ、気にしているのかと言われると、そうでもなかったりする。どこでミスをしたのかは、自己採点のときにただのケアレスミスだと判明している。同じようなミスをしなければ、特に問題ないだろう。

 それに、ヨネやクラスメイトがおれの誕生日を祝おうとしてくれているのはありがたいが、そういう気分になれない。

 黒田と会えないから別の友だちと会う、なんて、マジで黒田に断られてさびしがってるみたいだ。そんなふうに黒田に思わせたくないし、自分でも本当にそうなんじゃないかと思えてきて情けなくなる。
 なら、いつも通り勉強しているほうがマシだ。

 きっぱり断ったのに、ヨネは、「ほんとに?」「そう言わずに」「たまにはいいじゃん」とやたらと食い下がってくる。

 あやしい。あやしすぎる。ヨネはそんなにおれのことが好きだったのか?

 っていうか今まで一度もヨネに誕生日を祝ってもらったことはないよな。おれもヨネの誕生日を祝ったことないし。

「まさか、クラスの誰かとサプライズでもしようと思ってたんじゃねえだろうな」
「へ? え?」

 目を見開いて声を裏返すヨネに、図星かよ、と呟いた。

 なんだってそんなことを考えついたのか。ヨネだけではなく、クラスメイトもきっと一緒に計画をしているのだろう。そう考えればヨネの一連の行動も納得だ。

 おれの家に来たいと言ったのはよくわかんねえけど。そういう体でどこか別の場所に連れて行くつもり、とかか。

「そういうのはいらねえから」

 サプライズは本当に苦手だからやめてほしい。リアクションを求められるみたいで、プレッシャーになる。うれしい気持ち以上に、相手のために求められている反応をしなくてはいけない、という気持ちのほうがでかくなる。これまで何度か家族にも友だちにも『反応が鈍い』と不満そうに言われたことがあるので、余計だ。

「マジで、やめろよ」
「……はい」

 念を押すように言うと、ヨネがしゅんと肩を落として頷いた。
 ヨネにここまで言えば、もう誰も当日おれになにかをしようとは思わないだろう。

「セトと付き合ってる希美ちゃんは大変だなあ、ほんと」

 ヨネははあーと諦めたようにため息を吐く。

「なんでだよ。ここで黒田が出てくんの」
「いや、深い意味はないけど……。なんか希美ちゃんはセトのこといろいろ考えてんのに、噛み合ってないというか。希美ちゃん、悩みが尽きないだろうなって」
「……お前、黒田とそんなに仲良かったっけ?」

 いろいろってなんだ。噛み合ってないってなんだ。

「そりゃあ、相談されたりアドバイスしたりする仲だし」
「は? おれとのことをヨネに相談してんの? なんで? なにを?」

 そんなこと初耳だけど。
 そんなにおれに関係する悩みがあんの?
 おれには言えないくらい、黒田はおれに気を遣ってるってことか?
 今までそんなそぶり見せなかったのも、おれのせいなのか? それが〝噛み合っていない〟ってことなのか?

 なんか、すげえ気分が悪いんだけど。おれのせいだとしても、それでもおかしくないか。おれに対して黒田はずっと、なにかしらの不満を抱えていて、おれの機嫌を損ねないように振る舞っていたのか。なんだそれ。