約一週間後の十月三日は、付き合ってからはじめての、瀬戸山くんの誕生日だ。

 付き合ったのが十二月の末だったため、クリスマスはデートだけでプレゼントはお互いに贈らなかった。その後、バレンタインとホワイトデー、そしてわたしの誕生日を瀬戸山くんと過ごした。

 わたしの誕生日は、一緒に出かける約束をしていたのだけれど、「今日は黒田の誕生日だから、黒田はなにも選ばなくていい日にしよう」と瀬戸山くんは事前に決めていたというデートコースをまわった。お気に入りのレコードショップに行ってすでにチケットを取っていてくれた映画を観て、ウインドウショッピングをしてから瀬戸山くんの家に行った。

一緒にケーキを食べているときに、その日わたしが目を止めたハンドクリームとリップ、そしてレコードショップで試聴していたアルバムをプレゼントしてくれた。わたしの気づかないあいだにここっそりと購入してくれていたらしい。てっきり映画やケーキがプレゼントだと思っていたので驚きのあまり泣いてしまったのだけれど、それを見て瀬戸山くんは満足そうに笑ってくれた。

 とても素敵な誕生日だった。

 江里乃や優子、友だちと過ごす誕生日とはまったくちがった一日だった。
 そんな日を、瀬戸山くんにも過ごしてもらいたい。

 でも、どんな一日にすればいいだろう。瀬戸山くんがわたしにしてくれたことと同じようなことをするのは、なんだかちがう。

 瀬戸山くんに、特別な一日だった、と思ってもらいたい。
 瀬戸山くんのため、だけではなく、わたしが、そうしたいから。
 そのためには、〝わたし〟がちゃんと考えて決めなくちゃいけない。

 ――それは、優柔不断なわたしにとって、難題だ。


 どうしようかと、なにをしたら喜んでもらえるだろうか、と二学期がはじまってからずっと考え悩んでいた。
 やっとのことでどうするか決めたのは、先週のことだ。

「瀬戸山の誕生日のことでしょ? サプライズでお祝いするって言ってたよね?」

 江里乃に言われてこくりと頷く。
 瀬戸山くんは自分の誕生日にあまり特別感を抱いていない、と以前言っていた。祝ってもらうのはうれしいし、ひとの誕生日はもちろんおめでとうと心から思うけれど、と、米田くんの誕生日に話していたのを覚えている。わたしの誕生日の数ヶ月前で、だからこそ、わたしの誕生日を素敵な一日にしてくれたことに、驚き喜びでいっぱいになった。

 そこで、サプライズでお祝いをしたらどうだろう、と思ったのだ。

 瀬戸山くんの誕生日である十月三日は平日だ。学校帰りにどこかへ一緒に出かける約束をすれば、サプライズにはならない。そこで瀬戸山くんの妹である美久ちゃんにも協力をお願いした。学校が終わってすぐに瀬戸山くんの家に向かい、美久ちゃんと部屋を飾りつけして、一緒にご飯とケーキを作る。

 そしてなにも知らずに帰ってきた瀬戸山くんを驚かす、という計画だ。

 幸い、その日はわたしも瀬戸山くんも予備校がないので、放課後は時間がある。理系コースの瀬戸山くんはわたしよりも帰宅が一時間遅いので、急げば準備は間に合うだろう。

 そして、その日は瀬戸山くんとゆっくり過ごせたらいいな、と思っている。

 高校三年生になって、なかなか以前のようにゆっくり会えなくなった。付き合ってはじめての夏休みも、ほとんど勉強漬けで終わってしまった。

 遊びたい気持ちに蓋をして、今を乗り越えたら気兼ねなく過ごせる日々がやってくるよね、とふたりで話しながら勉強に向き合った。

 今はできないけれど、でも、ずっと受験が続くわけじゃないから。

 でもやっぱり、遊びたい、受験なんかうんざりだ、と瀬戸山くんはいつも言っている。本音を言えば、わたしも同じ気持ちだ。

 だから、その日だけはなにもかも忘れて、楽しく過ごしたい。

 瀬戸山くんの誕生日だから、瀬戸山くんのために、というだけじゃなくて、わたしのためにも。

 ただ、やっぱりわたしひとりで決断するのは不安があったので、江里乃や優子にもサプライズを計画しているんだけどどうだろう、と相談した。ふたりはそれを「いいと思うよ」「絶対喜ぶよ」と言ってくれた。

「決めたのになに悩んでんの? あ、もしかして有山がなんか変なこと言ったんじゃない?」
「え? 俺? 林、今俺の話した?」

 優子がわたしのとなりの席に座っていた有山くんをじろりと睨む。偶然にも席に戻ってきたところだった有山くんがびくりと肩を震わせる。

「いや、ちがうちがう……! 有山くんはすごく、相談にのってくれたから」
「そうだよ、なんだよやめろよ林、ビビるだろー」

 元野球部の有山くんは大きな体を縮こまらせて優子を怖がるような仕草をした。ほんとにー?と優子が冗談交じりに訝しむと、江里乃が「やめなよ優子、有山が泣くでしょ」とからかいながら止める。

 有山くんは一見怖そうな雰囲気だけれど、とてもやさしくて怖がりだ。男子と話すのが苦手なわたしだけれど、有山くんはとても話しやすい。といっても、よく話すようになったのは、二学期になって席がとなりになってからだ。

 優子と江里乃と瀬戸山くんへのプレゼントについて悩んでいるとき、「それ、今流行ってるって姉ちゃんが言ってたよ」と話しかけて来てくれたのがきっかけだった。

 どうやら有山くんのお姉さんが雑貨のセレクトショップの経営をしているらしく、男性のあいだで人気のあるものや、プレゼントに良さそうなものに詳しいのだとか。

 そこで、有山くん経由でお姉さんからお店にあるおすすめの商品の写真を見せてもらっている。

「有山くんはいろんなこと教えてくれたよ。ただ、わたしが悩んでるだけで」
「ならいいけどー。っていうかプレゼントなにするかも、まだ悩んでるの?」
「うーん……これっていうのが、なかなか、決められなくて」
「優柔不断の希美ひとりで決められるのー?」

 優子に言われて、言葉に詰まる。

「松本と林は黒田のこと優柔不断って言うけど、結構『これはちがう』『こっちのほうがいいかな』ってはっきり言うよな」

 そのせいで未だに決まってないとも言えるけど、と言葉をつけ足した有山くんは「な」とわたしに同意を求める。

「そう、かもしれない。自分のだったらどれもいいって思うのに、なんか、うーんってなっちゃって。あ、でも、だいぶ絞ったよ」
「俺のイチオシはサコッシュだけど、それ?」
「……いや、それは……ちがうかな」

 有山くんには申し訳ない気持ちで首を振る。

 いや、サコッシュはいいんだけど、いいんだけどね。瀬戸山くんがそれを持つ姿がいまいち想像できないっていうか、持ちそうにないっていうか。

 しょんぼりする有山くんを見て慌ててフォローをしようとする、と。

「なにしてんの、黒田」

 瀬戸山くんの声が聞こえてきて、体がびくんと大きく跳ねる。

「っせ、瀬戸山くん?」
「いや、驚きすぎだろ。どした」

 振り返ると、目を丸くしたわたしに瀬戸山くんが苦笑する。
 話を聞かれていたのでは、と思ったけれど、その様子はなくほっと安堵する。

 びっくりした……サプライズのことを聞かれていたり、内緒でプレゼントを考えていることがバレたりしたら、お祝いどころではなくなってしまう、かもしれない。

「ど、どうしたの?」
「べつに。ヨネについてきただけ」

 瀬戸山くんがくいと顎でそばにいた米田くんをさした。どうやら米田くんは優子に会いに来たようで、いつの間にかふたりは楽しげに話をしている。

「学校でしかゆっくり話す時間ねえもんな。予備校がちがうとなかなか遊べねえし」

 お互い予備校に通いはじめてから、一緒に帰るのも週に一度あるかないかになっている。理系コースと文系コースは学校が終わる時間がちがうのもあるけれど。

「来月半ばにはテストもはじまるしな。黒田、勉強してる?」
「まあ……うん、たぶん」
「なんだよ、たぶんって」

 ぷは、と瀬戸山くんが噴き出す。

「テストもあるし、受験勉強もあるし、忙しいよな」
「そうだね。なかなか、ゆっくり会えないね」
「そういうことだな」

 瀬戸山くんはそう言って、わたしの目をまっすぐに見つめてきた。
 どことなく、わたしの様子を探っているような、確認するかのような視線だ。

 もしかしたら、瀬戸山くんは交換日記に〝忙しくてしばらく会えない〟と書いていたことに対しての理由をつけ加えるために、こうして会いに来てくれたのかもしれない、と思う。

 秋になって、大学受験が目の前に迫ってきた。

 わたしと瀬戸山くんは、別々の大学を第一志望にしている。わたしはなんとかA判定をもらえているけれど、たしか瀬戸山くんは前回C判定だったと落ちこんでいた。

 だから、これから受験まで勉強に集中するつもりなのだろう。しかも今は受験だけではなく中間テストも控えている状態だ。

 そっか、そうだよね。
 そう考えて、換日記を受け取ってから胸の中にずっと居座っていた不安の種が小さくなったような気がした。
 うん、やっぱり、わたしの考えすぎだった、のだろう。そうに違いない。

 ここ最近一緒にいるときもメッセージのやりとりをしているときも、なんとなく瀬戸山くんがぎこちない気がしていたのだけれど、それもきっと、受験のせいだ。

 しばらく会えないのは、わたしのウソに気づいて怪しんでいるからなのでは、と思ったけれど、後ろめたさからついつい瀬戸山くんの言動を深読みしようとして怯えてしまった。

 ……たぶん。うん、そう、そのはず。

「っていうか、黒田って有山と仲良かったんだな」
「へ? 仲がいいというか、クラスメイトだしとなりの席だからたまに話すだけだよ」
「なんか選んでたのか?」
「え? あ、え? いつから、そばにいたの?」

 一瞬にして冷や汗が流れる。
 聞こえてなかったんだー、とほっとしたところなので、頭が真っ白になってしまう。
 もしかして、バレた? え? どうしよう!

「いつって、さっき?」

 首を傾げて瀬戸山くんが答える。この仕草は……バレていない、と思う。

 瀬戸山くんの性格なら、サプライズを計画していることを知ればすぐに、『おれの誕生日のこと?』とか『サプライズしようとしてね?』とわたしに言うはずだ。

 だから、きっと大丈夫だ。

 では、今この状況をどう誤魔化せばいいのか。
 瀬戸山くんと有山くんは顔見知りだったのか、という今この状況ではどうでもいいことが頭に浮かんでくる。

「診断テストだよ」

 あわあわしていると、江里乃が横からひょこっと顔を出してわたしのかわりに答えてくれた。

「これこれ。『あなたの恋愛傾向』ってやつ」
「なんだそれ、しょうもねー」

 まるで準備していたかのように、江里乃が一冊の雑誌を広げて瀬戸山くんに見せる。そこにはたしかに『あなたの恋愛傾向』の診断テストがあった。イエスとノーのどちらかを選んでいくものだ。

 さすが江里乃!
 ちらりと江里乃に視線を送ると、瀬戸山くんに気づかれないようにわたしににっと笑ってみせた。

「こういうのって当たんの?」
「うーん、どうだろ。でも、ゲームみたいな感じで楽しいよ」
「ふうん」

 江里乃の見せた雑誌をまじまじと見ていた瀬戸山くんが、わたしを見た。

「こういうのなら選べるんだな」
「さ、さすがにそのくらいはできるよ」

 くくっと笑われてしまう。普段は〝どっちでもいい〟とばかり言ってしまい選べないわたしだけれど、このくらいはできる。ただ、選ぶのにものすごく時間はかかるけれども。選ばないと先に進めないので。

「なんでもかんでも優柔不断なわけじゃない、と思う」
「ふは、なんだそれ。全然自信ねえじゃん」

 ぱたんと雑誌を閉じた瀬戸山くんが、はい、とわたしにそれを差し出してきた。いつのまにか江里乃がいなくなっているので、わたしがかわりに受け取る。

「でもおれは、黒田の〝なんでもいい〟って返事、好きだけどな」

 にひひ、と白い歯を見せる瀬戸山くんは、なんの恥ずかしさも躊躇もない。そのくらい自然に、わたしに〝好き〟だと言う。

 ……そういうのを、さらっと、人前で口にされると、反応に困るんだけど!

 思わず顔を赤くしてしまうと、
「どこに照れる要素あった?」
 と瀬戸山くんが不思議そうな顔をする。

 付き合って十ヶ月にもなろうとしているのに、これだけは慣れないままだ。いつだって瀬戸山くんは何気ないセリフでわたしをドギマギさせる。

「あんまりひとの多い場所で照れた顔晒さないほうがうれしいんだけどな」
「……瀬戸山くん、もう、もうやめて」

 そういうことをなんの躊躇もなく言われるとますます照れるから!
 両手で顔を覆って俯くと「照れるポイントがマジで謎だよな」と瀬戸山くんが心底わからないらしい返事をする。

 わたしにはなぜ自分の発言のせいだと瀬戸山くんが気づかないのか謎なんだけど。

 わかっている。瀬戸山くんはただ思ったことを口にしているだけだ。
 それは瀬戸山くんの気持ちがまっすぐに伝わってきて、うれしい。
 うれしいけど、だからこそ余計に恥ずかしい!

 江里乃がどこかから、にやにやした顔か、もしくは呆れたような顔でわたしを見ているはずだ。もしかすると今教室にいる全員がそんな顔をしているかもしれない。

 目を覆ったことで幾分か気持ちが落ち着き、ゆっくりと顔を上げる。まだ頬が熱い感じがするけれど、平常時に戻るには一時間ほどかかるだろうと諦める。

「中間終わったら、ゆっくり会える時間作るか」
「え、あう、うん、そうだね」

 瀬戸山くんに言われて頷く。

「でも、わたしのために無理して時間を作ろうとは、しないでね。会えるのはうれしいけど、でも、できる範囲で、会えるのが一番うれしいよ」

 しばらく会えない、と交換日記に書いていたことを思い出して言葉を付け足すと、瀬戸山くんは眉を少し下げた。困っているような、なにかを耐えているような、そんな表情だ。もしかしたら瀬戸山くんは、思った以上に志望校のC判定を気にしているのかもしれない。だから、そんならしくない顔をするのだろう。

「しばらく会えなくても、いいのか?」
「わたしは、大丈夫。連絡は……するけど」

 メッセージや電話はできるし、学校に来れば数分だとしても会うことができる。それだけで充分だ。
 瀬戸山くんに気を遣わせないために笑顔を見せて答える。

「そっか。んじゃ、また連絡する」
「うん、ありがとう」

 次の授業を知らせるチャイムが鳴り、瀬戸山くんは米田くんと一緒に理系コースの校舎に向かって去っていった。

 その後ろ姿を見つめながら、考える。

 ……このタイミングでサプライズパーティーをしても、いいのかなあ。
 誕生日はちょうど、期末テストがはじまる直前だ。そんな日の放課後に、誕生日を祝える余裕があるのだろうか。瀬戸山くんの負担になりはしないだろうか。

 なにより。
 ――『サプライズって、賭けじゃねえ?』
 瀬戸山くんが以前言っていたセリフが蘇る。

「相変わらず、ストレートな性格だねえ」

 江里乃がどこからともなく現れて、わたしと同じように瀬戸山くんの背中を見ながら言った。そして「瀬戸山ならサプライズも喜んでくれるんじゃない?」と言葉をつけ足す。

 わたしもそうなんじゃないかな、と思っていた。素直に感情を顕わにする瀬戸山くんだから、誕生日を特別な日だと思っていなくても、わたしの祝いたい気持ちを受けいれてくれるんじゃないかと。

 でも。

「……瀬戸山くん、サプライズきらいなんだって……」

 力なく笑って呟くと、江里乃は「え、そうなの?」と驚いた声をあげた。

「瀬戸山くんが、そう言ったの」
「ああ、なるほど。だから悩んでたのか。まあサプライズ苦手なひともいるよねえ」
「うん……なんか、反応を返さなきゃいけないのが気を遣うから苦手なんだって……だから、自分も誰かのサプライズパーティーとかはしたくないって、言ってた」

 瀬戸山くんのクラスの担任の先生が結婚する、という話がきっかけだった。クラスで担任の先生のサプライズパーティーをしようという計画が出たらしい。そのことに対して、瀬戸山くんは『サプライズにしないで堂々と祝ったほうがいいんじゃないかと思う』と言っていたのだ。

 しょんぼりしながら説明すると、
「それだったらサプライズは諦めたほうがいいかもねえ」
 と江里乃が言う。

 そうだ。そのほうがいいだろう。
 でも、問題は。

「もう、誕生日当日、用事があるって言っちゃったの……」

 そのウソをついたあとに、サプライズがきらいだという事実を知ってしまったのだ。

 わたしが誕生日当日、会えないのだと言ったとき、瀬戸山くんは「そっか、じゃあしゃーないな」というあっさりした返事だった。残念そうにはまったくしていなかった。そのくらい、瀬戸山くんにとって誕生日はそれほど大事なイベントではないということだ。

 それはわかっていた。わかっていてサプライズを計画し、ウソをついた。そのことにも少し後ろめたさと、ほんの少しのさびしさを感じていたとき。

 ――『サプライズって、祝いたい側が楽しむ感じしねえ?』

 そう、笑顔で言われてしまった。
 数十分前に言ったばかりで撤回してもいいだろうか、いや、すぐに取り消すべきだ、そう思った。けれど。

 ――『それにサプライズって、ウソつかねえといけねえじゃん』
 ――『ウソついて、実はお祝いでしたーって、テレビのどっきりみたいだよな。おれ、あのバラエティーのドッキリって好きじゃねえんだよなあ。悪趣味だよな』

 瀬戸山くんの言葉に、なにも言えなくなってしまった。

 たしかに、と思ったからだ。わたしもドッキリはあまり好んで見ることはない。それに、わたしもサプライズをされると戸惑いのほうが大きくて、困ってしまうし反応に気を遣ってしまうので苦手だ。

 瀬戸山くんにされたら、そんなことは思わないけど。
 瀬戸山くんになら、うれしい気持ちでいっぱいになる。

 でも、それはわたしの場合だ。

 結局、わたしは、また、瀬戸山くんにウソをついてしまった。

 その後ろめたさから、瀬戸山くんと一緒にいるとどこか挙動不審になってしまい、落ち着かない。瀬戸山くんの態度もどことなくいつもと違うような気もしてきて、余計に自然と振る舞えなくなっている。

 それが、わたしたちのあいだにある空気が微妙に感じる原因だ。
 つまり、すべてわたしのせいだ。

 瀬戸山くんはなにもかわらない、はず。でもやっぱり、なにか気づいているような気もする。もしくはべつの理由で、わたしになにかしら思うことがあるんじゃないか。

 だってわたしはウソつきだし、優柔不断だし、自分の意見をはっきり口にできないし。瀬戸山くんがそんなわたしに愛想を尽かす――という可能性だってある。

「……マイナス思考が暴走する……」

 はあーっとため息を吐く。

 サプライズなんて、わたしには向いていない無謀な計画だったのかもしれない。瀬戸山くんもきらいならば、考え直したほうがいいかもしれない。いや、そうしたほうがいい。

 わかっているのに、なかなかその決心はつかない。
 やっぱりわたしは、優柔不断だ。自分がいやになる。

 瀬戸山くんとの交換日記を手に取り、ぎゅっと抱きしめた。
 せめて、この交換日記ではウソをつかないようにしなくちゃ。

 そう思ったけれど、今のわたしにウソ偽りない言葉を書けるのか、自信がない。