放課後、翔真は校庭で友人たちとサッカーをしていた。
一華たち三人は教室から無邪気に遊んでいる翔真を眺める。
放課後の校庭では部活動が盛んに行われているが、遊ぶ生徒も多い。
田舎寄りの学校なので、無駄に広い校庭は活発な生徒から人気がある。
サッカー部が敷地外でマラソンの如く走り込んでいる日に、翔真は友人たちとサッカーをする。それが終われば四人で帰宅する、というルーティンができていた。
体操服に着替えればいいものの、制服で遊ぶ翔真に一華はため息を吐いた。
本当にあれが同じ高校生なのだろうか。子どもにしか見えない。
友人たちと喋りながらボールを蹴り、屈託なく笑う翔真に、不本意ながらも胸が高鳴る。
絶対に言いたくはないが、恰好いいし可愛い。
特に、今のように無邪気に笑っているところが一番好きだと感じる。
麗奈と流星はサッカーをする翔真を見ながら会話をしている。
翔真に熱っぽい視線を送らない麗奈に、心の隅で良かったと思う。
「ねえ一華、聞いた?」
「え、何?」
一人黙って翔真を見つめていると、麗奈と流星が話に入れてくれる。
二人からすると仲間外れのように見えていたのかもしれない。
放っておいてくれたらずっと翔真を見ていたのだが、気を遣ってくれてのことなので笑顔を作って話に入れてもらう。
「翔真くん、三組の林さんに告白されたらしいよ」
「そういうことを広めるのはよくないよ」
「もう、流星は黙っててよ。翔真くんは断ったらしいんだけど、信じられる?あの林さんからの告白だよ」
三組の林さんは美人で有名だ。
本人と話したことはないので詳しくは知らないが、読者モデルをやっていると聞いたことがある。
あの美人を断った話なら、誰よりも先に情報を仕入れた。
翔真と二人きりのときに聞いてみたら、美人だけど怖そうだからと振ったようだった。
美人を断るなんて他に好きな人がいるのではと勘繰ったが、翔真は可愛い系がタイプであるため、美人系の林さんは好みではない。
ここ最近で一番安堵した。
もし二人が付き合ったなら、登校拒否にでもなりそうだった。
「翔真くん、子どもみたいで可愛いからモテるよね」
「あいつ昔から何故かモテるんだよね」
麗奈が翔真に惚れている感じはなく、流星と良い雰囲気だと一華は思うことが多い。
二人が付き合って、自分は翔真と付き合う。そうするとダブルデートができたりして、楽しそうだ。
「一華ちゃんは浮いた話がないよね」
流星のこの一言で、話題は一華の恋愛話になった。
自分の恋愛話を他人にしたことはなく、する気もないため自分の話題になりギクリとした。
「そ、そうかな」
浮いた話がないのは二人も一緒だが、麗奈は一華の恋バナを聞きたいようで興味津々だった。
元から大きな瞳を更に大きくして、一華の方に身を乗り出す。
一華より長くふわっと軽そうな髪が揺れて一華の耳を掠めると、甘いお菓子のような匂いがした。
「一華はどんな人がタイプなの?わたしたち、あんまりこういう話してこなかったから、すごく気になるなぁ」
「タイプなんて分かんないよ」
「えー、優しい人とか面白い人とかあるじゃない」
「じゃあ優しくて面白い人」
「もう、真似しないでよ!本当は?」
「だから優しくて面白い人だってば」
恋バナをする気がない一華を見て麗奈は拗ねたが、それも少しの間だけで、またすぐに一華の恋バナに食らいつく。
「じゃあ好きな人とかいないの?」
「いないよ」
「本当に?幼馴染の翔真くんと恋に落ちたりしないの?」
「それを言うなら麗奈こそ、幼馴染の流星と恋に落ちたりしないの?」
「流星は家族みたいなもんだよー。何年も一緒にいるんだから、今更恋愛に発展するわけないもん」
「だよね」
恋バナに関して鉄壁な一華に対し、流星は申し訳なく思っていた。
もしかしたら苦手な話題を振ってしまったかもしれない。思い返せば一華が自分の恋愛について話したことはなかった。
目を輝かせて一華から恋バナを引き出そうとする麗奈の肩を掴み、流星は校庭を指した。
「ほら、翔真たち終わったみたいだよ」
一華と麗奈が校庭を見下ろすと、翔真が二人に気付きピースサインを送った。
麗奈は笑顔で手を振り、一華は目を逸らした。
顔が熱い。気づかれていないだろうか。
片手で頬を触り、熱が冷めるのを待った。
翔真が教室に戻ってくると、鞄を手渡し、教室から出た。
校門を通り抜けると一華の隣で翔真が歩き、麗奈の横で流星が歩く。
定位置はないが、今日は幼馴染ペアで横に並んだ。
動き回って汗をかいている翔真は制服のシャツにしみをつくり、髪は少し濡れている。
そんな翔真が一華の隣に来ると、一華は嫌そうに顔を顰めて「くっさ」と言い放つ。
本当は汗の匂いなんてしないが、こういう態度をとるのはいつものことだった。
翔真は一華の態度を見て、自分についた汗を擦りつけるように一華に引っ付く。
「汚いからやめて」
「俺の汗は神聖な水だぞ」
冗談を言い合うこの時間が、一華は好きだった。
誰にも言ったことはないが、四人での下校時間が密かに楽しみだった。
「あ、そうだ。明日他校の奴等とサッカーするんだけど、観に来ねえ?」
翔真が思い出したように三人に言う。
明日は土曜日で、学校は休みだ。部活動に入っていない三人に予定はない。
翔真はサッカーが好きだが、他の三人は興味があるわけではない。
こういう誘いはよくあり、翔真がサッカーする姿を見ながら三人で談笑する。終わったら四人で帰る。
そんな時間を今までも過ごしてきた。
「いつもの広場でやるんだ。お前等予定ないだろ」
「いやいや、忙しいかもしれないだろ。俺の予定ぎっしり詰まってるかも」
「なんだよ、予定あんのか?」
「ないけども」
「ほらみろ。二人も暇だろ?」
暇だと決めつけられて一華は眉間にしわを寄せたが、予定がないのは事実である。
麗奈も特にすることはなく、二人が観に行くなら行こうかなと考えていた。
黙り込む二人を見て「午後からだから来いよ」と笑う。
三人に明日の予定が書きこまれた。
一華たち三人は教室から無邪気に遊んでいる翔真を眺める。
放課後の校庭では部活動が盛んに行われているが、遊ぶ生徒も多い。
田舎寄りの学校なので、無駄に広い校庭は活発な生徒から人気がある。
サッカー部が敷地外でマラソンの如く走り込んでいる日に、翔真は友人たちとサッカーをする。それが終われば四人で帰宅する、というルーティンができていた。
体操服に着替えればいいものの、制服で遊ぶ翔真に一華はため息を吐いた。
本当にあれが同じ高校生なのだろうか。子どもにしか見えない。
友人たちと喋りながらボールを蹴り、屈託なく笑う翔真に、不本意ながらも胸が高鳴る。
絶対に言いたくはないが、恰好いいし可愛い。
特に、今のように無邪気に笑っているところが一番好きだと感じる。
麗奈と流星はサッカーをする翔真を見ながら会話をしている。
翔真に熱っぽい視線を送らない麗奈に、心の隅で良かったと思う。
「ねえ一華、聞いた?」
「え、何?」
一人黙って翔真を見つめていると、麗奈と流星が話に入れてくれる。
二人からすると仲間外れのように見えていたのかもしれない。
放っておいてくれたらずっと翔真を見ていたのだが、気を遣ってくれてのことなので笑顔を作って話に入れてもらう。
「翔真くん、三組の林さんに告白されたらしいよ」
「そういうことを広めるのはよくないよ」
「もう、流星は黙っててよ。翔真くんは断ったらしいんだけど、信じられる?あの林さんからの告白だよ」
三組の林さんは美人で有名だ。
本人と話したことはないので詳しくは知らないが、読者モデルをやっていると聞いたことがある。
あの美人を断った話なら、誰よりも先に情報を仕入れた。
翔真と二人きりのときに聞いてみたら、美人だけど怖そうだからと振ったようだった。
美人を断るなんて他に好きな人がいるのではと勘繰ったが、翔真は可愛い系がタイプであるため、美人系の林さんは好みではない。
ここ最近で一番安堵した。
もし二人が付き合ったなら、登校拒否にでもなりそうだった。
「翔真くん、子どもみたいで可愛いからモテるよね」
「あいつ昔から何故かモテるんだよね」
麗奈が翔真に惚れている感じはなく、流星と良い雰囲気だと一華は思うことが多い。
二人が付き合って、自分は翔真と付き合う。そうするとダブルデートができたりして、楽しそうだ。
「一華ちゃんは浮いた話がないよね」
流星のこの一言で、話題は一華の恋愛話になった。
自分の恋愛話を他人にしたことはなく、する気もないため自分の話題になりギクリとした。
「そ、そうかな」
浮いた話がないのは二人も一緒だが、麗奈は一華の恋バナを聞きたいようで興味津々だった。
元から大きな瞳を更に大きくして、一華の方に身を乗り出す。
一華より長くふわっと軽そうな髪が揺れて一華の耳を掠めると、甘いお菓子のような匂いがした。
「一華はどんな人がタイプなの?わたしたち、あんまりこういう話してこなかったから、すごく気になるなぁ」
「タイプなんて分かんないよ」
「えー、優しい人とか面白い人とかあるじゃない」
「じゃあ優しくて面白い人」
「もう、真似しないでよ!本当は?」
「だから優しくて面白い人だってば」
恋バナをする気がない一華を見て麗奈は拗ねたが、それも少しの間だけで、またすぐに一華の恋バナに食らいつく。
「じゃあ好きな人とかいないの?」
「いないよ」
「本当に?幼馴染の翔真くんと恋に落ちたりしないの?」
「それを言うなら麗奈こそ、幼馴染の流星と恋に落ちたりしないの?」
「流星は家族みたいなもんだよー。何年も一緒にいるんだから、今更恋愛に発展するわけないもん」
「だよね」
恋バナに関して鉄壁な一華に対し、流星は申し訳なく思っていた。
もしかしたら苦手な話題を振ってしまったかもしれない。思い返せば一華が自分の恋愛について話したことはなかった。
目を輝かせて一華から恋バナを引き出そうとする麗奈の肩を掴み、流星は校庭を指した。
「ほら、翔真たち終わったみたいだよ」
一華と麗奈が校庭を見下ろすと、翔真が二人に気付きピースサインを送った。
麗奈は笑顔で手を振り、一華は目を逸らした。
顔が熱い。気づかれていないだろうか。
片手で頬を触り、熱が冷めるのを待った。
翔真が教室に戻ってくると、鞄を手渡し、教室から出た。
校門を通り抜けると一華の隣で翔真が歩き、麗奈の横で流星が歩く。
定位置はないが、今日は幼馴染ペアで横に並んだ。
動き回って汗をかいている翔真は制服のシャツにしみをつくり、髪は少し濡れている。
そんな翔真が一華の隣に来ると、一華は嫌そうに顔を顰めて「くっさ」と言い放つ。
本当は汗の匂いなんてしないが、こういう態度をとるのはいつものことだった。
翔真は一華の態度を見て、自分についた汗を擦りつけるように一華に引っ付く。
「汚いからやめて」
「俺の汗は神聖な水だぞ」
冗談を言い合うこの時間が、一華は好きだった。
誰にも言ったことはないが、四人での下校時間が密かに楽しみだった。
「あ、そうだ。明日他校の奴等とサッカーするんだけど、観に来ねえ?」
翔真が思い出したように三人に言う。
明日は土曜日で、学校は休みだ。部活動に入っていない三人に予定はない。
翔真はサッカーが好きだが、他の三人は興味があるわけではない。
こういう誘いはよくあり、翔真がサッカーする姿を見ながら三人で談笑する。終わったら四人で帰る。
そんな時間を今までも過ごしてきた。
「いつもの広場でやるんだ。お前等予定ないだろ」
「いやいや、忙しいかもしれないだろ。俺の予定ぎっしり詰まってるかも」
「なんだよ、予定あんのか?」
「ないけども」
「ほらみろ。二人も暇だろ?」
暇だと決めつけられて一華は眉間にしわを寄せたが、予定がないのは事実である。
麗奈も特にすることはなく、二人が観に行くなら行こうかなと考えていた。
黙り込む二人を見て「午後からだから来いよ」と笑う。
三人に明日の予定が書きこまれた。