あれは小さい頃よく買ってた。
あ、これよく麗奈と半分こしてた。
この餅みたいなの初めて見た。買ってみよう。
これ懐かしいな、ソーダ味しか食べなかったな。
えっ、これ十円高くなってるじゃん、物価が上がってるからかな。
ひまわりの種よく食べてたけど、これ本物の種なのかな。
絶対そうだよ。だって種って書いてあるもん。
会話は途切れることなく続き、流星は麗奈との、一華は翔真との過去を思い出の引き出しから取り出して互いの懐かしさを共有しながら籠から落ちそうな程積み上げた。
会計するため、紙を折っている女性に声をかけると作業を中止して、待ってましたと言わんばかりの笑顔で籠から取り出す。
「たくさん買ってくれてありがとうね」
「私たちこそ、ありがとうございます。あ、この村にしかない駄菓子ってこの中にありました?」
「これとか、そうだよ」
「やっぱり!」
翔真のために購入したものが村限定で土産に最適だと喜んだ。
目の前で微笑む女性に視線を戻し、おや、と首を傾げる。
「どうかしたの?」
「いえ、なんだか、なんだろう」
どこかで会ったことありませんか。
そう言いたかったが、下手なナンパのようで別の言葉を考える。
なんだか知っているような気がする。
女性の話し方からして、村の外から嫁いできたのだろう。嫁ぐ前に会ったことがあるのかもしれないが、思い出せない。そもそも、年の離れた知り合いは少ない。親戚か、或いは友人の親、教師。どれも当てはまらない。では、どこで会ったのだろう。
「一華ちゃん、行くよ」
魂が抜けたように突っ立っている一華の顔の前で手を振ると、魂が戻されたようで一華は動き始めた。
流星が戸を閉めるまで女性は手を振って見送った。
ぱんぱんに膨れている袋をぶら下げて、二人は買ったばかりの駄菓子を食べる。その間、両足は止まらない。
「流星はさっきの人、見覚えない?」
「見覚え?どこかで会ったっけ?」
「なんだか会ったことがあるような気がするんだよね。どこで会ったんだろう」
「方言がなかったから、嫁いできた人かな。だとしたら街で見かけたとか?」
「街で見かけただけの人なんて覚えてるわけないから、多分どこかでしっかりと会った人なんだよ。どこだろう」
誰かに似ているのだろうか。すぐにその誰かとは重ならない。どこかで会っているなら早く思い出したい。引っかかりは早く解消したい。
「名前聞けばよかったね」
「あぁ!」
流星に言われるまで、名前を聞くことすら頭になかった。名前を聞けば思い出したかもしれないのに、自分の馬鹿さ加減に呆れる。
今からでも戻って聞いてみようか。しかし、態々戻って名前を聞いたとして、覚えのない名前だとしたらどうするんだ。気まずい上に不審がられてしまう。
そこまでして思い出さなくてもいい。でも気になる。そんな葛藤を悶々と繰り返しながら唸る一華を見下ろし、流星は空になった駄菓子の袋を握りつぶした。
旅館で夕飯を食べ終え、暖房の効いている部屋で風呂へ入る準備をする。
旅館では一般開放されており、村人は銭湯として旅館を利用する者も多いと女将から聞いた。
一華がキャリーバックの中を漁っていると、流星は既に準備ができているようでスマートフォンを触っていた。旅館に来てからというもの、流星とはほとんど一緒に行動しており、風呂に入る時も一緒に「湯」と書かれた暖簾まで行っている。
一華は少し考えて、流星に先に行くよう促した。流星は疑問を持ちながらも了承し、一華より先に部屋を出た。
テーブルの上に放置していたスマートフォンを手に取り、自宅へと電話をかけた。
駄菓子屋の女性が気になってしまい、頭の中を泳いでいる。
あの女性は祖母の知り合いで、家に来たことがあるのかもしれない。祖母の年齢を考えると恐らく違うとは思ったが、選択肢を一つずつ潰せばいい。
「あー、気になるなぁ」
むずむずと、くしゃみが出そうで出ない感覚。
早く解決してすっきりしたい。
この旅行とは全く関係のない疑問を解消して、明日からまた魔女の手がかりを探しに行きたい。
電話のコールが六回鳴ると、「はい」と祖母の声がした。
久しぶりに聞く声に口角が緩む。
「おばあちゃん、聞きたいことがあるんだけど」
一華は鞄に付けた貝殻のキーホルダーを意味もなく触りながら、祖母に話し始めた。
あ、これよく麗奈と半分こしてた。
この餅みたいなの初めて見た。買ってみよう。
これ懐かしいな、ソーダ味しか食べなかったな。
えっ、これ十円高くなってるじゃん、物価が上がってるからかな。
ひまわりの種よく食べてたけど、これ本物の種なのかな。
絶対そうだよ。だって種って書いてあるもん。
会話は途切れることなく続き、流星は麗奈との、一華は翔真との過去を思い出の引き出しから取り出して互いの懐かしさを共有しながら籠から落ちそうな程積み上げた。
会計するため、紙を折っている女性に声をかけると作業を中止して、待ってましたと言わんばかりの笑顔で籠から取り出す。
「たくさん買ってくれてありがとうね」
「私たちこそ、ありがとうございます。あ、この村にしかない駄菓子ってこの中にありました?」
「これとか、そうだよ」
「やっぱり!」
翔真のために購入したものが村限定で土産に最適だと喜んだ。
目の前で微笑む女性に視線を戻し、おや、と首を傾げる。
「どうかしたの?」
「いえ、なんだか、なんだろう」
どこかで会ったことありませんか。
そう言いたかったが、下手なナンパのようで別の言葉を考える。
なんだか知っているような気がする。
女性の話し方からして、村の外から嫁いできたのだろう。嫁ぐ前に会ったことがあるのかもしれないが、思い出せない。そもそも、年の離れた知り合いは少ない。親戚か、或いは友人の親、教師。どれも当てはまらない。では、どこで会ったのだろう。
「一華ちゃん、行くよ」
魂が抜けたように突っ立っている一華の顔の前で手を振ると、魂が戻されたようで一華は動き始めた。
流星が戸を閉めるまで女性は手を振って見送った。
ぱんぱんに膨れている袋をぶら下げて、二人は買ったばかりの駄菓子を食べる。その間、両足は止まらない。
「流星はさっきの人、見覚えない?」
「見覚え?どこかで会ったっけ?」
「なんだか会ったことがあるような気がするんだよね。どこで会ったんだろう」
「方言がなかったから、嫁いできた人かな。だとしたら街で見かけたとか?」
「街で見かけただけの人なんて覚えてるわけないから、多分どこかでしっかりと会った人なんだよ。どこだろう」
誰かに似ているのだろうか。すぐにその誰かとは重ならない。どこかで会っているなら早く思い出したい。引っかかりは早く解消したい。
「名前聞けばよかったね」
「あぁ!」
流星に言われるまで、名前を聞くことすら頭になかった。名前を聞けば思い出したかもしれないのに、自分の馬鹿さ加減に呆れる。
今からでも戻って聞いてみようか。しかし、態々戻って名前を聞いたとして、覚えのない名前だとしたらどうするんだ。気まずい上に不審がられてしまう。
そこまでして思い出さなくてもいい。でも気になる。そんな葛藤を悶々と繰り返しながら唸る一華を見下ろし、流星は空になった駄菓子の袋を握りつぶした。
旅館で夕飯を食べ終え、暖房の効いている部屋で風呂へ入る準備をする。
旅館では一般開放されており、村人は銭湯として旅館を利用する者も多いと女将から聞いた。
一華がキャリーバックの中を漁っていると、流星は既に準備ができているようでスマートフォンを触っていた。旅館に来てからというもの、流星とはほとんど一緒に行動しており、風呂に入る時も一緒に「湯」と書かれた暖簾まで行っている。
一華は少し考えて、流星に先に行くよう促した。流星は疑問を持ちながらも了承し、一華より先に部屋を出た。
テーブルの上に放置していたスマートフォンを手に取り、自宅へと電話をかけた。
駄菓子屋の女性が気になってしまい、頭の中を泳いでいる。
あの女性は祖母の知り合いで、家に来たことがあるのかもしれない。祖母の年齢を考えると恐らく違うとは思ったが、選択肢を一つずつ潰せばいい。
「あー、気になるなぁ」
むずむずと、くしゃみが出そうで出ない感覚。
早く解決してすっきりしたい。
この旅行とは全く関係のない疑問を解消して、明日からまた魔女の手がかりを探しに行きたい。
電話のコールが六回鳴ると、「はい」と祖母の声がした。
久しぶりに聞く声に口角が緩む。
「おばあちゃん、聞きたいことがあるんだけど」
一華は鞄に付けた貝殻のキーホルダーを意味もなく触りながら、祖母に話し始めた。