青ざめたり赤くなったり、顔色をころころと変える流星を不審に思っていると、砂利を踏む音が徐々に聞こえてくる。一華が顔を上げると、三人の女性が立っていた。
 一人は赤ん坊を抱いており、遊具で遊んでいる子どもたちの母親なのだと察する。

「こんにちは。もしかして観光の方?」

 一華ではない声が耳に入り、漸く流星も顔を上げる。
 化粧っ気のない顔が三つ並び、親しみやすい雰囲気を纏いながら二人に話しかける。

「は、はい」

 流星が答えてくれるのかと思いきや、たった今顔を上げたため一華が答える。

「この公園には休憩に来たの?」
「い、いえ、これからどこに行こうかと話し合っていたところです」
「そうなんだ。ここあんまり観光する場所なんてないでしょう?」
「え、えっと」

 方言を感じさせない話し方に疑問を持っていると、一華の心を読んだように「あたしたち嫁いでからこの村に住んでるのよ」と一人が言った。

「田舎だからねー、何もないよ。空気が澄んでいることくらいでさ」
「この公園の遊具はたくさんある方なのよ。他の公園はブランコが一つ置いてあるくらいで」
「本当よね。税金払ってるんだからもっと使い道考えてほしいわ」

 次々に零れる愚痴を聞かされる。流星は少し考えて人の良さそうな笑顔をつくり、口を開いた。

「この村って人魚が有名なんですよね。他にもそういう御伽噺みたいな話はあるんですか?」

 女将は、村人全員が同じ情報を持っていると言っていたが、外から嫁いできた三人なら、村人が持っていない情報を持っているかもしれないと思った。
 期待はしていない。情報を持っている可能性は限りなく零に近い。

「人魚以外の話?うーん、聞いたことないなぁ」
「人魚の話だって結局嘘だったらしいじゃない。この村に大層な話なんてないわよね」
「確かに、聞いたことないわよねぇ。何かあったかしら。あぁ、魔女の森っていう名前の公園があるくらいじゃない?」
「あぁ、山にある公園ね。あの公園だって特別何かがあるわけじゃないけれど」
「観光する価値もないわよねぇ。ただ広いだけでお粗末な公園だし」

 魔女の森。
 魔女。その単語を聞いて一華と流星は視線を合わせた。
 一華は前のめりになる気持ちを抑え、平静を装う。

「その森ってどこにあるんですか?」
「森じゃなくて山よ。山の中にある公園のことなんだけど、行く価値はないと思うわよ」
「私たち、今日はのんびりしようと思っていたので、公園なら行ってみたいです」
「それならまあ。でも本当に期待しないでね」

 期待しないようにと何度も釘を刺される。
 観光客を落胆させては申し訳ない、と三人の顔に書いてある。
 一華は大きな期待をしていないが、ほんの少しだけ、何か手がかりがあるといいなと希望を抱いた。
 魔女の森への道のりを教えてもらった後、公園から立ち去った。

 流星は内心複雑だった。
 あの三人から情報を聞き出すために、自分も発言をしたが、本当に情報を聞き出せるとは思っていなかったからだ。
 魔女の森という名前からして、きっと何かあるだろう。魔女がそこにいなくても魔女を探すヒントくらいあるのかもしれない。そう考えると、心の底から黒い感情がもやもやと湧き上がる。

「魔女の森に何かあったらいいね」
「そうだね」
「公園って言ってたから、もしかしたら手がかりなんて何もないかもしれないけど。でもやっぱり、何かあるといいよね」
「そうだね」
「もう、流星ちゃんと聞いてる?さっきから上の空だけど」
「そうだね」

 一華の話は聞こえていない様子で、相槌を口から出しているだけだった。
 流星のことだから、何か考えているのだろう。
 一華は上の空でいる流星のことは深く考えないようにし、先程の三人に教えてもらった道を辿って魔女の森を目指した。