一人暮らしの市川正江は毎日を細々と暮らしていた。知り合いも少なく、連絡をしょっちゅう取るような人もいなかったので、このご時勢に、携帯電話をもっていない。インターネットすら無縁だった。
そんな正江がテレビでミカチャレンジのことを知ってから、急にSNSに興味を持ち、衝動でスマホを買いに行ってしまった。初めてのことで正江はドキドキしていた。
年老いたものにも操作が簡単な機種を紹介され、それを手にしながら正江は使い心地を試してみる。
「これは小さくて文字がよく見にくいですね」
目をショボショボさせ携帯ショップの店員に色々と説明を受けていた。
「こんな風に指で広げるようにこすると、画面が大きくなるんですよ」
優しい店員に手取り足取り教えてもらっていた。
「ああ、なるほど、すごいですね。それでチュ、チュイッターとかいうもので、呟きができるそうなんですけど、あれはどうすればいいんでしょうか」
「ああ、ツイッターですね。それはサインアップしてアカウントを取りまして」
「はぁ……?」
分かってなさそうな返事だった。
でも正江は必死だった。自分もミカチャレンジのことを知りたくてたまらなかったから、分かるまで訊いてしまう。仕方なく、店員はとことん正江に付き合った。
優しい店員のお陰でツイッターアカウントを作ってもらい、正江は目的が果たせて安堵する。
スマホの画面に鳥のマークがついたのを見て微笑んでいた。
「このアプリをタッチしたら、すぐに出てきますからね」
「ありがとうございます」
深く頭を下げた。
「それで、今、旅をしているクマのぬいぐるみはどこにいるんでしょう」
「えっ? もしかしてミカチャレンジのことですか?」
「はい、そうです。昨日テレビで紹介されてましたよね」
「それをご覧になりたくてスマホをご購入されたんですか?」
「そうです。どうしてもあのクマのぬいぐるみに会いたいんです!」
必死に訴える正江を見て店員は圧倒された。
「私も、実はあのアカウントをフォローしていまして、クマのぬいぐるみと写真を撮りたいと思っているんですけど、中々会えませんね。だけどどこにいるかは、写真やコメントで大体のことが分かると思いますよ」
店員に詳しいことを教えてもらい、正江はメモを取るもすぐに頭にすっと入って来ない。
「あの、また分からないことがあったら訊いてもいいですか。私、知り合いがそんなにいないもので」
「はい、いつでもお電話下さい」
一生懸命なおばさんの姿に店員は放って置けないものを感じていた。
正江はほっと一息ついていた。
「あっ、そういえば、もうすぐこの旅を終わらせたいって、ミカちゃんのママが言ってましたね。できたらミカちゃんが入院している病院にぬいぐるみが戻ってきて欲しいみたいですね」
「じゃあ、私が探して連れて行きます」
「えっ?」
正江の極端な言動に、店員はびっくりしてしまう。でも失礼のないように微笑んだ。
「会えるといいですね」
「本当に優しく教えてくれてありがとう。あなたを見ていると、自分の娘のように思えるわ」
スマホを手に入れた正江は、お礼を言って弾むように店を出た。
すがすがしい秋空を仰いで、まだ見えない空の星たちに願いを伝える。
「どうか、ミカチャレンジのクマのぬいぐるみに会えますように」
いつか電車の中で見た大きな流れ星を思い出す。ミカはあれを見て、星に願った。それからあのクマのぬいぐるみの旅行が始まったとテレビで優子が言っていた。
あの時、正江もあの流れ星を見ていたことで、同時に見ていたミカと繋がっている気分にさせてくれる。
テレビに映っていたミカと優子。
正江は二人がテレビに映ったとたん、電撃を浴びたように体が震えた。あれは離婚してからずっと会ってなかった正江の娘だった。そしてミカは正江の孫娘だった。
正江は今二人に会いに行かなければならない気持ちが膨らんでいく。会うためにはどうしてもクマのぬいぐるみが必要だった。
それを持っていけば否が応でもきっと会ってくれる。そう信じて、正江はスマホをぎゅっと掴んでいた。
そんな正江がテレビでミカチャレンジのことを知ってから、急にSNSに興味を持ち、衝動でスマホを買いに行ってしまった。初めてのことで正江はドキドキしていた。
年老いたものにも操作が簡単な機種を紹介され、それを手にしながら正江は使い心地を試してみる。
「これは小さくて文字がよく見にくいですね」
目をショボショボさせ携帯ショップの店員に色々と説明を受けていた。
「こんな風に指で広げるようにこすると、画面が大きくなるんですよ」
優しい店員に手取り足取り教えてもらっていた。
「ああ、なるほど、すごいですね。それでチュ、チュイッターとかいうもので、呟きができるそうなんですけど、あれはどうすればいいんでしょうか」
「ああ、ツイッターですね。それはサインアップしてアカウントを取りまして」
「はぁ……?」
分かってなさそうな返事だった。
でも正江は必死だった。自分もミカチャレンジのことを知りたくてたまらなかったから、分かるまで訊いてしまう。仕方なく、店員はとことん正江に付き合った。
優しい店員のお陰でツイッターアカウントを作ってもらい、正江は目的が果たせて安堵する。
スマホの画面に鳥のマークがついたのを見て微笑んでいた。
「このアプリをタッチしたら、すぐに出てきますからね」
「ありがとうございます」
深く頭を下げた。
「それで、今、旅をしているクマのぬいぐるみはどこにいるんでしょう」
「えっ? もしかしてミカチャレンジのことですか?」
「はい、そうです。昨日テレビで紹介されてましたよね」
「それをご覧になりたくてスマホをご購入されたんですか?」
「そうです。どうしてもあのクマのぬいぐるみに会いたいんです!」
必死に訴える正江を見て店員は圧倒された。
「私も、実はあのアカウントをフォローしていまして、クマのぬいぐるみと写真を撮りたいと思っているんですけど、中々会えませんね。だけどどこにいるかは、写真やコメントで大体のことが分かると思いますよ」
店員に詳しいことを教えてもらい、正江はメモを取るもすぐに頭にすっと入って来ない。
「あの、また分からないことがあったら訊いてもいいですか。私、知り合いがそんなにいないもので」
「はい、いつでもお電話下さい」
一生懸命なおばさんの姿に店員は放って置けないものを感じていた。
正江はほっと一息ついていた。
「あっ、そういえば、もうすぐこの旅を終わらせたいって、ミカちゃんのママが言ってましたね。できたらミカちゃんが入院している病院にぬいぐるみが戻ってきて欲しいみたいですね」
「じゃあ、私が探して連れて行きます」
「えっ?」
正江の極端な言動に、店員はびっくりしてしまう。でも失礼のないように微笑んだ。
「会えるといいですね」
「本当に優しく教えてくれてありがとう。あなたを見ていると、自分の娘のように思えるわ」
スマホを手に入れた正江は、お礼を言って弾むように店を出た。
すがすがしい秋空を仰いで、まだ見えない空の星たちに願いを伝える。
「どうか、ミカチャレンジのクマのぬいぐるみに会えますように」
いつか電車の中で見た大きな流れ星を思い出す。ミカはあれを見て、星に願った。それからあのクマのぬいぐるみの旅行が始まったとテレビで優子が言っていた。
あの時、正江もあの流れ星を見ていたことで、同時に見ていたミカと繋がっている気分にさせてくれる。
テレビに映っていたミカと優子。
正江は二人がテレビに映ったとたん、電撃を浴びたように体が震えた。あれは離婚してからずっと会ってなかった正江の娘だった。そしてミカは正江の孫娘だった。
正江は今二人に会いに行かなければならない気持ちが膨らんでいく。会うためにはどうしてもクマのぬいぐるみが必要だった。
それを持っていけば否が応でもきっと会ってくれる。そう信じて、正江はスマホをぎゅっと掴んでいた。