スマホを持ち歩いていない初老の女性は、電車内で俯く人々を見て電車に揺られていた。ほとんどの人がスマホを用いている。繋がれる人がいるのを羨ましく思いながら、扉に体をもたせ掛け窓の外へと視線を向けた。春が訪れた四月半ばでも日が暮れるとまだ寒そうだ。日中は暖かかったから、薄いジャケットしか羽織っていない。日が暮れる前に帰るべきだった。帰宅者が多い夕暮れの時間帯。人も多く扉付近に立っているのが窮屈だった。
 することがないから窓から流れる景色を見て、ぼうっとしてしまう。
 地平線の向こうで太陽が沈み、徐々に闇が迫るグラデーションになっている。トワイライトのまどろみに一日の終わりの寂しさを感じていた。
 その時、空から流れ星が筋を描いて落ちてきた。それは大きな明るい光となってぱっと発光する。あっと思った時には、落ちながら小さくなってすーっと消えていった。
 もしかしてUFOかもと思えば、ちょっとドキドキだ。その決定的瞬間を撮影できなかったことを悔やんでしまう。
 誰か他に見た人がいるだろうか。辺りをきょろきょろするがみんな下を向いてスマホを見ている。こういう時、スマホを持っていたら撮影できたかもしれない。それをまた誰かと共有してみたかった。
「きれいだったな」
 その年老いた女性は小さく呟く。
 せめて願い事でもするべきだった。離婚してから会っていない娘にいつか会えますようにくらいは――。
 急に寂しさが募り、誰かと繋がりたい衝動に駆られる。
 また次の流れ星が来ないか、その女性はじっと空を見つめていた。そして夜の闇はどんどん深くなっていった。
 その夜、テレビのニュースで火球が現れたと話題になり、監視カメラに偶然収められていた映像が流れる。ネットの中でも話題になって大勢の人がそれを目にしていた。