◆シヤ◆

 私が生まれたのは、ゼラリオン王国の王都にあるスラム街。

 幼い頃から、沢山の仲間達が生きる事に必死だった。

 そんな中でも、私達をまとめてくれるリーダーがいた。

 彼のおかげで私達は、幼いながらも何とか生き延びられた。

 そんなある日。

 私達を囲う大人達は、まるで商品でも見るかのような視線で私達を見つめていた。

 その中から少し発育が進んだ女子は、みんな連れて行かれた。

 その時、それがどういう意味だったのかなど、私は知る訳ではなかった。

 でも…………少なくとも、彼女達は元には戻れない事くらい、何となく察していた。

 私達を守ってくれていたリーダーは…………私達を大人達に売って、どこかに消えた。

 ただ、それが本当に売って消えたのか、ただ消えたのか……いま思えば後者かも知れない。

 それから私達は必死に大人達の暴力に耐えながら、望んでもいない盗みを学び、王都の人々から盗みを働いた。

 しかし、それも必ずしも安全な訳では無い。

 中には見つかって、そのまま牢に入れられた仲間も沢山いる。

 彼らが戻って来る事はなかった。


 私が十歳の時、大人達に連れられ職能を開花した際、『交渉者』という非常に珍しい職能を開花した。

 それから私の生活は激変する。

 大人達の顔色、息、目線、雰囲気、その全てから相手の感情を読み取れるようになった。

 さらには、この職能の良かったところは、どうやら最上級職能というモノらしく、開花した瞬間から私は大人達より強くなった。

 制圧しようと思えば簡単にできそうだった。

 しかし、大人達が私をそのままにするはずもなく…………私では太刀打ちも出来ないような、戦いに特化した用心棒を連れて訪れて来た。

「これから貴様の()にはそれなりに便宜を図ってやろう。代わりに俺様の下で働け。この()を稼いだら貴様の()は自由にしてやろう」

 そう言われた。

 額はとんでもない額だったが、私は自分と一緒に育った仲間を助ける事を誓った。



 あれから何年経ったんだろうか…………。

 私は既に『鴉』と呼ばれるようになり、裏取引では広く名が売れる事となった。

 あと少しで私達の()は、あの大人達から解放させる直前となった。

 その時、大人達のボスから最後の仕事だと、とある仕事を頼まれた。

 それが『シュルト』という暗殺集団を探す事。

 依頼者は誰かは分からないが、国の偉い人だとボスは言った。

 その時のボスは真っ青な顔で、何とか見つけてくれと頼んだ。

 こんなに狼狽えているボスを見るのは初めてだ。

 王都でも名の知れたボスが不安に思うなんて…………。



 それから暫くの間、『シュルト』について探し回ったけど、私の力を持ってしても全く尻尾一つ見つけられなかった。

 ボスはその事でどんどん顔色を悪くしていった。

 このままでは……私達の()が八つ当たりされるかも知れないと頭を過る。

 このまま守り切ることが出来るのだろうか…………。



 今日も私は必死に『シュルト』の足掛かりを求めて探し回った。

 それでも全く見つけられずにいた時、何となく嫌な予感がした。

 だから、うちの子達の下に急いで駆けつけると、そこにいたのは、私では手も足も出なさそうな青年が佇んでいた。

 一目見ただけで、私達に命がない事くらい、一瞬で理解した。

「待って!!」

 私は必死に恐怖を殺し、叫んだ。

 ゆっくり私を見つめる青年は、何一つ感情が読めない。

 ――――稀代の暗殺者。

 何故か一目でそんな言葉が頭に浮かんだ。

 下手に彼を攻撃するのは、最も悪手だと思ったので、言う通りにする事を決めた。

 そして、子供達を宥めて、彼に付いていく。

 向かうのは、とある宿屋。

 ……女性として生まれ、宿屋に来るという事は、どういう事なのかくらい知っている。

 子供達を守れるなら、こんな身体…………くれてやってもいいとさえ思っている。


 部屋の扉を開くと、青年は中に入るように促す。

 それに従い、素直に中に入ると、意外にも男性と女性が一人ずつ、私を待っていた。

 今まで出会った誰よりも澄んだ赤い瞳が、私を優しく見つめていた。

 隣に立っている彼女は、きっと彼と長い時間を一緒に過ごしているのだろう。

 そんな彼女の事を知らなくても、少しだけ嫉妬を感じる。

 …………私にもまだこういう感情が残っていたんだ。



 それから彼は『銀朱の蒼穹』と名乗り、私はそれが嘘ではない事を見抜いてしまった。

 そして、彼は私の正体をも暴き、私が必死に捜していた『シュルト』についても教えてくれる。

 彼は私に優しく手を差し伸ばしてくれる。

 こんな私に手を差し伸べてくれる人なんて、誰一人いなかった。

 みんな、私の力だけを利用しようとして、商品としてしか見ていなかった。

 なのに彼は……私を本当に仲間として誘ってくれる。

 他の二人からもその心が感じ取れる。



 気付けば、私は両頬に涙を流し、彼の手を取っていた。