冷たい床に倒れている俺を見下ろすアビリオは快感に満ちた表情をしていた。
「ひゃははは! 雑魚如きが吾輩に勝てるとでも思ったのか!? 少しだけ遊んでやっただけで勝てると思う当たりが雑魚なんだよ! 相手との力差も測れない時点で貴様の負けなんだよ! ひゃはははは!」
ああ……そうかも知れない……。
悔しい……。
俺にもっと……もっと力があれば……君を迎えに行けたはずなのに……。
◇
広場にアビリオの笑い声が響き渡った。足元に倒れて傷まみれのソラを嘲笑う彼により、その場にいた全ての人を絶望に陥れるには十分だった。
誰もがアビリオの勝利を疑わなかった――――その時。
カタッ
屋敷の奥から綺麗な足音が広場に響き渡った。
全ての者がアビリオから視線を移す。
そこには美しい金色の長い髪をなびかせて近づいてくるフィリアがいた。
彼女の挙動一つ一つに全ての者は目を奪われた。
やがて彼女はそのままソラの隣に立つ。
「ひゃはははは! 君の王子様は無様に負けた雑魚だったぞ! これで思い残す事なく、吾輩のモノとなれ! ひゃははは!」
アビリオに答える事なく、横たわっているソラの隣に足を崩した。
「ソラ…………」
「フィリア………………ごめんな、俺が弱いばかりに……君を迎えに来たはずなのに……強くなったはずなのに……手も足も出なくて……悔しくて…………」
止まらない涙を流すソラを優しく見守るフィリア。
「ねぇ、ソラ? なんで私を迎えに来たの?」
「それは…………」
フィリアの顔がソラの顔と鼻の先になった。
そして、ソラは聞こえない声を発した。
それを聞いたフィリアは優しい笑みを浮かべる。
その二人の姿はまるで祝福された勇者と聖女のようだった。
「ソラ、大丈夫だから……私に任せておいて」
ニッコリと笑う彼女はソラにはあまりにも眩しかった。
フィリアはソラを抱き抱えて、広場の入り口にいるカールのところに向かった。
「ねぇ、ソラ。新しい力はどんな力なの? さっき見た感じだと『剣士』のようだったけど」
「えっ? うん。新しい力は自分と誰かにサブ職能を設定して、そのスキルを使えるようになるんだ」
「そっか。やっぱりソラは凄い! ねぇ、私にもその力……貸して貰えないかな?」
「もちろん!」
「じゃあ、私にも『剣士』をお願いね」
「ああ」
やがてカールに辿り着いたフィリアは、抱き抱えたソラをカールに預けると、ソラが持っていた剣を手にした。
そして、アビリオに向かって歩き出す。
まだ幼さが残る美しい彼女だったが、歩き出した直後、広場に殺気が放たれた。
可憐な少女ではない、彼女は――――紛れもない『剣聖』なのだと、その場の全員が理解した。
「アビリオ。私は貴方を決して許しません」
「くっくっくっ、許さないというならどうするのだ!? 約束通り、今日まで吾輩に勝てなければ……お前は私のモノになるのだぞ!?」
「ええ、その約束はちゃんと守りますよ。でも……今日、私は貴方を倒します」
「ひゃははは! 昨日まで吾輩に負け続けていた癖によく言う!」
「ええ、昨日まで負けた振りを続けてきました。今日の日が来るまでずっとね……貴方がソラを唆したのは既に調べがついています」
「ああ! そうだとも! あんなゴミの隣じゃ幾ら可憐な花でも勿体ない! 可憐な花は吾輩にこそ相応しい! 結局……あの雑魚は吾輩に負けたのだ! 『剣聖』に勝てる者など、存在しないのだ!!」
「……貴方は自分の力に自惚れていますね。ですがそれも今日限りです……今日、この場で私が貴方を倒します」
「くっくっくっ! いいとも! かかってくるがいい!!」
二人の殺気がぶつかり合う。
それだけでその場にいる者は息すら出来ない程だった。
あまりの迫力に時間の感覚でさえ忘れた頃、二人が動く。
最初に仕掛けたのはフィリア。
大きく右から薙ぎ払うフィリアの剣がアビリオを襲う。
アビリオは素早く一歩下がり、フィリアの剣の空振りを待った。既にフィリアの動きを見切っているからこそ出来る事だった。
フィリアの剣は予想通り空を舞う。
そこでアビリオの剣が彼女を襲う。
全てはアビリオの予想通りに進み、そのまま決着が付くはずだった。
しかし、
直後起きたのは、アビリオの剣がフィリアに届くより前に、アビリオの腕を斬る剣だった。
突如現れた剣に反応できず、腕を斬られたアビリオの痛みの叫びが響き渡った。
「ぎゃあああ! な、なんだそれは!!」
そこにいたのは――――
二振りの剣を両手に持っているフィリアだった。
「双剣。聞いた事ないかしら?」
「く、クソ!! 『剣聖』が剣を二振り持つなんて聞いた事ないぞ!! それで何故あの速度で振れる!?」
「そうね。本来なら剣は一本しか持てないのが『剣聖』の弱点だものね。だけど私は違う。だって……私はただの『剣聖』じゃないもの。私には――――ソラの力が宿っているから」
そして、押し込み始めるフィリアの二振りの剣に、一本の剣で立ち向かうも、アビリオは呆気なく傷だらけになった。
「ど、どうして二振りの剣をこれほどまで…………がはっ……」
傷だらけになり、気を失ったアビリオの負けが確定した。
この世界での戦いは、殆どがステータスとスキルによって決まると言っても過言ではない。
最上級職能である『剣聖』だが、そのスキルは不完全なモノであった。
圧倒的な強さを誇る剣聖。
だが、その実情は片手剣しか使えないという実情があった。なので大半の剣聖は魔法剣や刀身が長い刀を主に使うのだ。
では、何故両手で剣を持てないのか。
それは剣聖の基本スキルの中にあるスキル『片手剣』のせいである。
剣聖はどれほどレベルを上げても、生涯片手で持てる剣以外を使う事は出来ないのだ。盾ですら使えず、両手で剣を握る事すら許されない。
そんな剣聖であるフィリアが両手に剣を持てた理由。
それはソラによるサブ職能を『剣士』に設定したからである。
『剣士』の基本スキルに『両手持ち』というモノがある。
両手で剣を持った場合、全てが二倍となる。
つまり……両手でそれぞれ剣を持った場合、等倍で持てるのだ。
これが『双剣の剣聖』フィリアの誕生秘話である。
「ひゃははは! 雑魚如きが吾輩に勝てるとでも思ったのか!? 少しだけ遊んでやっただけで勝てると思う当たりが雑魚なんだよ! 相手との力差も測れない時点で貴様の負けなんだよ! ひゃはははは!」
ああ……そうかも知れない……。
悔しい……。
俺にもっと……もっと力があれば……君を迎えに行けたはずなのに……。
◇
広場にアビリオの笑い声が響き渡った。足元に倒れて傷まみれのソラを嘲笑う彼により、その場にいた全ての人を絶望に陥れるには十分だった。
誰もがアビリオの勝利を疑わなかった――――その時。
カタッ
屋敷の奥から綺麗な足音が広場に響き渡った。
全ての者がアビリオから視線を移す。
そこには美しい金色の長い髪をなびかせて近づいてくるフィリアがいた。
彼女の挙動一つ一つに全ての者は目を奪われた。
やがて彼女はそのままソラの隣に立つ。
「ひゃはははは! 君の王子様は無様に負けた雑魚だったぞ! これで思い残す事なく、吾輩のモノとなれ! ひゃははは!」
アビリオに答える事なく、横たわっているソラの隣に足を崩した。
「ソラ…………」
「フィリア………………ごめんな、俺が弱いばかりに……君を迎えに来たはずなのに……強くなったはずなのに……手も足も出なくて……悔しくて…………」
止まらない涙を流すソラを優しく見守るフィリア。
「ねぇ、ソラ? なんで私を迎えに来たの?」
「それは…………」
フィリアの顔がソラの顔と鼻の先になった。
そして、ソラは聞こえない声を発した。
それを聞いたフィリアは優しい笑みを浮かべる。
その二人の姿はまるで祝福された勇者と聖女のようだった。
「ソラ、大丈夫だから……私に任せておいて」
ニッコリと笑う彼女はソラにはあまりにも眩しかった。
フィリアはソラを抱き抱えて、広場の入り口にいるカールのところに向かった。
「ねぇ、ソラ。新しい力はどんな力なの? さっき見た感じだと『剣士』のようだったけど」
「えっ? うん。新しい力は自分と誰かにサブ職能を設定して、そのスキルを使えるようになるんだ」
「そっか。やっぱりソラは凄い! ねぇ、私にもその力……貸して貰えないかな?」
「もちろん!」
「じゃあ、私にも『剣士』をお願いね」
「ああ」
やがてカールに辿り着いたフィリアは、抱き抱えたソラをカールに預けると、ソラが持っていた剣を手にした。
そして、アビリオに向かって歩き出す。
まだ幼さが残る美しい彼女だったが、歩き出した直後、広場に殺気が放たれた。
可憐な少女ではない、彼女は――――紛れもない『剣聖』なのだと、その場の全員が理解した。
「アビリオ。私は貴方を決して許しません」
「くっくっくっ、許さないというならどうするのだ!? 約束通り、今日まで吾輩に勝てなければ……お前は私のモノになるのだぞ!?」
「ええ、その約束はちゃんと守りますよ。でも……今日、私は貴方を倒します」
「ひゃははは! 昨日まで吾輩に負け続けていた癖によく言う!」
「ええ、昨日まで負けた振りを続けてきました。今日の日が来るまでずっとね……貴方がソラを唆したのは既に調べがついています」
「ああ! そうだとも! あんなゴミの隣じゃ幾ら可憐な花でも勿体ない! 可憐な花は吾輩にこそ相応しい! 結局……あの雑魚は吾輩に負けたのだ! 『剣聖』に勝てる者など、存在しないのだ!!」
「……貴方は自分の力に自惚れていますね。ですがそれも今日限りです……今日、この場で私が貴方を倒します」
「くっくっくっ! いいとも! かかってくるがいい!!」
二人の殺気がぶつかり合う。
それだけでその場にいる者は息すら出来ない程だった。
あまりの迫力に時間の感覚でさえ忘れた頃、二人が動く。
最初に仕掛けたのはフィリア。
大きく右から薙ぎ払うフィリアの剣がアビリオを襲う。
アビリオは素早く一歩下がり、フィリアの剣の空振りを待った。既にフィリアの動きを見切っているからこそ出来る事だった。
フィリアの剣は予想通り空を舞う。
そこでアビリオの剣が彼女を襲う。
全てはアビリオの予想通りに進み、そのまま決着が付くはずだった。
しかし、
直後起きたのは、アビリオの剣がフィリアに届くより前に、アビリオの腕を斬る剣だった。
突如現れた剣に反応できず、腕を斬られたアビリオの痛みの叫びが響き渡った。
「ぎゃあああ! な、なんだそれは!!」
そこにいたのは――――
二振りの剣を両手に持っているフィリアだった。
「双剣。聞いた事ないかしら?」
「く、クソ!! 『剣聖』が剣を二振り持つなんて聞いた事ないぞ!! それで何故あの速度で振れる!?」
「そうね。本来なら剣は一本しか持てないのが『剣聖』の弱点だものね。だけど私は違う。だって……私はただの『剣聖』じゃないもの。私には――――ソラの力が宿っているから」
そして、押し込み始めるフィリアの二振りの剣に、一本の剣で立ち向かうも、アビリオは呆気なく傷だらけになった。
「ど、どうして二振りの剣をこれほどまで…………がはっ……」
傷だらけになり、気を失ったアビリオの負けが確定した。
この世界での戦いは、殆どがステータスとスキルによって決まると言っても過言ではない。
最上級職能である『剣聖』だが、そのスキルは不完全なモノであった。
圧倒的な強さを誇る剣聖。
だが、その実情は片手剣しか使えないという実情があった。なので大半の剣聖は魔法剣や刀身が長い刀を主に使うのだ。
では、何故両手で剣を持てないのか。
それは剣聖の基本スキルの中にあるスキル『片手剣』のせいである。
剣聖はどれほどレベルを上げても、生涯片手で持てる剣以外を使う事は出来ないのだ。盾ですら使えず、両手で剣を握る事すら許されない。
そんな剣聖であるフィリアが両手に剣を持てた理由。
それはソラによるサブ職能を『剣士』に設定したからである。
『剣士』の基本スキルに『両手持ち』というモノがある。
両手で剣を持った場合、全てが二倍となる。
つまり……両手でそれぞれ剣を持った場合、等倍で持てるのだ。
これが『双剣の剣聖』フィリアの誕生秘話である。