帝都城、玉座の間。

 大陸最大である帝国玉座の間にはその国を構成している多くの重鎮達が集まっている。

 玉座には鋭い眼光の皇帝が前を睨みつけていた。

「陛下」

 帝国の皇帝に次ぐ権力を持つと言われている宰相ローレンス・ウィラゼルだ。

「ローレンスか」

「…………陛下。どうやら北部の戦いが負けたようです」

「…………率いていたのは?」

「はい。ベロライン将軍家でした。将軍と長男は戦死したとの連絡がございます」

 宰相の言葉に、その場にいた将軍家の数人が顔をしかめる。

 出来れば自分が代わりに対応したいと言いたいのだが、あのゼラリオン王国は珍しく最上級職能が複数もいる国である。

 それを物量で勝とうと思うと、それこそ十倍は持って行かねば勝てない事くらい将軍家の面々は理解している。

 あの時、大声で豪語していたあの家は、予想通り負けた上に帰らぬ人となった。

 そして、その結果は――――

「ベロライン家の者は全員奴隷に墜とせ」

「はっ!」

 兵士の一人が急いで走り玉座の間を去る。

 帝国は絶対的な実力主義。

 口だけの家は、すぐに奴隷堕ちとなるのだ。

 (ただ)し、実力があれば上に立てるし、それによって贅沢な生活も送れるので、多くの人は頂上を目指して懸命に生きている社会となっている。

 他の国のように、血で登りつめるような年功序列が優先される社会ではないからだ。

 それでも、資産は大きな力となっているので、貴族が有利なのは当たり前ではあるが……。

「陛下。北部は全てゼラリオン王国に奪われております。次は私に任せてくださいませ」

 一人の将軍が前に出て、皇帝に頭を下げる。

「陛下。今回の戦いで五千の兵を失っております。北部の土地でそれ以上を取り戻す価値があるようには感じません。私は戦いを反対します」

 宰相が反対意見を述べる。

「…………ローレンス。お前は我が帝国が負けっぱなしで良いと?」

「いいえ、北部ではなく、その力で南部を攻めた方が利益が多いと思います」

「南部…………アポローン王国か?」

「はっ。どうやら私の情報では、きな臭い動きがあるそうです」

「ふっ。ローレンス。今回はお前の策に乗ろう。ソリュー将軍は北部の防衛(・・)を命ずる」

「はっ!」

「南部に志願する者はいるか?」

 皇帝の声にいち早く反応する男がいた。

「陛下。儂に行かせてください」

「ほぉ……珍しいな?」

「ええ。たまには身体を慣らしたいんですからね」

「分かった。他に反論はないみたいだから、お前に任せるぞ? ローエングリン」

「はっ。お任せください。陛下」

 ローエングリンと呼ばれる男が玉座の間を後にする。

 誰も反論しなかった理由。

 それもその通りである。

 ローエングリンは――――





 帝国最強騎士エンペラーナイトの一人であり、その中でも最強と呼ばれており、現在人類最強と言われている人物だからである。



 ◇



 ゼラリオン王国の前線。

 ハレインとジェロームの活躍により、前線は王国の圧勝に終わる。

 五千もいた帝国兵達は散り散りとなり、ハレインに追われ切り捨てられていった。

 そのまま兵を走らせ、帝国北部領を奪い取る事に成功する。

 ハレインと帝国宰相の裏取引により、帝国は北部領を取り返しには来なかった。

 そのまま帝国の北部領はハレインが支配する事となる。

 その事により、領の範囲だけならゼラリオン王国が所有する領とハレインが所有する領が同じくらいの大きさとなる。

 ハレインが描くシナリオ通りに進んだ結果とも言えるだろう。

 後に帝国領と新しく領を得た王国の境目に前線が出来上がったが、両国ともに戦いを辞める事となった。



 ◇



 その頃。

 とある森。

「女王陛下~」

 不思議な影をうねうねと動いている服を着ている女性が複数人並んでいる。

 その奥に玉座があり、そこに一際身体が大きい女性が一人座っており、禍々しい雰囲気を醸し出していた。

「どうしたんだいー? アンナ」

「えっとね~ソグラリオン帝国とゼラリオン王国がぶつかって、帝国が負けたよ~」

「へぇー、ソグラリオンのガキが負けるなんて珍しいわさ」

「うんうん! なんか、元々捨てる感じだったみたい~」

「全く、人間っていうのは相変わらずだわさ」

「うふふふ、本当にね~」

 他の黒い影を覆っている女性達も笑い出した。

「それはそうと、アンナ? あの不思議なガキはどうなったんだい?」

「うん! 今回の戦争で大活躍! 他が全部すら霞むくらい凄かった!」

「へぇー?」

「ソグラリオンの強い子に完勝~!」

「ほぉ……」

 大きい女性が唸り声をあげる。

 周りにいた女性達から「女王様が唸った~女王様が唸った~」と喜び始める。

「あの子は凄く強くなったわ~女王様、接触するのかな~?」

「いんや、まだだね。もうちょっと強くなって貰わなくちゃね~」

「うふふふ~、では危ない時にはこちらも手を出すのね~?」

「そればかりは仕方ないさね。アンナ。これからも観察は怠らないでおくれ~」

「あいあいさ!」

 そう言われたアンナは、スキップしながら去って行く。

「くふふふ。あの少年。もうそんなに強くなれるなんて。これは楽しみだわさ~」

 森に女王の声が響き渡った。