開花式が終わった次の日。

 ルリとルナはフィリアを擁する『銀朱の蒼穹』のメンバーを前にしていた。

 ただ、その中にソラの姿しか見えていない。

「ルリくん。ルナちゃん」

「「はい」」

「まず、開花おめでとう」

「「ありがとうございます」」

 フィリアに受け答えをする二人。

 受け答える二人も、『銀朱の蒼穹』のメンバー全員も何処か嬉しそうだ。

「では、これから本題に入るね? 昨日、ソラくんに忠誠(・・)を誓ってくれてありがとう」

「いえ、俺はソラ兄さんに受けた恩義を、一生返していきたいと思っています。神様が授けてくださったこの力で、ソラ兄さんの為になるなら、何でもやります」

「ルナも!」

「その熱意は分かった。ただ、君達には一つ言っておかなくちゃいけない事があるの」

 フィリアの言葉に、二人は覚悟を決めているかのように頷いた。

「君達が授かった職能『アサシンロード』。自分達の中にある力はもう感じてると思うけど――――その力は『暗殺(あんさつ)』に秀でた職能なの」

「はい。何となく、昨日宴会でフォークやナイフを握った時に」

 ルナもルリの言葉に同調するかのように頷く。

 暗殺。

 それは対象が気づかないうちに殺す事を指す。

 暗殺者の武器は、普段目にしやすく、「こんな武器では殺されない」と思う武器こそが最高の武器となる。

 多くの暗殺者が使っている武器こそ、家にあるフォークやナイフだったりするのだ。

「もしも、このままソラの力になるというなら、いずれ――――――人を(あや)める事にもなるの。それでも覚悟は出来ている?」

「はい。以前本で読んだ事があるんです。ご主人様の執事だった男が、実は暗殺者で、普段は常に隣に立ち、時には厳命を受けると。俺はずっとそういう力があればなと思ってました」

「ルナも! 他のみんなもソラお兄ちゃんの為に頑張っていると思うの。でも…………私はみんなとは違う形でソラお兄ちゃんの為になりたかった! だから、神様がくださったこの力をとても嬉しく思います!」

 二人の言葉を聞いたメンバーは笑顔になった。

「極力暗殺は行わないようにしたいけれど……いつか、ソラを護る為に、その力を磨いて欲しい。『銀朱の蒼穹』のメンバーとして」

「「はい!」」

 フィリアは二つの紋章を二人に渡した。

 銀朱の蒼穹の紋章。

 弐式と参式は、紋章の枠の色が違うように作られている。

 しかし、二人に渡された紋章は、紛れもなくクラン『銀朱の蒼穹』の正式紋章であった。

 ずっとソラの為になりたいと思う願望から、偶然にも力を得た二人は『銀朱の蒼穹』の新たなメンバーとなったのだ。



 ◇



「カシア! 後は任せておけ」

「…………エルロ。すまない」

「謝る事はねぇ。これで別れる訳でもあるまいし、ただ御方(おんかた)の役に立つ場所が変わっただけだ」

 カシアは獣人族の仲間――――『参式』のメンバーから見守られていた。

 代表してエルロがカシアを称えている。

 参式のメンバー全員の顔はどこか誇らしさを放っていた。

「我々の中から、御方の下で直接働ける人が出た事が誇りだ。だから俺らは嬉しいし、カシアには胸を張って貰いたい」

 エルロの言葉に、参式メンバー全員が大きく頷いた。

 少し目を潤ませたカシアは、右手を自分の心臓にトントンと当てる。

 それは獣人族の仕草で、「その想いを背負った」という意味がある。

 エルロが代表して、カシアと熱い握手を交わす。

 握手を終えたカシアはそのまま、エルロ達から離れ、別な場所に向かった。

 そんなカシアの胸には、光り輝いているクラン『銀朱の蒼穹』の紋章が付けられていた。



 ◇



 その頃。

 とある場所にて。

「おい! さっさと寄越せ!」

 煌びやかな部屋で、一人の少年が癇癪のような声を響かせている。

 その前には多くの兵士達が暗い顔で並んでいた。

 一人、そしてまた一人、少年の手を握ると、悲しそうな表情で部屋から去って行った。

 最後の兵士が去った後、少年は嬉しそうに笑い出す。

「クハハハ! これが――――力! なんて素晴らしいんだ!」

 その姿を見た周りのメイド達の表情が強張る。

 彼女達の主人(・・)の命令とはいえ、こんな得体の知れない男の世話をしなくてはならない事に、悲しみを覚えているのだ。

 その時、彼女達の救いとなる人が部屋にやってきた。

「アース、例の件は進んでいるか?」

 部屋に断わりも入れず入って来た男性は、その姿だけで強者と分かるほどのオーラを放っていた。

 彼はこの屋敷の主人、アイザック・エンゲイトである。

「アイザックさん。おかげで随分上がりました」

「そうか。それならよい。くれぐれも忘れるなよ?」

「ご心配なく。こう見えてもアイザックさんには恩義を感じてますから。俺はここからのし上がってやりますから!」

「ふむ。気合があるのは良い事だ。もし問題が起きたら執事にすぐに伝えてくれ。俺に伝わるようになっている」

「分かりました。それはそうと増援はいつになるのですか?」

「うむ。三度目の募集を募っている。二度目の連中がそろそろ合流するはずだ」

「なんと! それはありがたい!」

 アースは嬉しそうにその場で跳ねる。

 そんな姿を冷ややかな視線で見つめるアイザック。

 目的とはいえ、こんな下民(・・)を飼っている事にアイザックは内心苛立ちを覚えていたが、決して外に出す事はない。

 これも全て――――――。



「アース。くれぐれも無茶はするなよ? お前は我が帝国(・・)唯一の――――――




 『転職士』なのだから」