フィリアがクソリオの所に行った日。

 色々会議を行った結果として、全員元の職能に転職して貰い、全員にスキル『経験値アップ②』を付与した。知らなかったけど、実はこのスキル、俺がその気になれば、いつでもどこでも切る事が出来る仕組みだった。

 転職時にしか選択出来ないと思っていたのに、カールからやってみてくれと言われ、やってみたら本当に出来た。

 最初はこのまま全員のレベルを急いで上げて、乗り込もうとの意見が出たんだけど、折角だから、その前に俺のレベルを先に上げてみようという意見が出て、満場一致で決定した。

 俺にとっては感謝しかないけど、実はこれには大きな理由がある。

 それはスキル『経験値アップ①』と『経験値アップ②』の違いに理由があった。

 ①は元々二倍、②は五倍なのだ。

 もし次のレベルが上がって『経験値アップ③』になった場合、十倍になるかも知れないのだ。

 そうなれば今よりも倍以上の効率良さになるから、それが狙いであった。


 その日から全員素早くレベルを2に上げて、それから獲得した経験値をその場で転職させて吸収していった。

 つまり、俺も狩りにお供する事になったのだ。

 初めての魔物狩りは、想像していたよりも激しい戦いだった。

 全員が職能を持っていたとしても、油断すれば命を落とす一歩手前の状態であり、ぎりぎりの戦いを行っていた。

 それを見ていて思ったのは、戦い方に対する疑問だ。

 相手は三体のゴブリン。

 ゴブリンに対して前衛職が斬り込んで、後衛職が隙間に攻撃をするのだが、そう上手く行くはずもないので、主に不利になった味方に援護をする作戦を取っていた。

「皆さん、一ついいですか?」

「ん? どうしたんだ? ソラ」

「えっとね、狩りの作戦を一つ試してみたいんだけど、いいかな?」

 俺の言葉に、みんなポカーンとしたが、直ぐにアムダさんが、

「いいんじゃない? 試して駄目なら戻せばいいだけだし」

 と言ってくれた。

「まず、前衛の三人が相手の注意を引きます。今までならそのまま戦ってますよね? それを変えます」

「「「変える??」」」

「はい、注意を引いた瞬間、後方に逃げてください」

「「「逃げる??」」」

「はい、逃げれば相手も追いかけて来ます。それでこちらと相手との距離が生まれるはずです。そこを活かしましょう。前衛が逃げた後に、後衛が一斉に攻撃をします」

 俺の提案にみんな頷き始めた。

「いいんじゃない? これが上手くいけば、前衛も今よりは安全になるかも知れないし」

「そうね。やってみよう」

「「「おー!」」」

 アムダさんとイロラさんの後押しもあって、俺の作戦が採用された。



 向こうのゴブリン五体を見つける。

 最初に前衛職の三人が近づいて、石を投げる。

 気付いたゴブリンが怒り、襲って来た。

 襲って来たところで、前衛職の三人がこちらに全力で逃げてきた。

「今です!!」

 そして、俺の号令と共に、後衛職のみんなが一斉に攻撃し始めた。

 狩人の弓矢と、カールの魔法が炸裂した。

 たった一撃。

 一斉攻撃でゴブリン五体を一瞬で倒せた。

「凄い!! これならもっと安全で戦えるわ!」

「ああ! 前衛も怖くないし、寧ろ、釣った感じがあって楽しいかも!!」

 先輩達も喜んでくれた。

「やるな、親友」

「おう、カールの魔法もやっぱりすげぇな」

「俺の魔法は味方を巻き込んでしまうから、これならぶっ放せるから助かる! 狩りも楽しくなってきた!」

「油断せずに、このやり方を煮詰めていこう!」

「「「おー!」」」

 この作戦を『釣り狩り』と命名した。


 それから見つけた魔物を釣って来ては、弓矢と魔法で倒していく。

 ゴブリン数体でもこの作戦なら安全に倒せるようになった。

 中には小型の猪魔物のスモールボアも同じ方法で倒していった。



 ◇



 その頃。

 カーン。

 広場には金属同士がぶつかる後が響いて、吹き飛ばされるフィリアがいた。

「くっ……」

「あらあら、やっぱり田舎剣聖はこんなもんですか……」

 フィリアは言葉を発した男を睨む。

「そんな怖い顔をすると、折角の美人の顔が台無しですよ? くっくっくっ」

 フィリアを上から見下ろす男は『剣聖』の一人、アビリオ。

 まだフィリアとの実力差は明らかであった。

「貴方もこれから強くなれますよ。こんな田舎(・・)でなければね」

 不敵な笑みを浮かべたアビリオに何一つ受け答えしないフィリアは、そのまま起き上がり広場を後にした。

 悔しがるフィリアにアビリオが続ける。

「貴方の努力がどれほどの物かは知りませんが……約束通り、一か月後に吾輩に勝てなかった場合、向こう(・・・)に行く事を忘れないでくださいね」

「くっ……」

 アビリオは彼女を残し、広場を後にした。

 彼の顔には既に嫌らしい笑みが浮かんでいた。