ガイアさんはテーブルの上に五つの剣を出した。
ぱっと見、一本以外どれも最上級品の剣に見える。
「ここに俺が作った剣が一本だけ入っている。それを当てる事が出来たら、クラン『銀朱の蒼穹』専属鍛冶屋になろう。どうだ?」
「いいですよ。これほどの腕を持つ鍛冶屋を味方に出来るなんて、今の俺に最も欲しかった力です」
ガイアさんの表情が固くなった。
静かにテーブルを見つめている。
「触ったり、鞘から抜いてみても?」
「いいぞ」
俺はそれぞれの剣を一本ずつ鞘から抜いて並べた。
一つ目は、赤い刀身が美しく、それ以上に特別な力を感じる。長さも普通の長剣と同じ長さなので、とても使いやすそうだ。
二つ目は、細い剣だった。長さは普通の長剣と変わらないんだけど、刀身の幅が三分の一くらいしかないが、その分とても軽い。
三つ目は、少しいびつな形をしていた。長さは普通の長剣だが刀身が真っ黒で、刃部分がギザギザしている。魔物の歯のようだが、細かい歯の部分まで鋭利に作られていた。
四つ目は、短い剣だ。綺麗な翡翠色をした刀身で、長さは長剣の半分ほど。短剣と呼ぶには長い。言わば小ぶりの剣……短刀と呼べるくらいの大きさだ。こちらも刀身から不思議な力を感じる。
五つ目は、ごく普通の長剣だ。何の捻りも、不思議な力も全く感じない。寧ろ、今にも折れそうにも見える。
五本の剣を全て見終えた頃、ガイアさんが驚きの事を口にした。
「もし見抜けなかったとしても、選んだ剣はやる」
なるほど……それもまた大きな揺さぶりだと思えた。
四つの剣はどれも超一級品。
もし、欲張ってそのどれかを選んで失敗しても、その剣は手に入る。
つまり、鍛冶屋を雇わなくても超一級品の剣が手に入ればそれはそれでいい。と思う人もいるかも知れない。
しかし、ここで大きな違和感を感じた。
五本目の剣。
何処にでも売ってそうな普通の剣。それを彼が打った剣だと言うのも不思議だ。
俺は五本の剣をゆっくり見回した。
――――そして。
「分かりました。これです」
俺は一本の剣をガイアさんの前に突き出した。
「……どうしてこれだと思ったんだ?」
「まずは長さですね。恐らくですけど、刀身に何かの魔法のようなモノが込められている気がします。それを主軸に使う為の武器なのでしょう。となると、刀身が長いとその分、簡単には使えない……しかし、この形だといざという時に剣として戦う事も出来る。恐らくですが、それがガイアさんが見つけた『武器』としての形だったのかなと思いました」
目を瞑り俺の答えを聞いたガイアさん。
「この中で唯一普通の剣がある。それだとは思わなかったのか?」
「五番目の剣ですね。確かに、この中では最も普通の剣で、他の四つのように作ったとは思えないくらい一級品物と違って、至って普通ですね。ガイアさんがはるか昔に作った剣。なんて事も思ったんですけど、魔剣を作ったと噂されるほどの方の最初の作品にしても弱すぎるのだと思いました」
「…………最後に俺を雇ってくれると言ったが、その理由はなんだ?」
ガイアさんの質問に、迷うことなくまっすぐ見つめ答えた。
「はい。『銀朱の蒼穹』はマスターである俺が強いクランではありません。さらに剣聖であるフィリアだけで成立しているクランでもありません。俺達はみんなが揃って初めて強いんです。武器や防具は俺達を強くしてくれる。より良い武器を持てばそれだけみんなが強くなって、またみんなで一緒に帰って来れますから、その為に鍛冶屋を雇うのはクランマスターとしてとてもうれしいことなんです」
俺はテーブルの上の剣全てを撫でた。
「ここにある剣、全てがどれも素晴らしい超一級品です。最後の普通の剣も俺には分からない何かの隠し要素があるような気がします。だって…………ここにあるどれもが『爆炎の鍛冶屋』が本気で作った剣ですからね」
「…………くっくっ、がーははははっ! 参った! 俺の完敗だ!」
大声で気持ちよく笑ったガイアさんは、俺をまっすぐ見つめた。その瞳には熱い想いが感じられた。
「全て正解だ。ここにある武器は全て俺が打ったモノだ。五本目も見た目はこうだが隠れた仕掛けがある。本当ならそれを見極めた人にこそ仕えたかったのだが…………ここまでコテンパンにされたら、逆に清々しいくらいだ」
「ふふっ、だってこの剣をテーブルに置くガイアさんの手付きは、自分の身体の一部かのように大事に置いてましたからね」
「がーはははっ! そんなとこからもばれていたのか。こりゃ……とんでもないクランマスターを見つけてしまったかも知れないな」
後ろでガイアさんを見守っていた人達も安堵したように息を吐いた。
「ではガイアさん。改めてよろしくお願いします。俺は『銀朱の蒼穹』のマスターのソラです」
「『爆炎の鍛冶屋』と呼ばれているガイアだ。よろしく頼む。これから専属鍛冶屋として鍛冶事は任せてくれ」
俺とガイアさんは固い握手を交わした。
その手は長年金属を打ち続けた事が分かるほどに豆だらけの手だった。
ぱっと見、一本以外どれも最上級品の剣に見える。
「ここに俺が作った剣が一本だけ入っている。それを当てる事が出来たら、クラン『銀朱の蒼穹』専属鍛冶屋になろう。どうだ?」
「いいですよ。これほどの腕を持つ鍛冶屋を味方に出来るなんて、今の俺に最も欲しかった力です」
ガイアさんの表情が固くなった。
静かにテーブルを見つめている。
「触ったり、鞘から抜いてみても?」
「いいぞ」
俺はそれぞれの剣を一本ずつ鞘から抜いて並べた。
一つ目は、赤い刀身が美しく、それ以上に特別な力を感じる。長さも普通の長剣と同じ長さなので、とても使いやすそうだ。
二つ目は、細い剣だった。長さは普通の長剣と変わらないんだけど、刀身の幅が三分の一くらいしかないが、その分とても軽い。
三つ目は、少しいびつな形をしていた。長さは普通の長剣だが刀身が真っ黒で、刃部分がギザギザしている。魔物の歯のようだが、細かい歯の部分まで鋭利に作られていた。
四つ目は、短い剣だ。綺麗な翡翠色をした刀身で、長さは長剣の半分ほど。短剣と呼ぶには長い。言わば小ぶりの剣……短刀と呼べるくらいの大きさだ。こちらも刀身から不思議な力を感じる。
五つ目は、ごく普通の長剣だ。何の捻りも、不思議な力も全く感じない。寧ろ、今にも折れそうにも見える。
五本の剣を全て見終えた頃、ガイアさんが驚きの事を口にした。
「もし見抜けなかったとしても、選んだ剣はやる」
なるほど……それもまた大きな揺さぶりだと思えた。
四つの剣はどれも超一級品。
もし、欲張ってそのどれかを選んで失敗しても、その剣は手に入る。
つまり、鍛冶屋を雇わなくても超一級品の剣が手に入ればそれはそれでいい。と思う人もいるかも知れない。
しかし、ここで大きな違和感を感じた。
五本目の剣。
何処にでも売ってそうな普通の剣。それを彼が打った剣だと言うのも不思議だ。
俺は五本の剣をゆっくり見回した。
――――そして。
「分かりました。これです」
俺は一本の剣をガイアさんの前に突き出した。
「……どうしてこれだと思ったんだ?」
「まずは長さですね。恐らくですけど、刀身に何かの魔法のようなモノが込められている気がします。それを主軸に使う為の武器なのでしょう。となると、刀身が長いとその分、簡単には使えない……しかし、この形だといざという時に剣として戦う事も出来る。恐らくですが、それがガイアさんが見つけた『武器』としての形だったのかなと思いました」
目を瞑り俺の答えを聞いたガイアさん。
「この中で唯一普通の剣がある。それだとは思わなかったのか?」
「五番目の剣ですね。確かに、この中では最も普通の剣で、他の四つのように作ったとは思えないくらい一級品物と違って、至って普通ですね。ガイアさんがはるか昔に作った剣。なんて事も思ったんですけど、魔剣を作ったと噂されるほどの方の最初の作品にしても弱すぎるのだと思いました」
「…………最後に俺を雇ってくれると言ったが、その理由はなんだ?」
ガイアさんの質問に、迷うことなくまっすぐ見つめ答えた。
「はい。『銀朱の蒼穹』はマスターである俺が強いクランではありません。さらに剣聖であるフィリアだけで成立しているクランでもありません。俺達はみんなが揃って初めて強いんです。武器や防具は俺達を強くしてくれる。より良い武器を持てばそれだけみんなが強くなって、またみんなで一緒に帰って来れますから、その為に鍛冶屋を雇うのはクランマスターとしてとてもうれしいことなんです」
俺はテーブルの上の剣全てを撫でた。
「ここにある剣、全てがどれも素晴らしい超一級品です。最後の普通の剣も俺には分からない何かの隠し要素があるような気がします。だって…………ここにあるどれもが『爆炎の鍛冶屋』が本気で作った剣ですからね」
「…………くっくっ、がーははははっ! 参った! 俺の完敗だ!」
大声で気持ちよく笑ったガイアさんは、俺をまっすぐ見つめた。その瞳には熱い想いが感じられた。
「全て正解だ。ここにある武器は全て俺が打ったモノだ。五本目も見た目はこうだが隠れた仕掛けがある。本当ならそれを見極めた人にこそ仕えたかったのだが…………ここまでコテンパンにされたら、逆に清々しいくらいだ」
「ふふっ、だってこの剣をテーブルに置くガイアさんの手付きは、自分の身体の一部かのように大事に置いてましたからね」
「がーはははっ! そんなとこからもばれていたのか。こりゃ……とんでもないクランマスターを見つけてしまったかも知れないな」
後ろでガイアさんを見守っていた人達も安堵したように息を吐いた。
「ではガイアさん。改めてよろしくお願いします。俺は『銀朱の蒼穹』のマスターのソラです」
「『爆炎の鍛冶屋』と呼ばれているガイアだ。よろしく頼む。これから専属鍛冶屋として鍛冶事は任せてくれ」
俺とガイアさんは固い握手を交わした。
その手は長年金属を打ち続けた事が分かるほどに豆だらけの手だった。