「ん…………ここは?」

「ルリ!!!」

「えっ? ルナ?」

 起きた双子の()のルリくんに、()のルナちゃんが抱き付いた。

 五日も寝込んだルリくんが漸く目を覚ましたのだ。

「初めまして。俺はソラ。こちらはフィリア。俺達は君達の味方だよ。怖がらなくて大丈夫」

 俺の言葉にキョトンとしたルリくんだったが、直ぐに疑いの眼差しに変わった。

「…………」

 ルリくんは、ルナちゃんを抱きしめると、俺達から距離を置こうとする。

 無理もない。長い間、あの地下での出来事があるからね。

 ゆっくりでいいから、これから仲良くなっていきたいなと思う。

「ルリ? ソラお兄ちゃんのおかげで治して貰ったんだよ?」

「っ!? …………ふん! 別に頼んでない!」

「えっ? ルリ? どうしてそんな事言うの!? ソラお兄ちゃんのおかげで――」

「くっ! 別に助けてくれと言った覚えはない! そいつが誰だかは知らないけど、ルナは俺が守る!」

 敵意むき出しのルリくんと、それに戸惑うルナちゃんに、何故か昔の自分とフィリアの事を思い出した。

 フィリアと仲良くなっていた頃、まだ孤児院の連中……カールと仲良くなかった頃に、俺もああいう事をカールに言った事あったっけ。

「ルリくん。確かに助けてくれと言われてないから、俺は感謝は言われなくても構わない。でもね。俺から一つだけお願いがあるんだ。それだけは聞いて欲しい」

 ルリくんが驚いた表情のまま、俺を睨んできた。

「この先も君とルナちゃんは生きていかなきゃいけない。だから君達が自立出来る日までは俺に面倒を見させて欲しい。特に何かをする必要はない。ただし、絶対に守って欲しい事がある。それは――――食事だけは絶対に取って欲しい。君達のこれからの人生の為に、俺は勝手に君達を助けるから、感謝なんてしなくていいから、ちゃんと食事を取って、元気になって、その先にここを出たいというなら止めはしないからね?」

「…………」

 俺はルリくんとルナちゃんの分の食事を部屋に残した。

 俺について来ようとするルナちゃんを制止する。

 小さく首を横に振って、ルリくんの隣に残るように促し、俺達は部屋を後にした。





「ルリ! 酷いよ!」

「…………ルナ! お前はあいつを信じるのか!?」

「うん! ソラお兄ちゃんは凄いんだもん! ちゃんと私達も治してくれたし、美味しいご飯もただでくれるし、足りないともっとくれるし! 凄く優しいんだから!」

「くっ! それは俺達を利用するつもりだからだ! あんなやつに――――」

 ルリは自分の前に渡された食事を振り払った。

 食器が落ちる音が部屋に響く。

「…………酷い…………ルリ? ソラお兄ちゃんは私達の為に頑張ってくれたんだよ?」

「そ、そんな事ない! あいつらは俺達を騙して、またあの時みたいに――――ルナ?」

 自分の分の食事をルリの前に置いたルナは、落ちた食事をまた皿に戻した。

 熱いスープもそのまま手ですくい皿に戻す。

「ルナ! そんな事をしたら手に火傷を!」

「…………ねえ、ルリ。ソラお兄ちゃんはね……真っ先にルリを助けようと必死に回復魔法を使ってくれたんだよ? ……私もソラお兄ちゃんに治して貰ってご飯も沢山食べさせて貰って……こうしてルリのご飯もただでくれたんだよ……?」

 スープを最後にすくい終えたルナは、地面に落ちたスープの残りを舐め始めた。

「こんなにも私達の為に頑張ってくれたのに……せっかく貰えた食事をこんな事にして……これじゃいつか天罰が下るよ……ルリ…………私は何としてもルリを守るからね」

 必死に地面を舐めるルナを見たルリは悔しさと悲しさと――――後悔に苛まれた。

 ルナは自分の為にここまで考えてくれたはずなのに、自分は何をしているのかと。

 施しは受けない――――しかし、それではルナは守れない。

 ルナを守れなかった自分に苛立った。

 そして、悔しくて涙が止まらなかった。

 ルリは目の前の食事に手を伸ばす。

 ルナがここまで信じた相手を、どうして自分は拒絶したのか、それが悔しくてたまらなかった。



 ◇



 ルナちゃんが食事を終えて食器を下げて来てくれた。

 しかし、何故か両手を隠すような事をしているのに気付いた。

「ルナちゃん? ちょっと手を出して貰えないかな?」

「えっ? ソラお兄ちゃん? どうしたの?」

 やっぱり何かを隠している。

「ルナちゃん、ごめん。ちょっと乱暴だけど――――」

 俺はルナちゃんの手を引っ張った。

 申し訳ない表情のルナちゃんの両手は、何故か火傷だらけになっていた。

 さっきまでこんな状態じゃなかったはずなのに……どうして?

「そ、ソラお兄ちゃん! ご、ごめんなさい! 私が間違えてスープを落としてしまって! それを手ですく――――」

 想像だにしなかった答えに、俺は衝撃を受けた。

 そのままルナちゃんを力強く抱きしめた。

「ルナちゃん。食べ物を粗末にするのは良くない事だよ。でも落としてしまったモノは仕方ないんだ。その時はまた新しい食事を出してあげるからね? だから、今度はそんな事はしないで欲しいな……」

 抱き締めたルナちゃんに回復魔法を掛けて、両手の火傷を治してあげた。

 ルナちゃんはずっと「ごめんなさい……」と謝罪していたけど、俺は何となく彼女のせいではない気がした。

 ルリくんのあの態度……もしかしたら、と思う。

 俺が思っていた以上に二人の心は深く深く傷ついていた。