しばらくすると、富久さん…扇子のおじちゃんが来た。
真っ暗な店内を見て、何かを察していたらしい。私の様子を見てもあまり驚いていなかった。何かを知っているのだろう。
聞かなくては…私はそう思った。
「扇子のおじちゃん…これは、どういうこと…?」
「混乱してるのはよくわかる。でもまずは、何があったか話してごらん。」
「うん…」
私はこれまでのことを話した。
授業参観のところから全部。
話すことに気は進まなかったけど、話さなきゃいけない…そう感じた。
扇子のおじちゃんは私の話を静かに聞いていた。
話終わると何も言わずにこっちに来て、頭を撫でてくれた。
そして、
「辛かったな…、よく耐えたね…全部教える時がきたみたいだね…わしの話、聞いてくれるかい?」
「うん。」
それを合図に扇子のおじちゃんは話し出した。
まず、私たちが何者なのかを…
わかってるだろうけど、人間ではなかった。分かりやすく言うと、神様らしい…
そして神様は人間が住んでる世界に行けないんだと…だから、お母さんは学校行事に何も参観出来なかった。
「じゃあ、私は…?」
「彩花ちゃんはまだ神の力が目覚める前だから大丈夫だったんじゃよ」
そっか、そういう事か…
そしてなんで食べさせてあげれなかったかと言うと、神の力がかかった食べ物は人間にとって負荷がかかりすぎるかららしい…
だから神は絶対に人間に食べさせてはいけなかった。これは決まりらしい。しかし今回破ってしまった。だから、お母さんはその代償として消えてしまった。
一見、はちゃめちゃな話だが素直に受け入れてしまうあたり、私は神の子なんだと納得してしまう。
ガラガラガラッッ
カッカッカッ、、
高いヒールの足音が響く。
「ちょっとっ!どういうことなの!彩花説明しなさい!」
夕子さんだった。
怒っている…だけどそれ以上に泣くのを我慢している歪んた顔だった…
「ごめんなさい…」
どのくらいの間だったろう
その間夕子さんは私をずっと睨んでいた
怖かった…
夕日のような瞳が真っ赤に燃えていて、恐ろしく、こんなにもこの人に恐怖を感じたのは初めてだった…
だけど私は夕子さんから目が離せなかった…
それはきっと、夕子さんが本気でお母さんのことを思っていたからこそできる目であったからだ。お母さんは愛されていたんだ。
続いていた沈黙を破ったのは夕子さんだった。
「もう、いいわよ。わかってるわよ何があったかなんて…彩子はもういないんでしょ…?」
「うん…」
「うっ、ぅっ…」
夕子さんは、泣き出してしまった。
「繋ぎ屋」に再び沈黙が訪れた…
今度の沈黙を破ったのは、扇子のおじちゃんだった。
「夕子さん。悲しいのはわかる。涙が出るのもわかる。だけど、私たちにはやらなきゃいけないことがある。そうだろう?」
それを聞いてからも、しばらく俯いて黙っていたがゆっくり顔を上げたかと思うと話し出した。
「許す。もう泣かない。だからひとつだけ約束してくれ。繋ぎ屋を継ぐんだ。」
「え、?私がお母さんの店を継ぐの…?」
でも私には、料理のことが何も分からない。
レシピも何もかも
「そのペンダント。それを持っているということは、あなたはこの店の後継者であるという何よりの証拠だ。」
これが…?
「そうだ。それは、代々店主が持ってるもの。」
「でもっ、お母さんがペンダントつけてる姿なんて見たことない!」
「そりゃそうだろう。このペンダントはこの店の店主になるって決意したその時に見えなくなり、店主じゃなくなるその時に現れるんだから。」
訳が分からない。消える?そんなこと…
「ちなみにそのペンダントをつけてるものにはレシピという記憶が与えられるらしい。その記憶を上手く使いこなして、料理が作れるかは才能と努力によるらしいけど、その辺の心配はいらない。」
怖い。お母さんが大事にしてきたこのお店を私が台無しにしてしまうんじゃないか…
そう思ったら継ぐなんで簡単に言えない。
「私にできるかわかんない…」
つい、そう言ってしまった。
「できるかわかんない…?そんなこと言うんか?!彩子はお前に託したんだよこの店を!なんでするって即決できない?!彩子の店を壊したのはお前だ、彩花!そして、この店を守れるのもお前だけだ。悲しいのはわかる。みんな同じだ。だけど、決めるんだ。中途半端なことだけはしないでくれ…」
また明日来る。
そう言って夕子さんは帰って行った。
扇子のおじちゃんもよく考えてみるようにって、それだけ言って帰って行った。
私はまた1人になった…