次の日の朝、やっぱりいつも通りお母さんはこう言った。
「彩花。約束覚えてる? 何があっても彩花のお弁当誰にもあげたらダメだからね」
 私は今日。唐揚げをひとつあげる約束をしている。ここで頷いたら、お母さんに嘘をつくことになる。大好きなお母さんを裏切りたくない。だけど、その大好きなお母さんを侮辱する人が許せなかった。お母さんのご飯の美味しさを教えなきゃいけないと思った。
だから私は、
「うん」
 初めて嘘をついてしまった。
 そしてお母さんに抱きついた。
 いつもこんなことしないからだろうか、お母さんは驚いた顔をしていた。
「お母さん大好き。行ってきます」
「お母さんも彩花のこと大好きよ。愛してるわ。いってらっしゃい」
 そう言ってくれた。
 愛してるって言われた時、不覚にも少し泣きそうになってしまった。
 それからすぐ私は学校な向かった。


 学校に着くと、昨日の悠介はもう学校に来ていて、私の所まで来た。
「ちゃんと唐揚げ作ってもらってきたか?」
 会って、1言目がその言葉か……
 なんとも言えない気持ちが蠢いた。
「当たり前よ! お母さんは私の事愛してるんだから。」
 つい強気になったのもそのせいだろうか。
「じゃ、昼に楽しみにしてるぞ」
 そう言って、私の答える間もなく、彼は私の席のとこから去っていった。

 お母さんの愛を証明出来る。
 そう思ってたからだろうか。
 いつもの何倍もお昼までの時間が長く感じた。
 そしてやっと、お昼の時間がやってきた。

キーンコーンカーンコーン…

授業終了のチャイムが鳴ると、すぐに悠介が自分のお弁当をもって、やってきた。
「おい、唐揚げ交換だ!」
「わかってるし!」
そう言って、机の横にかけてあったお弁当を取り出し、机の上に広げた。
「どうぞ…」
私がお弁当を差し出すと、悠介は箸で唐揚げをひとつつまみ、自分のお弁当の蓋の上に乗っけた。
私も悠介の唐揚げをひとつ取り出し、同じように蓋の上に乗せた。
「ふーん、思ったより美味しそうじゃないか。」
思ったよりじゃなくて!美味しいのっ!!!
「「いただきます」」
2人分の挨拶が響く。
私たちはお互いのお母さんの唐揚げを食べた。
彼のお母さんの唐揚げは美味しかった。
もちろん、私のお母さんのほどでは無いが、
それは彼も同じことを考えていたようで、
「美味いじゃないが、もちろん俺のかーちゃんの程ではないがなっ」
って言っていた。
「それはこっちもよ、やっぱりお母さんのがいちばん美味しいでも、悠介くんのお母さんのも美味しい。」
会話はそれだけだった。
それからは2人とも黙々と自分のお弁当を食べた。
しかし、異変はすぐに起こった。
2人はほぼ同時に食べ終わった。
「ごちそうさまでした。」
ちゃんと挨拶をした。
そして悠介くんは席に戻るため立ち上がった。
その時、
バタンッ、、
倒れた…
私はびっくりして動けなかった。
周りは、突然のことにざわついていた。
悠介くんは苦しみながらこっちを向いた。
私と、目があった。
その目は、私を睨んでいた。生まれて初めてだったこんな目を向けられたのは…
私は目が離せなかった。
彼が突然話し出した。
「…な、にを、入れた…?俺が…こうなるように…唐揚げに…なんか入れたの、、だろう……?」
「何も入れてない。」
これは本当だった。
訳が分からない。
私も同じ唐揚げを食べた。
なんで私はなんもないの?悠介くんだけ?
誰かが呼んだんだろう。先生が来た。
悠介くんを連れて行った。
「何があったの?」
先生は私にそう聞いた。
私は答えなかった。その代わり、走り出した。家に向かって…
なんでかは分からない。でもお母さんの所に行かなきゃいけない気がした。
背後で先生がびっくりして固まってるのが見えた。でもお構い無しに私は走った。

しばらくすると、家が見えてきた。
家までこんなに早くついたのは、初めてだった。
そのくらい1度も止まらず走り続けた。
ガラガラッ
扉を高速で開ける。
急いで中に入った。中は静かだった。
「お母さんっ!お母さんっ!どこいるの?」
キョロキョロしながら奥に入っていくと、厨房で倒れているお母さんが見えた。
「お母さん?!どうしたの?!」
「彩花…、なんでここにいるの…?」
声にいつものハリがない…
弱々しかった。
「あの…ね、お母さんの唐揚げをクラスの子に一つだけあげちゃったの…、そしたらその子が倒れちゃって…、わけわかんなくなって、とりあえずお母さんのとこに行かなくちゃって思って…」
「そっか…やっぱりそうだったのね…」
お母さんのこんなにも悲しそうな顔は初めて見た。
その時、なぜかは分からないけど、自分が大きなことをやらかしてしまったことに気がついた。
「ごめんなさい…約束破って…」
「いいのよ彩花…お母さん彩花のこと…許すわ、、お母さんこそごめんね…これから彩花を1人にしてしまうこと……許して…」
お母さんは泣いていた。
初めて見る涙だった。
「え、、お母さん…?行かないで…置いてかないでよ…」
「ごめんね…今度、扇子の…おじちゃんか、夕子さんが…来たら、、これを…見せなさい。」
お母さんは私に紫の宝石みたいなのが付いたネックレスを渡してきた。
それはぼんやり光ってて、お母さんのオーラを抜き出してきたみたいだった。
「わかった…」
「こっち来て…」
お母さんは私の方に手を伸ばした。
私はお母さんの隣に横になり、抱きついた。
お母さんは耳元で囁いた。
「大好きだよ…彩花、愛してる…」
「お母さん、私も愛してる」
私の返事を聞くと満足したのかにっこり笑って、眠りについた。
「お母さん…?」
もう、目を覚まさなかった。
いつまでこうしていただろう。
気づいた時、お母さんの体が薄くなっていた。消えかかっていたのだ。
「やだ…どうしよう…」
そう思っていてもどうしようもなかった。