「もう本当になんなのー!」


翌日、食堂にて咲は鬱憤を吐き出す。

木島くんが、メールをやりとりていた相手ではなかったことが判明してから、一晩経った。泣いた後、結局メールをしていた相手は誰だったのだということになり今は、その会議中だ。


「まあ、落ち着いてよ」

「落ち着いてなんかいられないよ。親友を泣かされたんだよ!?黙ってなんかいられない、成敗してやる」


怒りに燃える彼女はずっとこの調子だ。


「芽生は悔しくないの?」

「悔しいっていうより、悲しいっていうか……。昨日一通り泣いたし、とりあえずすっきりしてるかな」


そっかあと言って、咲は落ち着く。

泣いてすっきりしたのは本当。木島くんの連絡先はまだ、相手が本当は誰だったのか判明していなくて、このまま消してもいいことはないかなと思い、消せないでいる。


「あの後、メールの木島くんに連絡した?」


咲からの問いに、首を横に振る。どんな言葉を送ればいいのかわからないし、仮に送ったとしても、返信が来なかったりしたら、辛いので送れていない。


「そうだよねえ」


二人で頭を抱えていると、咲があっと声をあげた。


「ねえ、ちょっと木島くんとのやりとりの画面見せてくれる?」


他の人に頼まれたら躊躇うけれど、咲からのお願いだったので、メールの履歴を開いてスマホを渡す。
 

「あ、あった」


咲が開いていたページは、英文字と数字が乱烈したコードのようなものが映し出されていた。


「何これ、何かのアドレスみたいなやつ?」


咲が正解というように、頷く。


「そう、木島くんのユーザーアドレス。これメール以外にも適用されるやつでさ。この会社が運営しているいくつかのSNSにも検索すれば飛べるんだよね。もしかしたら、検索したら何かわかるかも知れない」


そのユーザーアドレスをすばやくコピーして、咲は検索エンジンにかける。瞬間的に結果が出てきた。結果に驚愕する。


"検索に該当するものが検出されませんでした"


「え?」


焦ったようにして、咲が他にも検索をかける。


「咲のはでてくるんだ」


咲がメールアプリに登録している公開情報が出てきた。そこにはアドレスは記載されておらず、ユーザーネームとアイコンだけが表示されていた。

咲が公開しているのは、必要最低限の情報のみらしい。つまり、情報規制をかけていたとしても、ユーザーネームとアイコンに限っては必ずでてくるはずなのだ。

それなのに、木島くんのは検出さえされなかった。一体どうして。

咲からスマホを返してもらって、メールアプリを起動すると、確かに木島くんとのやりとりが表示される。


「どういうこと」


頭がこんがらがってきた。


メモを取り出して、状況を書き出してみる。


木島くんとのメールのやりとりを開始

数ヶ月経って、本人からのメールじゃないことが判明(でも見た目はそっくり)

ユーザーアドレスを検索するも、情報なし


整理して、考えれば考えるほど謎だ。本当に木島和哉という人物がいるのかさえ怪しい。いや、いるにはいるのだけれどメールをやり取りしていた彼ではなくて。


「やっぱり、連絡してみるしかないんじゃない?」


私も咲と同じ考えだった。結局はこうなるしかないみたいだ。


――あなたは誰ですか


考えて送った結果、メールのやりとりがはじまった時のような、文面になってしまい、少しおかしくて笑った。最後の送信になるかも知れないのに、それが初めと同じだなんて。

それを見た咲は私がおかしくなったと思ったようで、どう宥めようかと慌てていた。それもなんだかおかしくなって、しばらく笑ってしまったのだった。