「ああ、もう終わりみたいです。無理を言って電話をさせてもらっているから。時間らしいです。急に電話をしてすみませんでした。じゃあこれで……」
そうして、電話が切られようとする。待って、まだ聞いていないことがある。
「ちょっと、最後にいいですか?」
早口で言うと、はいと聞こえた。よかった、まだ繋がっている。
「名前を教えてください!」
ピーという音と一緒に雑音が入ってくる。あっち側もそうなのか、張り上げるような声で、
「立川響です!」
じゃあ、俺も最後に、と続ける
「最後のメールありがとう!声が聞けてよかった!」
語尾の方は雑音が混じりすぎていて、ほとんど聞こえなかった。その言葉を最後にして、電話が途切れた。
「立川響……」
口にしてみると、馴染み深い名前のような気がしてきた。結局、木島和哉とどんな関係があったのかわからなかったけれど、それでもいい気がした。
全部、わかってしまっては面白くないことだってある。
その後、私は木島くんー立川響くんとのやりとりを全てスクリーンショットに収めた。
後日、私はカフェに来ていた。メールをやり取りしていた、木島くんと待ち合わせをして、来るはずだった場所だ。メールの相手は立川響だったわけだけど。
新しくできた店だからなのか、内装もおしゃれでいるだけでテンションが上がった。注文をしようと呼び鈴を鳴らす。こういうアナログなところも好きだ。今はほとんどの店ではタブレット一つで、完結してしまうから。
店員さんが到着した気配がして、メニューから顔を話し注文しようとすると、知っている顔があった。
なんと、あの木島和哉だった。
そこで相手も私に気づいたのか、あっという顔をする。
「……ここでバイトしてるんですか」
「はい」
「素敵ですよね。こういうお店好きです」
そこから話が弾んで、数ヶ月後には常連になってしまう。新たな出会いは、また別の話。