お茶漬けのご飯の表面には亀の甲羅のようにお焦げが並べてあって、ポテトチップスと素揚げしたさきイカをフレーク状にしたものが振りかけてある。
チューブのわさびと、鰹節も添えてあって、お兄さんはレンゲで全部混ぜている。
私も真似して表面を軽くかき混ぜてからお焦げの部分をすくい、湯気の立つレンゲをゆっくりと口に入れた。
こぼれた汁が舌を焼くけど、その直後にじゅわっと広がる味わいがそんな痛みをかき消してしまう。
茶摘みの歌が聞こえてきそうな清涼感のあるお茶の淡い渋みが、さきイカのうまみと、ポテトチップスの油と塩気と一体となって、絶妙なだし汁になっている。
「すごくすっきりとしたお茶ですね」
「静岡産です」と、お兄さんがポツリとつぶやいてハフハフとお茶漬けを口にする。
「暖まるっていうか、汗かいちゃいますね」
私は炬燵から出て畳の上に正座し直した。
「楽にしてくださいよ」と、お兄さんも炬燵から出てあぐらをかく。
「大丈夫ですよ」
「いや、姿勢じゃなく、心の方」
ああ、そっちか……。
「ついでに愚痴も置いてっちゃったらどうですか?」
――あれ?
ていうか、どうして分かるの。
「べつに占い師でも名探偵でもないですよ」と、ピンクエプロンさんが微笑む。「遅い時間に会社帰りなんだから、面倒なことがない方が不思議でしょ」
そりゃそうですよね。
べつに推理するまでもないか。
私は当たり障りのない範囲で会社でのトラブルを話した。
「……で、注文書とか全部作り直しだったんですよ」
低い穏やかな声で店員さんがうなずく。
「ああ、まあ、それは大変でしたね」
「自分はちゃんとしてても相手とか他人のミスのせいで結局こっちにも影響が出るってうんざりするじゃないですか」
「それはまあ、そうですよね」
「でも、自分がいくら注意したって、それってよけようがないじゃないですか。会社って誰かと一緒に仕事をしてるわけだし、取引先だっているわけだし。完全に一人にならない限り、他人のミスを押しつけられてしまう可能性はなくならないですよね」
「なるほどね」と、店員さんはお茶漬けを口に入れてしばらく考え込んでいた。
私もお茶漬けをいただいた。
不思議なもので、お茶漬けを食べている間はお互いに無言でも気まずくならない。
むしろ、相手がしっかりと考えてくれているのが分かるし、自分も返事をじっくり待つ心の余裕が生まれてくるような気がする。
ふうふうと冷ます時間すら心地良い。
お茶漬けってシンプルな料理なのにすごいな。
チューブのわさびと、鰹節も添えてあって、お兄さんはレンゲで全部混ぜている。
私も真似して表面を軽くかき混ぜてからお焦げの部分をすくい、湯気の立つレンゲをゆっくりと口に入れた。
こぼれた汁が舌を焼くけど、その直後にじゅわっと広がる味わいがそんな痛みをかき消してしまう。
茶摘みの歌が聞こえてきそうな清涼感のあるお茶の淡い渋みが、さきイカのうまみと、ポテトチップスの油と塩気と一体となって、絶妙なだし汁になっている。
「すごくすっきりとしたお茶ですね」
「静岡産です」と、お兄さんがポツリとつぶやいてハフハフとお茶漬けを口にする。
「暖まるっていうか、汗かいちゃいますね」
私は炬燵から出て畳の上に正座し直した。
「楽にしてくださいよ」と、お兄さんも炬燵から出てあぐらをかく。
「大丈夫ですよ」
「いや、姿勢じゃなく、心の方」
ああ、そっちか……。
「ついでに愚痴も置いてっちゃったらどうですか?」
――あれ?
ていうか、どうして分かるの。
「べつに占い師でも名探偵でもないですよ」と、ピンクエプロンさんが微笑む。「遅い時間に会社帰りなんだから、面倒なことがない方が不思議でしょ」
そりゃそうですよね。
べつに推理するまでもないか。
私は当たり障りのない範囲で会社でのトラブルを話した。
「……で、注文書とか全部作り直しだったんですよ」
低い穏やかな声で店員さんがうなずく。
「ああ、まあ、それは大変でしたね」
「自分はちゃんとしてても相手とか他人のミスのせいで結局こっちにも影響が出るってうんざりするじゃないですか」
「それはまあ、そうですよね」
「でも、自分がいくら注意したって、それってよけようがないじゃないですか。会社って誰かと一緒に仕事をしてるわけだし、取引先だっているわけだし。完全に一人にならない限り、他人のミスを押しつけられてしまう可能性はなくならないですよね」
「なるほどね」と、店員さんはお茶漬けを口に入れてしばらく考え込んでいた。
私もお茶漬けをいただいた。
不思議なもので、お茶漬けを食べている間はお互いに無言でも気まずくならない。
むしろ、相手がしっかりと考えてくれているのが分かるし、自分も返事をじっくり待つ心の余裕が生まれてくるような気がする。
ふうふうと冷ます時間すら心地良い。
お茶漬けってシンプルな料理なのにすごいな。