「俺たちが生きてる意味は、絶対あると思うんだよ。たとえそれが俺たちにとってじゃなくても、周りの奴らにとっては」
春の音が聞こえる。柔らかくて、なごやかで、落ち着く音だ。
春は、どうしてすべての音が柔らかく聞こえるのだろうか。夏のような暑苦しさも、秋のような物哀しさも、冬のような鋭さも、春になれば跡形もなく消える。
春は四季の中でいちばんおだかやで、平和で、時間がゆっくり流れる季節だと思う。
「なぁ、瑠胡」
目の前に立つ人物の薄い唇が、静かに震えた。視線を上げると、彼の澄んだ瞳と目が合う。
出会ったときに、わたしをあっという間に引き込んでしまった青い瞳は、端正な顔立ちに浮くことなく存在していて、まっすぐにわたしを見つめている。
同じ学校の三年生。医者志望。
わたしはまだ、彼のことをそれだけしか知らない。
出会いは入学してから少し経った頃のこと。
わたしの終わりかけた人生は、あの日、彼と出会ったことで変わった。
「少なくとも、瑠胡は俺のために必要な存在だから」
彼と過ごす時間がいつまでも続くという保証はどこにもないけれど、あの日繋がった縁をできる限り大切にしていきたいとわたしは思う。
彼と出会えたことも、今日を生きているわたしの生命も、すべてが奇跡なのだから。
薄紅色をした桜が、視界いっぱいに映っていたあの日。
────あの日、わたしは死ぬはずだった。