「はーい、来店されたお客様は、券売機で発券してからカウンターにきてくださいね~」

 真っ暗闇の中、その声は一際大きく、そして明るく聞こえた。その声を聞いた「お客様」たちは皆、一緒の服を着ている。真っ白の服だ。その真っ白の集団は、ぞろぞろと、券売機の前に並ぶ。

 プレハブ小屋くらいの、小さな建物。そこに立てかけてある看板には「かわよこ食堂」と書かれてある。筆で書かれたような、だけど尖っていない丸みのある字体が、このお店を優しくみせていた。

 だけど「お客様」が惹かれるのは、看板やお店そのものではない。かといって、さっき声を発した女性に惹かれているわけでもない。では、なにか――それは、ご飯だ。この食堂で振る舞われるご飯に、「お客様」は惹かれているのだ。

 かわよこ食堂のお店の前に、発券機がある。その発券機に書かれてあるメニューは、シンプルそのもの。いや、シンプルというより――

「どうかされましたか?」
「!」

 気づけば、お店のスタッフである女性が、後ろに立っていた。さっきから「お客様」に、明るくアナウンスしていた女性だ。

 髪は黒色のポニーテール。動くたびにひらりと毛先が揺れて、思わず目で追ってしまう可愛さがある。顔もあどけなさが残り、二十代前後と若く見える。服は淡いピンクの和服で、白色の割烹着か。うわ、忙しそうな店内で下駄は歩きにくそうだ。

「あの、お客様?」
「あ、す、すみません」

 お客様――俺こと仁平真(ひとひらまこと)は、頭をポリポリ書きながら、軽く頭を下げる。そんな俺を見て、女性はニコリとほほ笑んだ。

「もしかして、記憶がまだ曖昧ですか?」
「記憶?」
「そうです。お客様が死んだ時の記憶です」
「死んだ、時?」

 え、俺って死んでるの?

 と思ったのが正直なところ。だって、死んだ時の記憶なんてないし、今も普通に食堂に入っただけだと思ってたし。会社の帰り道、疲れて空っぽになった体に美味しいご飯を入れようと、そう思っていただけなんだけど。

「俺、死んでるの?全然わからないんだけど」
「はい、死んでますよ。だって立派な白装束を着てるじゃないですか」
「え」

 見ると、確かに俺は白装束を着ていた。草履まで履いていて、なんとも本格的……じゃなくて。周りの「お客様」を見ると、皆が白装束を着ていた。みんな真っ白。ん?ちょっと待てよ。皆が白装束を着てるって事は、ここにいる人たちって全員亡くなってるって事?