昨日の放課後、前日に私が受けた衝撃に輪をかけてしまう事件が起きた。
「アルバム委員、半分無理矢理で悪かったなぁ」
隣のクラス担任でもある篠田先生が放課後の教室に来てくれていた。
私はこれまでの写真をクラスやイベント毎に分類する作業をしていた。
昔と違って、今はそれを切り抜いたりはせず、印刷屋さんと一緒にデジタル処理をして重ねていくのだそう。
「でも、全体の人数が少ないからまだ助かりますよ」
「そうか……。ところで、話が変わってしまうんだが……」
篠田先生がその部屋に他の生徒がいないことを確認して声を潜めた。
「どうかしたんですか?」
そのとき、私の頭の中でけたたましく警報が鳴った。これ以上聞いて深入りしてはいけない!
「もし、違っていたら申し訳ないんだが、小島ってお父さんは名前を陽人って言うか?」
「はい、今は予備校ですけど、昔は高校の先生もしていたようですけど……」
「やっぱり! そうだったか!」
篠田先生が驚きを隠せず、さらに続けてきた。
「それじゃ、もう一つ、お母さんは……?」
「結花です。もともとは原田って苗字ですけど」
「やっぱり、あれは本当のことだったのか……」
「どうされたんですか?」
大きく頷いた先生に、私の心が激しく揺すぶられた。
「いや、小島先生とは昔、その高校で一緒に仕事をしていてね。1学期が終わるときに突然辞められたんだ。そのあとでもっぱら噂になったのが、2年生を担任していた時に原田結花って生徒となんかあったんじゃないかってことでな。原田は一足先に5月で退学して、それから小島先生の様子がおかしくてさ。絶対になにかあったってその年の3年生は最後まで噂になってた。でも、その二人が結婚して、その娘さんとこうして話をしているんだから、ずいぶん運命ってやつもイタズラ好きだよな」
「そ、そうですか……」
ガクガク身体中が震え出したのを悟られないように必死に隠して答える。
篠田先生は新しい事実を知ったように得意気な顔で教室を出ていった。
「やっぱり……、そうだったんだ……」
一人になってから、私は編集作業を中断してしまった。あんな話を聞かされては、これ以上今日は何も手に着かない。
涙が自然に浮いてきて、ポロポロと落ちていった。
篠田先生の話が本当ならば、在職中のお父さんに学生だったお母さんは禁断の恋をしたことになる。
そして、その二人の間に生まれたのが私ということだ。
信じたくないけれど、状況証拠としては充分すぎだ。
お母さんは事が大きくなる前に自主的な退学を選んだのだろう。
お父さんは生徒との交際という責任を取って年度途中で辞任した……。
これなら、これまで拾い上げていた全ての謎ピースに説明がつく。
しかも『ほぼ』矛盾点なしでだ。
唯一残った謎があるとしたら、私が生まれたのはお母さんが学校を辞めた高校3年生・18歳のときではなく、22歳のときであることくらい。でも、そんなのいくらでも説明はつけられる。
「私は……、みんなから許してもらえない恋愛をした二人の間に生まれた子供なんだ……」
きっと、この話は年頃の高校生にはあっという間に拡散してしまうだろう。
この日はもう誰にも自分の姿を見られたくなくて、夜の帳が降りる中を一人でとぼとぼと家に帰った。
体の具合が悪いとダイニングテーブルの上に書き置きを残して、夕食も食べず、帰宅する両親よりも先に寝てしまった。