大人たちがお酒も入ってしまったので、二人でそっと抜け出して、幼い頃に遊んでいた、そしてあの「謙太君に彼女がいる発言」の発端になった公園に来た。

「もう、大人って話が早いなぁ」

「それだけ大変だったんだよ。私たちのこともずっと心配してくれてた。お互いにお付き合いの相手が分かってホッとしたんだと思う」

「そっか。姉ちゃん、あの日はごめん」

「えっ? あぁ……。でも、あれって、私の早とちりだもん。謙太君に責任は無いよ」

「あそこで言っておけばよかったんだけど。結花さんから『クリスマスまで待って』と言われてて……」

「もぉ、お母さんそんな入れ知恵までしていたってことなの?」

 つまり、今日の結果は謙太君の気持ちに気付いていたお母さんが周到に用意した作戦だったんだ。

 それなら、いつもは作らないメニューを最初から用意しておいたことにも納得がいく。

 でも仕方ないか……。

 我が家にとってクリスマスイブは世間一般以上に大切な日としていたから。私もそんな両親の血を受け継いでいるのだし。

「ねぇ、初詣は一緒に行ける?」

「もちろん! 姉ちゃん着物着るの?」

「謙太君がそれを望むなら用意してみる」

「姉ちゃん髪の毛長いから絶対に似合うって」

 あのお母さんのことだ。そのくらいのことを言ったところで驚きもせずに用意してしまうだろう。

「そっかな」

「絶対見たい! 今日だって、めちゃ似合ってるし。それと学校にマフラー使わせて貰うよ」

「うん、せっかく色違いのお揃いにしたんだから」

 団地の中の児童公園に、こんな時間他の人影はない。

 その公園の一角に、木の枝が下の方まで垂れ下がっている部分がある。幼い頃に、よくここで枝を引っ張ったり登って遊んだりもした。

 私が「見た目は正統派の女の子なのに、行動は男の子なみ」と昔から言われるのは、この公園で謙太君といつも一緒に遊んでいたからだと。

 だから、お母さんも小さい頃の私のスカートはデニム生地とかで、男の子と一緒に遊んでも平気なものを選んでくれていたんだといつしか気付いていた。

 その木の下に謙太君の手を引いてくる。

「どうしたの?」

「謙太君……、目をつぶって。いいって言うまで開けちゃダメだよ」

「う、うん……」

 言われたとおりに、目をつぶって立っている謙太君を、そっと抱きしめた。

 もう背の高さも変わらない。私はもう上への成長が止まってしまったから、もう少しすれば抜かれてしまうだろう。

 緊張している彼の唇に、私の唇をゆっくりと合わせた。

「ぁ、彩花姉ちゃん……」

「メリークリスマス……だね。さっきはありがとう……。嬉しかったよ」

 私の顔も間違いなく真っ赤だろう。

 驚いている謙太君の耳元に、そっと囁いた。

「私のファーストキスなんだから。ありがたく覚えておいてよね?」

「絶対忘れない。彩花姉ちゃん、これからもずっと一緒だよ」

 冬の星座が見守っている空の下、私は差し出された謙太君の手を両手で包み込んだ。