その後は、二人でもう一度お店に戻る。

 今度は二人で手を繋いだ。さっきとは違う。おまけのお姉ちゃんじゃなくて、斉藤謙太君の彼女としてだ。そう思うと街の景色も、そしてお店の商品さえも違う視点で見える。

「姉ちゃん……じゃないや、彩花さん、こういうの似合うと思うんだよな」

「これまでどおり、お姉ちゃんでいいよ。うん、よく分かったね」

 シルバーのハートを細いチェーンに通したネックレスと同じシリーズの指輪。さっき一目見て自分が欲しくなってしまったけど、私には少し幼いかなとも思っていた。

「だって、さっき欲しそうにしていたもん。いいよ、これ、プレゼントにしようよ」

「クリスマス?」

「ううん、彩花さんへの初めてのデート記念」

「もぉ、私をまた泣かせる気? ここまで似なくて良かったのに、お母さんと同じで私も涙腺緩いの知ってるでしょ?」

 でもそれでもいい。彼は私の全てを知っている。不安なことはない。こんなスタートはなかなか出来ることじゃないから。

「じゃあ、今度は私から。もう一軒寄ってもいいかな?」

「うん?」

 さっき、謙太君と通り過ぎたお店に入る。

「こんにちはぁ」

「あ、こんにちは。今日も着て下さっているんですね」

 実はこのお店は私もよく来ていて、今日のコーディネートの半分はここで買ったものだ。

「すみません、このマフラーなんですけど……。サックスなら男性でも使えますよね」

「えぇ、このお色は男性にとプレゼントに選ばれる方も多いですね」

 私のストールと色違いのマフラーを手にとって、謙太君の襟元で合わせてみる。

「うん、これなら大丈夫ね。あと、このストールの色味でもう1本ありませんか?」

「あらっ、色違いでペアですね? 確かピンクも奥にありますからお持ちしますね」

「彩花さん……?」

「私からのプレゼント。この間汚しちゃったでしょ? ストールだと男の子で制服に着ていけないからね。ペアはきびしい?」

「いや、嬉しいんだけど、こんな高いのもったいないってば……」

 嬉し恥ずかしなのも分かる。その場で値札を外してもらって、私が羽織ってきたストールを袋に入れて持たせてもらった。

「よし、これで出来た」

「彩花さんいつもこんなに暖かいの使ってるんだ」

 彼の襟元に結んであげて、外に出るともう夕日も終わっていて、色とりどりのイルミネーションが街路樹に煌めいていた。

「私たち、近すぎたんだね。それで気持ちに気付くの遅れちゃった。間に合ってよかった……」

「彩花さん……」

「謙太君がね、好きな人がいる発言をした日から、どうやって諦めようかって……、そればかりだった。それに比べたら、謙太君は私より大人だったね。もう、お姉ちゃん失格だな」

「違う……。失格じゃない。卒業なんだよ。俺、ずっと離れたくない」

「もちろん私も、離れたくないよ。ううん離れてほしくない」

「約束する。離れない。だけど……」

「だけど、どうしたの?」

「最後に、姉ちゃんとして甘えてもいい?」

「うん、いいよ」

 並んで座ったベンチで、私は昔からしていたように、コートの前を開けて、私の胸元に彼の顔を迎えて抱きしめた。

 私を守るために勝てない喧嘩をしてくれて、悔しくて泣いていた謙太君をいつもこうして、ありがとうって抱きしめていたっけ。