「謙太君……、それって……。私のこと……?」
私は隣に座る弟のような幼馴染みを見つめた。
「他に誰がいるんだよ。……ごめん……。でも、彩花姉ちゃんしか俺、もう見られない……。今日もずっと騙しているようで、姉ちゃんに悪くて……」
顔を上げて、私を見た彼の瞳。瞬時に分かる。冗談で言っていることではないくらい。
そうか、それならば今日の全てが納得いく。
その子の好みなどを聞いてみると、私とオーバーラップすることが多かった。だから、きっとその子は私と似ているんだろう。どこが私と違うんだろうと思ってすらいた。
でも、その裏を返せば、私の好みをきちんと見ていてくれたという証拠だったんだ。
「姉ちゃんが、この間言ってた。『世界にひとりでもいいから姉ちゃんがいいと言ってくれる人がいたら嬉しい』って。それ、俺じゃダメかな?」
「謙太君……、大人になったね……」
私の中に封じ込めていた気持の正体、それこそ謙太君に向けた想いだというのは気付いていた。
それこそ保育園から一緒で、小学校から高校まで、私の後をついてきてくれた。
私が上級生に泣かされたときも、慰めてくれたのは年下の謙太君だ。
謙太君のお姉さんじゃなきゃいけない。そう思っていたけれど、いつの間にか、その役目は終わっていたんだ。
そう、私がこの歳まで恋愛が出来なかったということこそ嘘になる。
恋ならもうずっと前からしていた。このいつも隣にいてくれる、弟のような幼馴染み、謙太君のこと。たぶん、好きというのはとっくに通り越している気がする。
謙太君がいなくちゃダメなんだ。
私が笑ったところ、怒ったところ、泣いたところ全てを知っている謙太君。
あの日、屋上のベンチで肩を叩いてくれた。帰りのバスで、隣の彼を見ながら判っていたんだ。
だから、『好きな人がいる』という発言に必要以上に落ち込んだ。
今日の服を選んだのも、スタートはお母さんだけど、隣を歩かせてもらえるのなら、精いっぱい可愛くしてみたかったから。
練習役でも、最初で最後でもいい。デートをしているみたいに見てもらいたかったから……。
全ては私の自分勝手なわがままだったのに……。
「謙太君、私は年上だよ?」
「年上って言っても2歳じゃん。それに、そんな可愛い服を着てたら、年下に見られちゃうよ」
「これから、いろんな他の出会いがあるかも知れないよ?」
「彩花姉ちゃんと一緒に居たいんだ。そうだな、小島彩花さんとして、ずっと一緒にいたいんだ」
ドキンと心臓が鳴った。もうだめ、私がもうもたない……。
「謙太君……。私ね……、ずっと見てた。私たち、まだまだ子どもかもしれない。でも、謙太君となら、一緒に大人になっていきたいって。そんな私でもいい?」
「彩花姉ちゃんのお母さんは、この歳で婚約していたんだろ? うちらは歳の差が逆だけどさ……。でも、彩花姉ちゃんといるときが一番落ち着く。だから、俺のわがままだけど、誰にも彩花姉ちゃんを取られたくない」
もう、立派なプロポーズだよ……。
「彩花さん、これまでも、これからもずっと好きです。付き合ってください」
私の視線の正面に、彼の瞳があった。
「うん……。いいよ……。ううん……、ありがとう。こんな私でも好きになってくれて……、ありがとう……」
謙太君の顔がぼやけてしまう。頬を熱い滴がつたって落ちた。
「謙太君、私も好きだよ。もう放さないでね……」
そう、お母さんがお父さんからプロポーズを受けたのと同じクリスマスイブ。私も大切な人と心を通わせることが出来たんだ。