「彩花、もうすぐ迎えにくる時間なんじゃないの? 早く着替えなさい?」

「うん、でも今日の私はおまけだもん。別にお洒落していく必要もないし」

 12月24日、約束の時間30分前になっても、普段着の私にお母さんはあきれ顔だ。

「もぉこの子は……。おまけだって謙太君の隣を歩くんでしょ? こんな日なんだから、脇役だとしても、ちゃんと着替えなさい」

「え-? でも……」

「ほら、彩花が気に入っているジャンスカと、コートとストールも出しておいたから。雨の心配は無いからショートブーツでいい?」

 これじゃ、どっちが出かけるのか分からない。


 私は渋々と着替えに入った。

 いざ着替えはじめてみれば、やはり細かいところも気になってしまう。アイボリーがベースのジャンスカでブラウスがセーラー襟だから、襟元にクロスタイのアクセントをチョイス。アウターもキャメルブラウンのウール系にする……。あぁ、ナチュラルのストッキングはこの間伝線してダメにしちゃったんだっけ。何で買い足しておかなかったんだろう……。

 無いものは仕方ない。サイドにレースが入った白いタイツに変えて、靴もショートブーツではなく、同じ黒でもアンクルストラップのローヒールパンプスに切り替えた。

 髪の毛は迷ったけれどそのまま後ろに降ろすと襟元が重く見えてしまいそうだったから、思い切って滅多に作らない低めの場所からの三つ編みツインテールにしてみた。

 淡い発色のチークとグロスを使ってナチュラルメイクに仕上げて、最後にタータンのストールを胸の前で大きなリボンのように結んで部屋を出ると、謙太君がもう来ていて、お母さんと一緒に話していた。

「彩花姉ちゃん……」

「ごめんねぇ、女の子は準備に時間かかるって急がせたんだけど、間に合わなかったかぁ。でもまぁ、うん、この短時間でそこまで仕上げてきたなら合格!」

 お母さんも満足そうだったけど、謙太君が私を見て呆然としている。


「に、似合わないかな……?」

「違う……、彩花姉ちゃんモデルみたい。お洒落するとこんなになれちゃうんだ……。こんなの学校の誰も知らない……めちゃ可愛い」

「えぇっ?」

 赤い顔をしている。そうか、いつも制服か適当に選んだ普段着しか見せていないもんね。

 こういうフルスペックでのコーディネートをするのは謙太君の前では初めてかもしれない。

「私がね、彩花が変身してるよって言ったからね。私もまだ着れるかなぁ。私は肌が弱くてお化粧出来なかったからなぁ」

「もぉ、娘のお下がりとか羨ましがるんじゃないの!」

 でも、時々お母さんとは服を貸し借りしているのは事実なんだけどね。

「じゃあ……、行ってきます」

「行ってらっしゃい。夜までには戻るのよ?」


『もしもし、ちぃちゃん? うん私。二人とも今出かけたから次のバスには間に合うんじゃないかな。うん、待ってるね!』

 私たちを送り出したお母さんが、ドアを閉めた直後にエプロン姿に変身したのを私たちは知るはずもなかった。