大智 夏 大学二年生
「さっきから何ぶつぶつと呟いていたの」
 昔に遡ることが最近多くなってなんだかつい口に出してしまっても恥ずかしいとは思わなくなった。それが明日奈だからからと言う意見もあるだろうが俺はそんな変化がここ最近見られた。
「オーダー聞いてきてよ。二人暇そうだよ。男の子の方は何か喋りたげで女の子の方は何か待っているみたいだし」
 二人の方へと目を移すと明日奈の言った通りの状況だある意味驚いた。
 俺は二人の元へ向かう前に明日奈の方へと経由する。そしてあることをお願いして俺は目的地へと向かう。これを言ったとき明日奈はどんな顔をしていただろう。驚いたか、俺を馬鹿と見たか。どちらでもいい。一度は鉄真になりたかった。今しかないのだ。
「男の子の方ちょっとよろしいでしょうか」
 目的地について二人にはっきりと聞こえる声で言う。とう呼ばれた本人は席を立ち俺が案内するところに素直についてくる。
 スタッフルームのような空間に俺は彼を呼び出した。
「告白はどっちからだ?」
 我ながら馬鹿げた第一声で腰を抜かしてしまいそうだ。けれどこれを聞かなかったら物語の第一ページは決して開かない。分厚い本を読むにはまず肝心なのが一ページ目。ここで物語を粗末に扱うか丁寧に扱うかで物語は人それぞれの良し悪しの感想に分かれかねない。
 俺は今決めた。彼の恋愛をきっと成功させる。
「俺からです」
 きっぱりと言った。そしてそれが大きい後悔となっているのかその告白についての失敗談を語り始めた。だが咲穂さんへの罵倒ではない。自分自身に関しての問題を言っていた。
「俺は夜遅くにメールで突如告白しました。ただ、それはやっぱり深夜テンションが生み出した何かなのではないのかと今すごく感じているんです。それかバイトを始めたことか。彼女の学校バイト禁止なんですけど、彼女はお金がないからバイトをすると言い出すんです。俺は何がなんでもとこれを止めましたがやっぱりダメでした。最終的には俺はバイトに負けたんです。近道を辿れば俺か金か。彼女は金が目当てでした」
 一人となったからか初対面なのに言いづらさを感じさせず流れるようにあれらを全て噛むことなく言い切った。

「なんでそんなに長々と言えるくらいの別れる原因があるのに別れないの?」
 恋愛の先生でもないし、いつもは絶対にしないことだから足場がだいぶぐらついているからふらふらと安定を求める。ただ心の振動がそれを阻む。
「あのね、別れれないんですよ。けれどこれは咲穂の言っていることではなく勝手な自分に負わせた責務です。あんなに彼女への嫌なところはあります。けれど俺はそれでも彼女が好きなんです。あのとき初めてデートしたときあの爽やかでけれどポカポカと暖かい感情にさせてくれるのは彼女だけです」
 彼は星矢と言う。彼からその彼女である咲穂さんへの気持ちはまっすぐ一直線で気持ちよくさえ思えた。そして最後には彼女が好きになった理由も気持ちも言ってくれた。浅はかな気持ちで彼女を好きになったわけではない。
 多分今はそう受け止めるのが良いしそれ以外の選択肢がない。彼の目線は今のところずっとまっすぐなのが眩しい。
「それでなんで俺は今こんなところにいるのでしょうか」
「なんとなくだが君は、星矢は二人の関係が今のあのままで良いと思うか聞いてみたい。正直に言ってほしい」
 さっきまでの彼ではなくなったのはここからだ。ハキハキと話す好青年のような感じがしたのは今ではもじもじとした行動をとっている。
 ボソボソと言葉を並べるくらいにもなった。何度も聞こえないから聞き返しているがこれはだいぶかわいそうなことをしているなと自分でもわかってしまうぐらいにこれは感じられた。
「今日のデートがほぼ半年振りなんです。デートの時にしか会えないからあったのも半年ぶりです。ネット恋愛ではありません。普通に近所に住んでいる小学校、中学校の幼なじみです。なのになのに、なんでこうもあう回数が少ないんですかね」
 付き合って一年目が今日で今はその一年記念日としてようやく会えてようやく遊べてと言ったような感じだ。どうも邪魔をした感じが拭えない。けれどやっぱり二人の様子を見ていた違和感は違和感ではなかった。それはしっかりと雰囲気として現実にも足を踏み出すものだった。
「これはもう別れるべきなのでしょうか」
 それは最終定義。別れるも続けるも俺がそれを左右する力はない。
「それは明確に言えないし君がどうにかしないこと。俺はあいにく君たち二人がなんであんな雰囲気なのか知りたかっただけ。けれどどこか見離せなかったからこうして話を聞こうとこう言う場を作っている」
 頼んでもないのにと鋭い視線が向けられたのは言うまでもない。
「彼女に望むこと。君にはあるか?」
「彼女に望むことですか……」
 顎に手を添えていないものの彼は考え始めた。
「まず、パッとすぐ出てきたのは自由であってほしいです。バイトの校則の件も俺はそれが校則になければもちろん盛大に応援しています。だから自由というより過度な自由というか良いことの善悪はつけてほしいですかね」
「君は彼女想いの優しい子なんだね」
 これを言われたらやはり顔が赤くなる。
 "大丈夫"
 君の中にはそんな嘘を吐く細胞すらない。
「他には何かあるかい?」
 少々の沈黙が生まれたが案外すぐに彼は口を開く。
「やっぱりもっとあったり遊んだりしたいです。彼女と結ばれたい、そう思ってやっぱり告白したのですから付き合ってるのに何もしないっていうのが一番駄目なような気がして。けどこう話しているんだから駄目なんです」
「それは何度かお願いしたのか?」
「はい、お願いしました。けれど全部ノーと答えられて、このことを友達に相談したら賛否両論で」
「賛否、どんなのだ」
「彼女もバイトをしていてきっと大変なんだという前向きな意見と、脈なしだから今すぐ手放せと」
 前向きな意見を言ったのは仲の良い友達で彼の恋愛を応援してくれている。脈なしと否定的な意見を言ったのは野次馬らしき人。
「友達からはやっぱり友達という関係だからか保険のように本当の気持ちを言えないんですよね。自分も多分そんなところに気を使ってこういうと思います。けれどそうしたら否定的な野次馬は現実を言いつけている気がするんです。物語がこういう夢があって輝くのと逆で輝かないのは現実です。だから俺は友達に相談をしておいてその相談を参考にしない捻くれ者なんです」
「捻くれ者なら君はいつ別れを告げるつもりなんだい。早く言わないといろいろとやばいのではないか」
 友達にそのこと、結末を催促されたときにはどうもその場にいてはいけない気になるのは予想がついた。
「ちょっと待っててくれ。お水を飲んでくる」
「わかりました」
 一旦席を外すことにした。そして明日奈との情報共有。そう、あのとき彼女の方咲穂さんの気持ちを聞いておくように言ったおいた。
 明日奈はすでに待ち合わせの場にいた。
「そっちどうだった?」
「どうもなにも無理やり付き合わされている感がすごい。けれどなかなか別れることができないって」
 野次馬か、
 やはり現実は現実だった。この二人を結ぶ糸はもう千切れかけていた。その状態を作ったのは間違いなく自分自身。だが悪くはない。
 潮時だ、二人を合わせよう。
 スタッフルームに一人ポツンと座っている星矢くんを呼び出す。今から現実を見せてしまう、楽しみにしていただろう。半年我慢していた彼女との再会、けれどそれを破局へと導く。
 ただ明日奈はそれに猛烈に反対だった。
「星矢くん。もう一回戻って。次は私と話そう」
 星矢くんを追い払った。星矢くんがスタッフルームに戻る背中を明日奈は眺めしっかりとドアが閉まった後に振り返って俺の胸ぐらを掴んだ。
「なに、現実見せようとしているんだよ」
 明日奈は怒っている。
「この二人は笑顔じゃない。今すぐに新しい発見をするべきだ」
 この俺の主張は弾き飛ばされた。弾き飛ばすことを強調させるように俺の頬を名一杯に叩く。その衝撃で俺が何か違う景色は観れるのか、そうはならないがあのカップルに変に首を突っ込んだのは俺だと思い出す。
「私は今少し大智を見損なったよ。だから挽回しろ。男が女の子にこんな思いさせるんじゃねえよ」
 間違えない。明日奈の発言には驚かされた。鉄真を思い出させた。
「はい……」
 どうも弱々しい反応。だけれど見た目によらず想いはしっかりと込めて詰めていた。
 やらなくちゃ、誰の背中を俺は追いかけているんだ。
「咲穂さんかな。ちょっと聞きたいことがあるんだけど時間いい?」
 キッチンからちょこんと顔を出して俺は言った。
「わかってます。良いですよ」
 とりあえず許可はもらったので咲穂さんの前の椅子に座る。
「どうして私がまだ星矢と付き合っているか聞きたいんですよね」
 図星だった。けれどそれなら話は早い。
「そうですよ。星矢さんは咲穂さんと付き合っていて嫌なところもあるけど幸せそうに話してくれました」
「そうですか」
「はい」
 想定外って結構あり得るんだなと彼女の顔を見て思う。付き合った、別れたい。"そうですか"と答える彼女の声は低くく落ち着いて冷静。何の感情も抱かないのかなと思っていたが
顔は笑っていた。感情表現もしっかりと眩しい笑顔で俺にはもったいない。
「星矢くんが咲穂さんあなたに"別れてください"って言ったらあなたはどうしますか?」
 最終的にこれを聞きたかったに違いないのだ。
「彼の言うがままにします」
「ならバイトを辞めてって言ったら辞めるの?」
「それとこれとは違います」
「違くない」
 後ろからさっき聞いた声が聞こえる。耳のついている頭がその声の勢いに押されたような少しふらついた。
 星矢くんだ。後ろに遅れて明日奈が来た。
「というか俺の大切な人に尋問しないでください。失礼です」
 俺は何も言えない。
「何か言ったらどうですか。自分の過ちを認めてください。なにがなんでもやりすぎですし、あなたに言った通り俺はこの半年ぶりの再会を楽しみにしていたんです」
 俺は引き続きなにも言えなかった。ただ彼の姿を見ていて俺は思う。
 "彼こそがきっと彼女の運命の人に違いない"
「咲穂さんよかったですね。こんな素晴らしい人と結ばれるなんて」
 俺は不意にこんなことを口にした。二人にした過ちを正すような状況でもあったから悪い意味と受け止めてしまうかもしれない。
 桜木お爺ちゃんだったっけ、明日奈。桜木お爺ちゃんと彼の想いを受け継いだパンケーキをあげよう。幸せを運んでくれる魔法のスイーツを。
「君たちはきっと幸せになれる」
 咲穂さんの言い分を全て無視した訳ではないがこれは星矢くんのわがままを貫いて二人にとって不平等ではない。だから、
「星矢くんに申し訳ないのですが、咲穂さんに一つ聞きたいことがあります」
 それはなんなのか、俺はなんて言ったのか。大丈夫、二人に絆があるかどうかの単純な質問と誓い。高校生で少し重苦しいし嫌だったかもしれないけれどこれから絶対に幸せになると思っている、心掛けていると感じさせてくれる人にしかこの店の守護の神は対応していない。
 笑っていてほしい。この店に関わった人たちが明日も明後日も明明後日も笑顔で元気に過ごしている未来をどうか、どうか築いていきたい。
 二人は美味しく互いに笑いパンケーキを食べている。二人の様子を見守ることはしないことにした。絶対的な確信がついた。二人の席にパンケーキを運んで入店前までとは比べられない言葉を交わし合っている二人の世界に飛び込むことは嫌だろう。
 半年の我慢、よく耐えた。そして咲穂さん、もう少し星矢くんに付き合ったらどうだろうか。彼はきっとなってくれるに違いない。君を支える最高という言葉では足らない存在・パートナーに。
 "二人であの笑顔を守って"
 
「ちょっと想定外だったわ」
 あの二人が退店した後にレジ打ちを終えた明日奈は俺に言った。
「あんなことできるんだね、大智って」
「そうだね、できるみたい」
 自分でもびっくりした。しかもこれをしようと思った理由が放っとけないと言った単なる個人の感想で個人の価値観。俺は誰かを幸せにできたみたいだ。
「けれど、明日奈の存在も不可欠だったよ。俺一人だけじゃあの咲穂さん多分帰ってた。はっきり言って脈なしな感じがしたし星矢くんがいない間を見計らってきっと」 
 足止めという言い方はよろしくないがまさにそんな感じだった。けれど影ながらのサポートは一つの成功への一つのピースだった。
「いや彼女は彼女でしっかりと彼を認めていたよ。言わなかったんだろう、言えなかったんだろうね」
「それはどういうこと」
「自分の気持ちを打ち明けたい。けれどバイトもしないといけない。校則でできないし、禁止だし駄目なのはわかっているけれど彼と楽しい時間を共有しようとしたらそれぐらいどうってことないってしっかり説明してくれた。私にはわかんないけどこんな彼女さんを男子は大切にしたいんだろうなって思った」
「そんなこと言ってたの」
「そうだよ。で、あのときの尋問って言われてたやつ。あれですごいムキになって私に話しかけてくるからさ。だいぶパニックだったんだね。解放してあげたら一目散に彼女のもとめがけて走っていくんだもん。"咲穂!咲穂!"ずっと言ってたよ」
「なんで気づいてあげれなかったのか」
「本当にね、大智そういうの鈍いよね」
 明日奈がケラケラ笑って俺をからかうようにわざとらしくお腹を抱える。わざとらしく、まさか、そう思って、
「それってなんか俺に気づいてほしいの?」
 空気が凍てつくように固まった。言葉を間違えたか、けれど冷たくはない。セメントかな。なんとなく今ではないようで今だと思った。
「今夜、花火大会見に行かない?」
 凍てつく空気に反し明日奈は頷いた。"いいよ"という声も耳に入った。
 今夜のこともあるがあの二人は本当にこれからだと思った。どこか上手く噛み合わさっていないが各々相手を想い大切にしている行為が見られた。あれだけかもしれない。そういうふうにも思ってしまうがきっと何かあったらあのパンケーキが何か二人の別れ道を繋ぎ合わせてくれる。
 現実でアニメや映画は通用しないけどこれはそうであって欲しかった。
 関係の遮断はないように。これは不要な言葉。