この会社は問題が多い。
会社がパートを雇っているのは、
専務との不倫を奨励するためではない。
当然、人手を必要とするためだが、
商品の梱包以外にも発送伝票の作成を
手書きで行うのは時間がかかり、
書き損じや伝達ミスも発生しやすい。
そんな理由で、管理者の阿畑を介する
確認作業が工程に含まれている。
しかし誰を介したところでミスは生じる。
ミスのない人間なんて存在しない。
手書きにこだわる必要もない。
もう古い会社なので機器の導入も遅れ、
おざなりにした結果といえる。
そんな阿畑が問題を起こした。
と、決めつけるのは良くないが、
阿畑を嫌ったパートたちが
一斉に辞めてしまった。
発端は在庫の不一致であった。
それをパートのせいと決めつけ、
阿畑は自分の責任を無視した。
よくある在庫トラブルだが度々社員や経理が、
愚痴や陰口をパートから聞かされ続けた。
まずこれが根本的に間違っている。
愚痴や陰口で解消する問題など存在しない。
在庫については俺も確認しているが、
注意力に欠ける阿畑を介してはいないので、
原因は別にあると推測した。
もちろん、パートが辞めたくなる要因が
ほかにもなにかしらあったのだろう。
人間関係のいざこざ以外なら、
他所のほうが給料がいいとか?
それならば、遅かれ早かれである。
社員の阿畑と、大勢のパート、
どちらを擁立するかといえば、
会社は決まって社員を優先する。
該当社員に非がなければの前提。
しかし残ってくれたパートの
作業の負担も早めに軽減・解消
しなければいけない。
丸井くんに穴埋めして貰い、
俺がひとりで商品の集荷に回ることになった。
阿畑の仕事量が増える点については、
自業自得と思って貰おう。
パートの募集から採用までは
時間がかかるので、俺はこれを期に
いままでやっていた手書きの発送伝票を廃し、
専用機器の導入を新たにゴリ押した。
社長の悴という外から来た人間が、
権限で現場を混乱させるのはよくある話だ。
発送伝票を専用機器で印字させる作業は、
覚えてしまえば難しくはない。
専門知識や、高額なリース料が必要でもない。
こんな作業はだれでもできる。
パートで伝票を作成していた工程が、
受注担当が伝票を作成するようになったので、
まぁ、渋い顔をされたが、専務に相談して
給与を少し上乗せするようにした。
ありがとう、専務。
そんな業務改善をしたところで
俺の給料が上がるわけもなく、
仕事は増えるばかりだった。
迷惑ついでにもうひとつ。
専務にあるお願いをしたら、
彼まで渋い顔をした。
「僕もこんな卑劣な手段、
使いたくありませんが…。」
俺はスマホの画面を専務に見せた。
専務に書いてもらった例の誓約書の写真。
スマホをひったくって画面に食い入るが、
マムシに噛まれた犬のような顔をして、
とても快く引き受けてくれた。
ありがとう、専務。
いくら相手を信用したところで、
他人は自分の思い通りには動かない。
それならば信用の有無に関係なく、
利害関係で動くように仕向けるしかない。
こうやって出しゃばるので、俺の仕事は
雪だるま式に増加と変化を繰り返す。
増やした仕事で関係各所を連携させるべく、
さらにあちこち回るようになった。
雑用に変わりはない。
◆ 05 重力の井戸 につづく
会社がパートを雇っているのは、
専務との不倫を奨励するためではない。
当然、人手を必要とするためだが、
商品の梱包以外にも発送伝票の作成を
手書きで行うのは時間がかかり、
書き損じや伝達ミスも発生しやすい。
そんな理由で、管理者の阿畑を介する
確認作業が工程に含まれている。
しかし誰を介したところでミスは生じる。
ミスのない人間なんて存在しない。
手書きにこだわる必要もない。
もう古い会社なので機器の導入も遅れ、
おざなりにした結果といえる。
そんな阿畑が問題を起こした。
と、決めつけるのは良くないが、
阿畑を嫌ったパートたちが
一斉に辞めてしまった。
発端は在庫の不一致であった。
それをパートのせいと決めつけ、
阿畑は自分の責任を無視した。
よくある在庫トラブルだが度々社員や経理が、
愚痴や陰口をパートから聞かされ続けた。
まずこれが根本的に間違っている。
愚痴や陰口で解消する問題など存在しない。
在庫については俺も確認しているが、
注意力に欠ける阿畑を介してはいないので、
原因は別にあると推測した。
もちろん、パートが辞めたくなる要因が
ほかにもなにかしらあったのだろう。
人間関係のいざこざ以外なら、
他所のほうが給料がいいとか?
それならば、遅かれ早かれである。
社員の阿畑と、大勢のパート、
どちらを擁立するかといえば、
会社は決まって社員を優先する。
該当社員に非がなければの前提。
しかし残ってくれたパートの
作業の負担も早めに軽減・解消
しなければいけない。
丸井くんに穴埋めして貰い、
俺がひとりで商品の集荷に回ることになった。
阿畑の仕事量が増える点については、
自業自得と思って貰おう。
パートの募集から採用までは
時間がかかるので、俺はこれを期に
いままでやっていた手書きの発送伝票を廃し、
専用機器の導入を新たにゴリ押した。
社長の悴という外から来た人間が、
権限で現場を混乱させるのはよくある話だ。
発送伝票を専用機器で印字させる作業は、
覚えてしまえば難しくはない。
専門知識や、高額なリース料が必要でもない。
こんな作業はだれでもできる。
パートで伝票を作成していた工程が、
受注担当が伝票を作成するようになったので、
まぁ、渋い顔をされたが、専務に相談して
給与を少し上乗せするようにした。
ありがとう、専務。
そんな業務改善をしたところで
俺の給料が上がるわけもなく、
仕事は増えるばかりだった。
迷惑ついでにもうひとつ。
専務にあるお願いをしたら、
彼まで渋い顔をした。
「僕もこんな卑劣な手段、
使いたくありませんが…。」
俺はスマホの画面を専務に見せた。
専務に書いてもらった例の誓約書の写真。
スマホをひったくって画面に食い入るが、
マムシに噛まれた犬のような顔をして、
とても快く引き受けてくれた。
ありがとう、専務。
いくら相手を信用したところで、
他人は自分の思い通りには動かない。
それならば信用の有無に関係なく、
利害関係で動くように仕向けるしかない。
こうやって出しゃばるので、俺の仕事は
雪だるま式に増加と変化を繰り返す。
増やした仕事で関係各所を連携させるべく、
さらにあちこち回るようになった。
雑用に変わりはない。
◆ 05 重力の井戸 につづく