「あーぁ、実験も失敗ですかぁ」

千佐那と雲川丈二のやりとりを遠くからオペラグラスで眺めている志我一衣。

「新城凍真様も手段を択ばなかったという事でしょうか?それにしても、まさか鬼の手を借りるなんてよもやよもやの展開ですわね」

思い描いていた予想としては人間の力、警察関係、最悪の手段として陰陽塾辺りの力を借りるだろうと予想していた。

「けれど、あーぁ、こうして実験を阻まれてしまうと、なんというか、あぁ、うーん、言葉にできない感情が体を駆け巡って興奮しますわぁ」

チクリと首筋に小さな痛み。

「変態」

聞こえた声に振り返る。
欠伸を噛み殺しながら現れた新城凍真の姿に内心、歓喜しつつも警戒を強める。

「驚きましたねぇ、予想としてはここへ来ずに貴方の片腕のところへ行くと思っていましたが」
「アイツの迎えは別の奴に頼んだ。俺は俺で早めにやっておきたいことがあった」
「やっておきたいこと?」

首を傾げながらも志我一衣はオペラグラスの先を新城へ向ける。

「それはまさか、私を封印するとかそういうことでしょうか?だったら無駄な事です。今の貴方は厄介な厄介な厄介な都市伝説怪異を二つも相手をして疲弊している筈。そんな状態の貴方で私を相手にすることは厳しい筈です」
「よくわかっているな」
「えぇ、貴方の事はよぉく調べていますから、推しの事は」
「前の時も気になっていたが俺はお前と面識がない」
「そうですね、直接の面識はありません。ですが、貴方を知っている」

歓喜を秘めた瞳でみられながらも新城は表情を変えない。

「何人、お前みたいな奴を生み出そうとするつもりだ?」
「うーん、しばらくはやめます」

考えるそぶりをしつつくるくるとその場で回転する。

「だって、どれも中途半端ですもの。どれもこれも完全に人を辞めることができなかった。私みたいに完全な人外へ至る勇気も度胸も、覚悟もなかったようです」
「普通、人外になろうなんて考えを持つ方がおかしい」
「おかしい?貴方なら理解してくれると思ったんですけど?人外から常に命を狙われている貴方なら人外に至る力を欲すると」

志我一衣の視線は新城の眼帯へ向けられる。
眼帯の奥に隠されている秘密を探ろうと。

「うだうだと人の過去を詮索する奴は嫌いだ。だから」