「悪いけど」

全身を包み始めるローブの中で僕に近付いてくるノンちゃん。

「僕は恋愛とかそういうのはわからないし、これからわかるかと言われると自信がない。でも、今のこれは良くない事だってわかる。だから、キミの願っている事を邪魔してしまうけれど、僕は」

握りしめていた鏃を僕に向かってサバイバルナイフを振り下ろしてくる彼女の額へ突き刺す。

「僕はキミに人間として生きて欲しいと願う。それが僕のエゴだとしても」
「人間というのは何かをすることに理由を付けないといけないのだな」

気絶したノンちゃんを抱えていると刀を鞘に納めて千佐那がやってくる。

「キミ達からすると変わっていると感じるのかもね。でも、それが人間だからね」
「……だが、お前様はその普通の人間と比べると違うところが多い。だから惹かれたのだろうな」
「あ、ちょっと」

伸びてきた手が僕の頬や体に触れてくる。
ノンちゃんを抱きかかえているから彼女を止める事が出来ずにされるがままになってしまう。

「お前様は私のものだ」
「いや、僕は」
「恋愛がわからぬとお前様は言っていたな。断る理由はそれだけではあるまい?」

彼女の指摘に僕は言葉を詰まらせる。
的を得ていた。
僕は恋愛がわからない。いや、わからなくなってしまった。
きっと、その根底にあるのは。

「忘れられぬ相手がいるのだろう。それがお前様の中でしがみついて離れないのだろうな」
「どう、だろうね」
「だが、いつかはお前様の心を射止めて見せよう。なぁに、妖に年齢はないに等しい。時間はこれからもある」

僕を見下ろしてくる彼女の目は本気だった。
本気で僕を手に入れるって。
言いたくはないけれど、ノンちゃんといい、千佐那といい、僕は変わった人に好かれる運命でもあるのだろうか?

「絶対に逃がさぬぞ。旦那様よ」