手の中のサバイバルナイフをくるくると動かして僕を見る。
その目をみて。

「どうしたの?早くこっちにおいでよ。わたしのものにできないじゃん」
「ノンちゃんさ、気付いている?」
「え?」
「キミ、今、笑いながら何をしているか」
「うーん?」
「キミ、笑いながら死体の頭をナイフで突いているんだよ。それで本当に殺さないって言いきれるの?」
どこにしまっていたのか、ノンちゃんは見覚えのある死体をナイフでざくざくと切り裂きながら笑っている。

自分が狂っているのかそうでないのかすらわかっていない。
人として狂っている。
いや、怪異に染まってきているのかもしれない。

「お前様、わかっていると思うが近づくな。刺すぞ」
「大丈夫。でも、助けたいんだよ。彼女を戻せるなら人間に戻す」

僕の言葉に千佐那は笑う。

「相変わらずお前様は優しいな。そういうところも好きだ」
「……ありがとう」
「ちょっとぉ、人前でいちゃつくのやめてくれるかなぁ?彼はわたしのものなんだけど?」
「残念ながらお前様を渡す事はない。私の旦那様だ」

急に千佐那が僕の腕を抱きしめる。

「あ?」
「貴様はお前様を欲しているようだが、手遅れだな。私が先に手を付けた。お前は旦那様を手に入れることはでき――」
「うるさい」

サバイバルナイフを投擲する。
僕は服の中から十手を取り出してサバイバルナイフを弾く。

「みたか?」
「あ、ちょっと」

身長差があまりないけれど、上から覆いかぶさるように抱きしめてくる。
彼女の温もりと吐息が掛かる。
普通の女の子と違うどこか不思議な香りが僕の周りに漂う。

「私と違って長い時間、一緒にいたというのにこういうことすらしていないのだろう?わかるぞ、貴様は臆病だ。口ではなんだかんだといいながら動けない。臆病者」
「黙れよ。その首を斬り落とすぞ?」
「動揺しているな。所詮、お前は口先だけの女だ。行動を起こせない。そして、目の前で奪われる」