◆
「いいの?」
「何が?」
画面とメモをにらみ合いながら尋ねるユウリに新城は作業を止める。
「雲川の事、細かいことはわからないけれど厄介ごとに巻き込まれたんでしょ?」
「だから優しくしてやれっていいたいのか?そんなことアイツにとって逆効果だ」
「逆効果?」
「雲川は今回の件で責任を感じてはいるが何かしようと足掻いている。そんな奴に優しい言葉をかけるよりやるべきことをやらせて悩むなんて無駄な事に労力を割かせないようにすればいい」
「……雲川の事、わかっているんだね?」
「まぁな、そこ、誤字っているぞ」
「あぁ、ごめん!」
慌てて誤字の訂正を入れてタイピングを再開する。
「悪いな。今回の件に巻き込んで」
ぽつりとユウリに呟く。
「でも、どういう風の吹き回し?そのアンタは、アタシを怪異から遠ざけようとしていたけど」
「今もその気持ちは変わらない」
ユウリの疑問に新城は迷わずに答える。
――人は不用意に怪異へ関わるべきではない。
その考えを彼は変えていない。
「だが、今回は非常時だ。相手が相手で、使える手段はすべて使わないと最悪の事態を招く。必要だったんだよ。それが遠ざけるべき相手だったとしても」
「あの子、アイドルだったんだよね?そんなにヤバイの?」
「中途半端怪異女は敵じゃない。その後ろにいる奴だよ」
「後ろ……凍真は相手が誰か知っているの?」
ユウリの質問に新城は沈黙する。
沈黙は肯定。
だが、彼は相手の名前を言わない。
言えば、ユウリの癒えていない傷を抉ることになると知っているから。
夏休みに遭遇した怪異。
あの時の無力感をユウリは今でも鮮明に思い出せる。
「志我一衣」
「……そっか、あの女か」
一瞬、タイピングの手を止めそうになった。
「冷静だな。もっと怒るかと思ったぞ」
「怒っているよ?でも、アタシ、何にもできないから怒るよりも別の事を考えたいんだ」
「……」
リクライニングシートに座っていた新城は立ち上がるとポンポンとユウリの頭を優しく撫でる。
「あ、わ、なに?」
「別に、お前は成長しているよ。そして」
――良い女になっている。
「え!?」
彼の言葉にユウリはタイピングの手を止めてしまう。
「手が止まっているぞ。おい」
ペチンと頭を叩かれてユウリはハッと正気に戻る。
「い、いきなり、いきなり、凍真が変な事を言うからでしょ!?」
「褒めているだけだ。ほら、タイピング」
「何か、納得いかない」
ぶつぶつと文句を言いながらタイピングを続けるユウリ。
「いいの?」
「何が?」
画面とメモをにらみ合いながら尋ねるユウリに新城は作業を止める。
「雲川の事、細かいことはわからないけれど厄介ごとに巻き込まれたんでしょ?」
「だから優しくしてやれっていいたいのか?そんなことアイツにとって逆効果だ」
「逆効果?」
「雲川は今回の件で責任を感じてはいるが何かしようと足掻いている。そんな奴に優しい言葉をかけるよりやるべきことをやらせて悩むなんて無駄な事に労力を割かせないようにすればいい」
「……雲川の事、わかっているんだね?」
「まぁな、そこ、誤字っているぞ」
「あぁ、ごめん!」
慌てて誤字の訂正を入れてタイピングを再開する。
「悪いな。今回の件に巻き込んで」
ぽつりとユウリに呟く。
「でも、どういう風の吹き回し?そのアンタは、アタシを怪異から遠ざけようとしていたけど」
「今もその気持ちは変わらない」
ユウリの疑問に新城は迷わずに答える。
――人は不用意に怪異へ関わるべきではない。
その考えを彼は変えていない。
「だが、今回は非常時だ。相手が相手で、使える手段はすべて使わないと最悪の事態を招く。必要だったんだよ。それが遠ざけるべき相手だったとしても」
「あの子、アイドルだったんだよね?そんなにヤバイの?」
「中途半端怪異女は敵じゃない。その後ろにいる奴だよ」
「後ろ……凍真は相手が誰か知っているの?」
ユウリの質問に新城は沈黙する。
沈黙は肯定。
だが、彼は相手の名前を言わない。
言えば、ユウリの癒えていない傷を抉ることになると知っているから。
夏休みに遭遇した怪異。
あの時の無力感をユウリは今でも鮮明に思い出せる。
「志我一衣」
「……そっか、あの女か」
一瞬、タイピングの手を止めそうになった。
「冷静だな。もっと怒るかと思ったぞ」
「怒っているよ?でも、アタシ、何にもできないから怒るよりも別の事を考えたいんだ」
「……」
リクライニングシートに座っていた新城は立ち上がるとポンポンとユウリの頭を優しく撫でる。
「あ、わ、なに?」
「別に、お前は成長しているよ。そして」
――良い女になっている。
「え!?」
彼の言葉にユウリはタイピングの手を止めてしまう。
「手が止まっているぞ。おい」
ペチンと頭を叩かれてユウリはハッと正気に戻る。
「い、いきなり、いきなり、凍真が変な事を言うからでしょ!?」
「褒めているだけだ。ほら、タイピング」
「何か、納得いかない」
ぶつぶつと文句を言いながらタイピングを続けるユウリ。