ビルの屋上。
くるくるとその場所でジャックは踊り歌う。
彼女がアイドルだった時の十八番。
誰もがその歌に興奮し、熱狂したもの。
怪異としての姿で歌うには異質なものだがファンが聞けば、誰もが魅了されるだろう。
ファンがいたら。
この場にいるのは彼女のみ。

「……おっかしいなぁ」

ぴたりと急に動きを止める。
やっえきた気配や臭いが彼女の望んでいた人じゃない。
それどころか。

「望む相手がこないとこんなにイライラするものなんだね。初恋って驚きの連続だよ」
「初恋という事については同意見だ。私も色々と驚いてばかりだ」

鞘に納めた刀を持ちながら千佐那。
その言葉に顔を顰めるジャック。

「むかつくなぁ、先に出会ったからって彼の事を知っているぞって態度」
「何を怒っているのかわからないな。しかし、お前が旦那様を狙っているという点は気に入らない」

笑っているジャック。
片や無表情の千佐那。
もし、ここに第三者がいれば気づいただろう。
ジャックが小刻みに足を揺らして、苛立ちを現している事に。
千佐那が握りしめている鞘に小さな亀裂が入っている事に。

「奇遇だねぇ、わたし達、仲良しになれるかな?お前が下でわたしが上だけど」
「冗談はよせ、貴様みたいな醜い奴と仲良くなれるわけがない。何よりお前に旦那様は渡さない」

最初に軽いジャブ。
笑みを浮かべながら沈黙が場を支配し。

「「殺す」」

数秒後、二人の持つ刀とサバイバルナイフがぶつかり殺し合いを始めた。