都市伝説怪異の一つ、ジャック。

――曰く、狙った獲物は逃さない。

――曰く、ジャック・ザ・リッパーと違い男女問わず狙う。

――曰く、相手の命をすぐに奪わず痛めつけてから殺す。

――曰く、ジャックは。

「愛した人ができたらどんな手段を使っても手に入れる……全く、何も知らずに好き勝手打ち込んでしまう。人間は本当に愚かです」

タブレットを眺めながら怪しく笑う志我一衣。
彼女の足元に広がる血の海を見て満足する。

「やはり、貴方を選んで正解でした」

事切れている二人の少女の亡骸を超えながら彼女は佇んでいるジャックに近付く。

「人気アイドル、でもその心は満たされず常に飢えている」

何も言わないジャックの頬へ優しく触れる。

「満たしたいのでしょう?その心を〇〇で一杯に満たしたいでしょう?」
「そうだね」
「だったら……」

悪魔が囁く。

「どうすればいいか、わかるわよね?」

ジャックはシルクハットの下で小さく頷いた。

「心を満たすために雲川丈二を貴方のものにするの」
「うん、手に入れる」

立ち上がるジャック。
満足したように離れる。

「じゃあ、結果を楽しみにしているわ。貴方が本当の意味で都市伝説の怪異として役目を果たすことを楽しみにしているわ」

最後の言葉が聞こえたのか一衣は知らない。
届いていなくても関係ない。
彼女が望むのは結果。
目の前の中途半端な存在が本当の怪異へ至れるのかどうか。
至らなければ次の実験しなければならない。
もし、怪異に至ることができれば。

「その時は仲間が増えて嬉しい、でしょうか」

人から怪異に姿を変えた彼女だが、人間的な感情はほんの少しは残っている。