「え?」

首を振りながら新城は家を指さす。

「あの偽物霊媒師、ド素人も良いところの分際でとんでもない呪術をこの家に仕掛けていたからな。まずはそれを祓う必要がある」
「え!?あの人の悪戯とかじゃないの?」
「それだけなら良かったんだがな。雲川、手伝ってくれ」

新城は小さな瓶を取り出すと、家の隅へ何かを振りかける。

「何をしているの?」
「この家が傷つかない為の措置」
「え、家が傷つかないって」
「話しは後。雲川、準備は良いか?」
「任せて」

混乱しているユメを置いて、事態は進む。
彼女を守るように立つ雲川、家の前に立つ新城は懐から何かが詰まった瓶を取り出す。

「はじめるぞ」

彼が瓶から取り出した砂?らしきものを家へ振りかける。
その途端、悲鳴のような音が響き渡る。

「きゃっ!?」

耳を抑えて座り込むユメ。

「来るぞ!」

新城が叫ぶと雲川は上着をめくり、そこから十手(じって)を取り出す。

「え、あの、ちょっと!?」
「動かないでください」

時代劇でしかみない十手を取り出した雲川に慌てるユメだが、次の展開に叫ぶ。
屋敷から黒い虎が飛び出してきた。

「虎ぁあああああああああ!?」
「はっはー、出てきたな!」

叫ぶ新城が黒い虎に向かって瓶の砂を振りかける。
砂を顔に受けて悲鳴をあげながら虎は地面を転がった。
唸り声を上げながら起き上がると周囲を見渡し、ユメと目が合う。

――あ、ヤバイ。

ユメが本能的に感じ取った直後、虎が鋭い牙を剥きだしにして飛び掛かろうとした。

「大丈夫です」

優しい声が聞こえると共に雲川丈二が前に踏み出して虎の顔面へ十手を突き出す。
十手が虎の眉間にぶつかり、大きな音が響いた。

「グッ!」