「ねぇ、NONEちゃん、え?」

俯いていた彼女が顔を上げる。
今まで強張った表情から一転してステージ上でも見たことがない笑顔を浮かべていた。
男は戸惑いながらもその笑顔に魅入られる。
故に気付かなかった。
彼女の手の中に光り輝くサバイバルナイフが握られていることに。
ヒュンと風を切る音と共に刃が男の首を通過する。

「え?」

ドバドバと斬られた箇所から血が零れだす。
突然の事に男は驚いて手で斬られた箇所を抑えようとする。
しかし、止まることなくあふれ出す血。

「キャハハ」

聞こえた声。
男が見上げるとノンが笑顔を浮かべていた。
正面から返り血を浴びているというのに、その姿は。

「美しい」

それが男の最後の言葉となった。
瞳から光を失って崩れ落ちる男。

「流石ね、これで貴方を阻む者はいない。いいえ、まだやらなければらないことがあるわね」

パチンと志我一衣が指を鳴らす。
ノンの頭上に現れる黒く丸い不気味な塊。
奇怪な音を立てて塊は細長いレースのようなものを広げながら一気にノンへ覆いかぶさる。
黒い波のような衝撃が周囲に広がる中で志我一衣は楽しそうに歌う。

「Happy birthday dear」

衝撃が収まった場所の中心。
黒いモヤを周囲へ放ちながら妖艶に微笑む桜木ノン、否。
それは漆黒のローブを身にまとい、その中はマジシャンが着るようなシャツにズボン、
頭上で輝くシルクハット。
手の中で怪しい輝きを放つサバイバルナイフ。

「Jack」

都市伝説怪異ジャックの誕生を心から喜ぶ志我一衣。

「キャハハ」

彼女の声に反応するようにジャックは怪しく笑う。