何だあれ、あれは何だ?一体、あれはなんなんだ?
最初は歩いていたノンだが、次第に歩きから早歩き、そして走るようになった。
全力疾走で彼女はいつの間にか校舎の人が来ないような薄暗い場所に足を踏み入れる。

「何やっているんだろ?バカみたい」

思いっきり走った所でドラマや漫画みたいに彼が追いかけてくるわけじゃない。
彼は自分の恋人でも友達でもない。
じゃあ、自分と彼の関係は?
考えた所ですぐに答えがでることもない。

「はぁ、困るよなぁ」

自分自身もこの気持ちや今の関係に名前を付けることが出来ないのだ。

「どうしたら」

少なくとも彼に対して好意の感情はある。
だが、彼に隠していることがまだまだあった。

「あらあら、まだ目覚めていなかったのですか」
「誰?」

聞こえた声にノンが振り返る。
黒い日傘で顔は隠れているが、さっき現れた少女だ。

「貴方、一体、何者なの。どうして、わたしに付きまとうの」
「付きまとうとは心外ね。貴方に素敵な力を与えてあげたのに」
「素敵な力?」
「授けたんだけど、どういうわけか貴方はその力をうまく使いこなせていない。いえ、覚醒にすら至っていない」

くるくると日傘を回しながら話す志我一衣の言葉にノンは戸惑う。

「ですから、起爆剤を用意しました」
「え、何を」
「見つけた。NONEちゃん!」

聞こえた声にぞわりと鳥肌が立つ。
あの男だ。
NONEに付きまとう男。
どうして、ここにという言葉が口から出ない。
気付けば体は震え、口は見えない手に塞がれてしまったみたいに動かせなかった。

「あ、あの男はいないみたいだね。探したよ!ライブもイベントもあれから全くないし、いなくなってとても心配したんだ」

気持ち悪い笑顔。
コイツがすべてを台無しにしたというのに平然と話しかけている。