「ジョージ君って、本当に優しいね。聖人みたい」
「僕はそんなすごい人じゃないよ?嫉妬だってするし、怒りもする。ただ、人より起伏が少ないだけ」
「でもさぁ、そんなジョージ君だから」
「僕だから?」
「あーうん、その話はあとで、まずはわたしの話を聞いてほしいな」
「わかった」

僕が頷くとノンちゃんはゆっくりと話を始める。

「実は、わたし、アイドルなんだ。割と有名で色々なところでライブしたり、イベントにでたりとか、毎日がとても充実していた。でも、そんな日常は簡単に壊された」

少し前に現れたあの男。
熱狂的なノンちゃんのファンで自分以外に彼女を推している事が気に入らず周囲を排除した。

「あの男の為にわたしはアイドルをやめることになった」
「恨んでいるの?あの男の事」
「うーん、前にジョージ君が撃退してくれたから少しすっきりしたかな」

にっこりと微笑みながら彼女は僕の手を掴む。

「ジョージ君ってさ」

僕を見上げてくる彼女が近づいてくる。

「その、えっと」

戸惑う様に目が右に左へ揺れる。

「わたしと、さ」

教室のドアが音を立てて開かれた。

「見つけたぞ、旦那様」

誰が来たのだろうか、と視線を向けて驚く。
透き通るような白い肌、青い瞳は光の加減かキラキラと輝いているようにみえる。
額に伸びる角はなく、手入れのされていない長い髪にジャージという格好なのに彼女の美しさは損なわれていない。
今の声に聞き覚えがあった。
でも、この場にいる訳がない。

「探したぞ」
「……知り合い?」
「えっと、まぁ、知り合いです」

やってきた人、否、彼女は鬼だ。
どうしてここにと戸惑いを隠せずにいると彼女――千佐那が無表情で近づいてくる。

「どうして」