何も映さない黒い瞳。
その瞳を見て、何かがノンの体を支配していく。

「あぁ、あれ……」

意識が急に朦朧とし始める。

「仕込みは完了……じゃあ、また」
「あ、ああ、あれ!?」

ハッと再びノンが意識を取り戻すと少女の姿はどこにもなかった。
熱さで頭がやられたのだろうか?
突然の事に混乱する。

「あれ、ノンちゃん?」

呼ばれて振り返ると不思議そうな顔をしている彼の姿があった。

「どうしたの、こんなところで?」
「ううん、何でもないよ。それより」

――さっきの女の子、誰?

静かに問いかけた筈なのにいつもより低い声が出た。

「さっきの子?あぁ、バランスを崩して倒れそうになったから助けただけ」
「本当に?」
「嘘言う必要ないでしょ」
「そうだね、でも、不安なんだ。ジョージ君しか、わたしは頼れる人いないからさ。他にとられないかとか」
「とられるって、そんなことないと思うけど」
「わかっていない。ジョージ君はわかっていないよ。わたしがどれだけ、どれだけ不安を抱えているか」

心の中がモヤモヤする。
何かが喉から飛び出してきそうで気持ち悪い。
先程の光景が頭にこびりついて離れなかった。
気付いたら彼の手を掴んで校舎の中に入っていく。
体育祭という事で教室を利用している生徒は今いない。
空き教室の一つへ彼と共に入る。

「ちょっと、どうしたのさ」

戸惑っている彼の方を向く。
もう少し先にすべきだと思っていたけれど、今のうちに伝えよう。

「最初にごめんね」
「え?」
「わたし、女なんだ」

彼に秘密を明かすことにした。