「いた」

ゲートから彼が出てくる。
全力疾走しただろうけれど、疲れの表情はなさそう。
手を振りながらノンが話しかけようとした時。
反対側から急いでやってきた女子生徒が彼に抱き着いた。

「え?」

突然の事にノンは歩みを止める。
何あれ?
目の前のあれはいったい、なに?
どうして、彼と女が抱きあっているの?
なんで?
なんで?なんでなんで?
どうして彼は突き飛ばさないのか?
突き飛ばして断りの言葉を入れろ。
しばらくして離れていく二人。

「はぁ、はぁ、はぁ、や、やっと、離れた」

心臓がばくばくと嫌な音を立てている。
これはあの時のアレだ。
大事なものが奪われる時の感覚。
自分の大切なものがと壊される。
あぁ、そんなの、そんなのはとても。

「許せませんよね?」
「え?」

聞こえた声に振り返る。
いつの間にかノンの後ろに一人の少女が立っている。
黒いドレス姿で日傘をさしている。

「貴方は……」
「全く、途中で姿を消したからどこへ行ったかと思えば、本当に奇縁ですねぇ」
「何を、言っているの?」

目の前の少女に後退るノン。

「おや?」

ぐいっと近づいてくる少女。

「ひっ」

傘の下から覗き込んでくる相手の瞳を見て、ノンは悲鳴を漏らす。
瞳に色がない。
それどころか目が黒かった。