呆れながら彼は淡い輝きを放っている地蔵へ触れる。

『あぁ、嫌だ、嫌だ!また、眠らされる!?嫌だ嫌だ嫌だ!』
「今度は浄化されるまで起こされることはないさ。ゆっくり、眠れ」

新城凍真が言葉を紡ぐ。
地蔵が強い輝きを放ち、ずるずると鎖に引っ張られてコレクターが地面に吸い込まれていく。

『覚えていろ、逃がさない、オマエハゼッタイニ!ゼッタイニィィィィイィィィ』

恨みの言葉を吐きながらコレクターの姿は完全に消える。

「……この土地に申し訳ないが、しばらく頼むよ。定期的に様子を見に来るくらいは」
「やはり、この程度は貴方の相手になりませんか」

地蔵を撫でていた手を止める。

「成程、今回の騒動はお前が絡んでいた訳か」
「一カ月ぶりですか?元気そうで何よりですね。新城凍真様」

黒衣のドレスに身を包み、スカートの裾を広げて挨拶をする少女。
閉じていた瞳が開き、そこから現れるのは黒い瞳。
吸血樹の力によって怪異となった志我一衣(しがいちい)

「驚いたな。まだ封印されていなかったんだな」

人から怪異になった存在は今の社会において脅威でしかない。
情報は瞬く間に裏の社会等に広まり、志我一衣は懸賞金がかけられフリーランスの祓い屋や賞金稼ぎ紛いの連中が彼女を狙っているという事を新城は耳にしていた。

「人気者は辛いですね。私の魅力にひかれて多くの若者がやってきて」

ぺろりと彼女は舌なめずりする。

「とても美味でしたわぁ」
「おぉ、人外的なセリフ。ジョークと思いたいけれど、お前、本当に食べたみたいだな」

沈黙で彼女は答える。

「それで、今回の件はどこまで絡んでいるのかな?」
「おおよその検討はついているのではありませんか?」
「推測はあくまで推測、本人の口から事実を語ってもらわないとそれは真実とはいえないね」
「成程、そうですね。全部に関わっていると言えば関わっていますが、私が関与したのは都市伝説の力を強めたことでしょうか」
「強めた?」
「貴方もご存じでしょうが都市伝説怪異は人の言霊で力を増す厄介な存在です。少し前まで都市伝説は言霊によってその力が強まり猛威を振るっていました。ところが、今は人による言霊は弱まり、都市伝説怪異は少し前のような力はありませんでした」

と、こ、ろ、がと彼女は嗤う。