「雲川!僕と勝負だ!体育祭の徒競走、それで僕が勝ったら彼女は僕のものだ!」

どうしてこんなことになっているのだろう?
体育祭の準備をしている中、僕に向かってビシッと指を突き付けてくるのは別のクラスの男子生徒。
陸上部に所属していてクラスの人気者。
そんな彼が僕に指を突き付けて勝負を挑んでくる。
理由はわかっている。
僕の後ろで困った表情をしているノンちゃん。
周りには何事かと野次馬が集まっている。

「まず、キミは誰?」

僕は視線が集まってくるのを感じながら目の前の相手に問いかけた。

「あぁ!?俺の事を知らないって!田仁志(たにし)だ!別のクラスで陸上部!」
「そう、田仁志君、悪いけど、ノンちゃんはものじゃない。彼女を景品扱いするなんて失礼じゃないか?」
「なっ!?」
「ふざけてなんかいない。僕はキミの事を知らないけれど、キミはとても失礼だ。そういう無礼な相手と競い合う事なんてしたくない」

田仁志君はみるみる顔が赤くなっていく。
スポーツマンなのに沸点が低いらしい。
いや、競い合うから血の気が多いのかな。
どうでもいい事を考えているとズカズカとこちらに近付いてくる。

「お前、ふざけるなよ!」
「ふざけてはいない。僕は体育祭の準備があるんだ。くだらない話をまだ続けるなら悪いけど、話はここまでだ」

掴もうとしてきた手を弾いて僕は彼に話は終わりだという。
いつも以上に冷たい声になっているのは苛ついているからかもしれない。
だって。

「ふざけるなよ!お前が、お前が、お前さえいなければくるみちゃんは不登校にならなかったんだよ!お前みたいな陰キャが!」
「今の話とそれは関係あるのか?」
「ヒッ!?」

今の僕は自分が思っている以上に苛ついているんだと思う。
目の前の彼が酷く怯えているのはきっと、僕が怒っているからだ。