「気持ちの良い目覚めではないな」

新城凍真は自室で目を開ける。
すぐ傍に置かれている時計へ目を向けようとして、気配を感じた。
吐息が掛かる程の距離で新城を見つめている怪異。
只の怪異ではない。
都市伝説において有名の一角を担っている存在“コレクター”。
コレクターが新城を見つめている。
天井に張り付いているというのに、纏っているドレスは捲れず引力に逆らっていた。

『おはよう、良い朝だねぇ』

普通の人間が聞けば「きしししし」と何を言っているかわからないだろう。
だが、新城の様に怪異に対抗する力を持つ者は都市伝説怪異の言葉が理解できる。

――ねぇ、知っている?
――早朝にコレクターと目を合わせたら死ぬんだってぇ。

「良い朝ねぇ、普通の人がお前の顔を見たら即死コースだろ」
『貴方は死なないのね』
「そりゃ、対策施しておりますから」

怪異、特に新城が警戒している都市伝説の怪異に油断や慢心は死に繋がる。
眠る際も部屋の至る所に身を守る為の術をいくつも用意していた。

「(尤も、用意した術式の半分が破壊されたのはキツイよな)」
『素敵ィ、ますます、貴方が欲しくなっちゃった』
「断る、諦めて去れよ」
『い、や、だ』

笑顔、力のない人間からすれば恐怖そのものの表情を向けられて辟易とする新城。
瞬きをしている間にコレクターは姿を消す。

『ま、た、来るね?』

嬉しそうな声を残すコレクター。
完全に気配がなくなった事を確認してからゆっくりと新城は体を起こす。

「三日連続来るって、怪異は本当に暇なのか、執念なのか」

――都市伝説、コレクター。
――その存在は十年以上前にネットの海に書き込まれた存在。
――気に入った相手を拉致、連れ去る女性。
――上半身は長身の女性だが、下半身は人ならざるもの。

ネットの海で様々な情報が飛び交い、いつからか下半身は蜘蛛のようなものと噂されている。

「本当にネットの海の怪異は嫌いだ。書かれた事が宿り強力な力を持つようになる」

今回の怪異がコレクターだった事が救いだろうか?