今まで色んな怪異と対峙してきたけれど、捉えきれないスピードを持つ相手は初めて。
動揺している僕の前で新城は冷静にコレクターを見上げている。

「新――」

動くな、と手で新城が制してくる。
指示に従わなければならない以上、僕は踏み出すことができない。

「キシシシシ」

コレクターが言葉を発した。
機械音声みたいなもので何を言っているのかわからない。

「そうか、女子生徒に手を出さないんだな?だったら俺達がアンタに手を出す理由も」
「キシシシシシ」

伸ばした指先が新城へ。

「あ?」
「キキキキ、シシシシシ」
「いや、待て、なんで、そーなる?」
「キシシシシ、キ、キシシシシ」

あの変な声を新城は理解できるらしい。
ただ、様子が変だ。
何やら焦っているような。

「キ、キ、キ」
「あ、こら待て!」

新城が慌てて手を伸ばすも風が吹くとコレクターの姿はどこにもない。

「えっと、成功」
「ンな訳あるか!あの野郎!なぁに抜かしてやがるのか!」

怒り心頭で地団駄を踏んでいる。
あの会話の流れを想像でしかないけど、新城の予期せぬ事態が起きているみたいだ。

「とにかくコレクターがあの女子生徒を襲う事は一応、阻止が出来た」
「それなら良かったって終わる話だけど、それだけじゃないんだよね?」
「あぁ……ったく」

新城が先ほどの内容について教えてくれた。
コレクターと交渉した際、彼女はあっさりと女子生徒を狙う事をやめてくれたという。
問題はその後、どういうわけかコレクターは新城を気に入ったという。
気に入って、狙いを新城に変更したらしい。
また、近くに来るといって呼び止める暇もなく消えた。

「それって、マズイんじゃないの?」
「いや、どちらかというと他に被害者がでないからコイツに集中できる。しばらくは他の怪異については対応できないけどな」