春の訪れとともに帝国全土に戦の風が吹き始めた。

 発端は帝国南部のルアベーズ伯爵領だった。この地は先年の霜害で大打撃をこうむっており、深刻な飢餓状態に見舞われていた。
 この地を治めるルアベーズ伯爵は、領地を代官に任せきりにし、本人はヴィスタネージュで遊び暮らす典型的な放蕩貴族であった。そして領地の惨状を知らぬ彼は、代官の忠告も聞かず例年以上の酷税を課すことを決めてしまった。

『今年は盛大なパーティーをいくつも開かなくてはならん。前年のような税収では困るぞ』

 代官をはるばる帝都まで呼び出し叱りつけた伯爵の言葉は、程なく領民たちの知るところとなった。

『生まれてこの方、領地に足を運んだことすらないボンボンが何を行ってやがる!』
『貴族様のパーティーのために俺たちは死ねっていうのか!?』
『冬を越せずに死んでいった子供たちが浮かばれねえ!』

 声高に叫ぶ彼らは武器を取り、領主に抵抗する道を選んだ。

 そしてこれが皮切りとなった。同じような境遇に見舞われていた各地の農民が次々と立ち上がったのである。ルアベーズ蜂起からひと月経たぬうちに、全土13箇所で農民の反乱が発生した。

 これに便乗したのが、旧クロイス派貴族たちだ。
 彼らにしてみれば、新体制は不安定なほど都合が良い。政府から追及されていた不正蓄財の証拠隠滅も兼ねて、多額の軍資金が武装農民たちに流れていった。

 大貴族の中には、新政権の直接的な打倒を目指し、挙兵するものまで現れた。クロイス事変直前に、顧問アンナによって解任された元財務大臣ベリフ伯爵がその代表例である。
 こうして、本来ならば敵同士となってもおかしくない、農民反乱とクロイス系大貴族の、奇妙な共犯関係が築き上げられたのである。

 顧問アンナも皇弟リアンも、決してこの状況を望んでいたわけではない。だが情勢は、すべて彼女たちの予測通りに進んでいた。

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