最後の大会の幕が開く。私の隣には、見違えた表情で立つ彩羽が居た。彼女と目が合えば、彼女は強気な笑みを浮かべて、私の肩を小突いてきた。
「頼もしい後輩も入ったし、心強い相方もいるから、もう怖くないよ」
「そりゃあ良かった」
 緊張は交えてはいるけれども、自信に満ちた声色に、自然と口角が上がったのが分かった。
 あれ以降、彼女は無茶をしなくなって、少しずつ心に余裕を持ち始めた。そんな彼女を、私は支えられていたのなら幸いだ。実力もどんどん上がっていく彼女を見て、悔しいとか思ったことがない、というのは少し嘘になる。

 力のある、向こう側にいる人は、自分の存在が揺らぐから、やっぱりまだ少し怖い。沢山努力して、それでも彼女に追いつけなくても。彼女と共に、光あふれた音の世界で呼吸ができるのであれば。私はそれでいい。


「私、言い切れるよ。『彩羽がやってきたことは間違ってない』って」
「え?」
「周りはどう言うかは関係ないし、私にとってはどうでもいい。私が言ってるのは、他の誰でもない彩羽が自分で選んできたこと」
 茉白は真っすぐと私を見る。その表情から、緊張の気配がだんだんと薄くなっていったのが分かる。
「彩羽が頑張ってきたことは絶対に正しい」
「……ありがとう」
 安堵のような笑みを浮かべた彼女の表情につられるように、私も小さく笑みをこぼす。
 私は、これからも彼女の隣に立ち続けていたい。

「もし、もしもだよ? 無いとは思うけど、ここで終わっても……」
「大丈夫、忘れてない。二人でもっと吹き続けていこう」
 こっそりと手を握るように、互いの小指が絡まった。