彩羽が、大会の結果が自分のせいだというのなら、私にだって大きな非があるんじゃないだろうか。自分より確かな技術があって、周りから頼りにされているのを遠目で眺めて、自分とは関係ないと思い込んでいた私こそ、彼女を追い詰めた原因だったんじゃないか。

 彼女に背負わせたのは、私のせいじゃないのか。

 この世には線引きがある。恵まれた才能と精神を持った人間と、そうじゃない人間。私はおろかにも、自身もそちら側だと思っていた。実際、そんなことは全く無かったわけだが。


 ふ、と閉じていた瞼を開くと、背中から熱が伝わってきた。感触的に、彩羽が頭を押し付けてきているのだろう。
「彩羽ごめんね」
 眠っているであろう彼女に向けて、ぽつりと言葉がこぼれた。ずっと言いたかったけれど、言うのが許されていなかった気がした謝罪の言葉。本当はちゃんと向き合って言うべきなのだろうに、弱い私は独り言のようにつぶやくだけだ。
「彩羽は才能があるからって勝手に楽観視して、頼りっぱなしにして、こんなに苦しめて。――私ね、彩羽が好きだよ。でもお前といると何でかすっごい苦しくてさあ。彩羽を見てると自分がほんとに弱く見えて」
「……うん」
 後ろから聞こえた返答の声に驚いて、思わず首だけをひねって後ろを確認する。彩羽は変わらず私の背中に額を預けていて、起きているのを証明するように私の服を掴んできた。
「……起きてんじゃん」
「茉白が本音を言うの、初めてだから。聞こうと思って」
 ぐりぐり、と額を押し付けてきた。続きを言えとせがんでいるようにも思えた。しばし彼女のつむじを眺めてから、私はさっきまでと同じ姿勢に戻る。

「そんなに苦しいなら、辞めちゃえば。何回も言おうとした」
「うん」
「部活はあくまで部活なんだし。趣味なようなもので、無理やりやる物じゃない。嫌ならやめればいいじゃん、それか少し休めよって、言えたらよかったのに」
 あの日とは真逆のようだ。ぽつぽつと呟く私の言葉に、彩羽は静かに相槌を打つ。
「でも、言えなかった。もしその言葉に頷かれたらどうしようって思って。私はきっと受け止めきれない。本当は辞めないでほしい。でも無茶して倒れて勝手に居なくならないでほしい。隣に居続けてほしい」
 小さく息を吐いて、少しだけ早く動く心臓を落ち着かせるよう、ゆっくりと息を吸う。吸った息をそのまま言葉にするように、ポツリと口から本音がこぼれた。

「私はもう、お前が隣にいないとまともにトランペットを吹けやしない」
「じゃあ私を見張っててよ」
 久しぶりに聞いた、彼女の柔らかい声色だった。腹に腕を回されているから、振り返って表情を読み取ることはできないけれど、彼女がほんのりと優しい笑みを浮かべているであろうことは、察することができた。
「まずは大会まで。その後、大会が終わっても、二人で演奏やってこ?」
 私の顔の前に、小指が立てられた手が伸ばされた。回された腕をほどかれて、私はゆっくりと同じように小指を立てて、彼女の小指に私の小指を絡めた。

「約束」

 揃った言葉に、静かに自分の頬に涙が伝っていくのを感じた。
 後はただ、早く朝が来てやってくれと、願うばかりだった。