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あの嵐のような出来事から、早いもので半年が経ちました。

わたくしは変わらず、灰色の霧が立ち込め朧月を背負うバートランド城に棲んでいます。

変わった出来事といえば、わたくしの貧血が治ったことでしょうか。
わたくしはこの半年、定期的にスアヴィスの血を一滴だけ貰っています。そのおかげか、体には常に力が満ち、肌艶もずっと良くなったのです。

それでも幼い頃からの習慣は抜けないもの。
隣から差し出してくれる、飲み慣れた真っ白な牛乳を、美味しくちびちび啜るのです。

「…はあ、美味しい。やっぱり搾りたてが一番ですわ。」

「………。」

ホッと一息ついていると、そばに控えるスアヴィスが無言でこちらを睨んできます。
正確には、わたくしに牛乳グラスを差し出してくれる“女の子”に対して。

「えへへ、これわたしが頑張って、乳牛から搾ってきたのよ!」

「…小娘。貴女はなぜ未だにこの城に居座っているのでしょう?」

スアヴィスの燕尾服の裾が、うぞうぞとラクリマに迫ります。
しかしラクリマが、手にした瓶の聖水を振り撒くと、大きな蝙蝠の羽は小さく悲鳴を上げて引っ込んでしまいました。

「当然でしょう!貴方みたいな裏ボスと二人きりにしておくなんて、大伯母様が心配すぎるわ。
だからわたしもここに住むって、何度も言ってると思うんだけど?」

高らかに宣言するラクリマ。その逞しさはとても素晴らしいのですが、相対的にスアヴィスがどんどん顔を恐くしていくので、板挟みのわたくしは生きた心地がしません…。

そんなわたくしの膝の上に、白くもふもふしたものが顎を乗せました。

「…あら、ニクス!」

「ワン!」

ニクスは「撫でて」と言いたげに、鼻先を押し付けてきます。

「…ふふ、あなたもわたくしを気にかけてくれるのね。」

わたくしはニクスのまあるい頭の毛並みを優しく整えてやりました。


ラクリマとニクスは、あの出来事以降も城に留まっていました。
一族の悲願は達成され、もうここにいなければいけない理由もないのに。
どうして?と問うと、ラクリマは明るい笑顔で「もっとレギナさんのことが知りたいからよ」と言ってくれました。

好奇心旺盛な彼女にとっては、旅の中で出会った興味のひとつかもしれない。
けれどわたくしにとっては、生まれて初めてできた人間の友達だったので、

「……ありがとう、ラクリマ。」

彼女のくれる優しさの一つ一つが、どれも懐かしの太陽のように、眩しいのです。