この日私が注文したのは、生ビールと焼き鳥の盛り合わせ。
つくねにねぎまにレバーにモモ。全部塩で。
添えられた柚子胡椒も、疲れた胃に負担をかけすぎず労いの力を与えてくれる。
「んん…おいひぃ……。
…あ、ビールおかわりください。」
「はいよ。」
ビールをいつもよりハイペースで空けると、今日も良い感じに酔いが回ってきた。
まだ手持ちの大ジョッキには、ほんの少しお酒が残っているけど、すぐに飲み干してしまうから早めに次を注文する。
「月見さんは酒強いんだな。
気持ちの良い飲みっぷりだから、こっちまで喉渇いてくるよ。」
新しい大ジョッキを差し出しながら、冬至さんが少し嬉しそうに言った。
「父が青森の人で、母が沖縄の人なので、その血を受け継いだのかも。」
「…すげぇ。サラブレッドだ。」
「へへ。それが仕事で役立ってて、上司からも“営業は飲むのが仕事だ!”って言われました。」
今こうして冬至さんのご飯を美味しく楽しく頂けている。お酒が飲めなかったらこんな出会いも無かったから、私の酒豪ぶりはきっと意味があったのだ。
「じゃあ、そのうち日本酒や泡盛にも合う飯を出してやるよ。飲める?」
「はい!もちろん!!
うわぁ、楽しみだなぁ!」
「けど、無理は禁物だよ。特に疲れてる時は、大好物でも我慢しなくちゃな。」
そう言うと冬至さんは、お酒ではなく小ぶりなお皿を出してくれた。
その料理は、ふっくらとした三角おむすび2つ。お米には刻み大葉やおかかが混ぜ込まれていて、見ただけで絶対美味しいやつだと分かる。
「わあ…!」
それだけじゃない。次に漆塗りのお椀が出て来た。
中身は、色んなきのこが入った白味噌のきのこ汁。疲れた体にこの組み合わせは…!
「美味しそうっ!受験の夜食を思い出す!」
「サービスするから、いっぱい食べなよ。」
「え!?
…い、いえ!ちゃんとお金払います!」
昨日もご馳走になったのに、こんなしっかりめの食事までいただくわけにはいかない。
「これは俺からのお礼というか、約束のご褒美っつーか。まあそんなとこ。」
「…私、何かしましたっけ?」
「常連になる約束。
月見さん、ちゃんと守ってくれたろ?」
昨日のアレのことか。ほろ酔いの勢いに任せて、大江山の常連になると約束した。
約束は約束だ。それに私自身、お酒と、冬至さんの作るご飯と、何より冬至さん本人を楽しみに24時間頑張ってきたんだ。
だからむしろご褒美を貰いすぎな気がするのだけど…そんなことを常連2日目の客が言うなんて引かれるかもしれないから、黙っておく。
「…あの、冬至さん。昨日の…、」
「ん?」
昨日の出来事を思い出す中で、私の視線が無意識に、冬至さんの額へと注がれる。
それに気づいた彼は、巻いていた手拭いをあっさりと外した。
そこにはやっぱり。
南部鉄器に似た質感の、小さな角が二本。
「酔い夢なんかじゃなかったろ?
俺は鬼だよ。」
冬至さんの悪戯っぽい笑みも相まって、私の心臓がドキドキうるさくなる。
「鬼って、令和の時代にもいるんですね。
なんか感激。」
我ながら酔いどれ頭を捻って出た返答がそれかい。
「ああ、いるよ。妖怪って呼ばれたものは。
ただ少しずつ形態を変えてるだけ。」
冬至さんはごく自然な話しぶりだ。
でも、鬼だなんて。妖怪だなんて。
シラフなら真っ先にお店から逃げ出したかもしれないけど、酔いが回った私は椅子から立つことはない。
だって、おむすびもきのこ汁も、まだ美味しそうに湯気を立てているんだから。
「んじゃ、月見さんの飯の肴に、俺が面白い話をしてやろうか。」
お酒は一旦おあずけ。
ほかほかのおむすびを口に運びながら、私は夢見心地で冬至さんの話に聞き入る。